B2B Compass
前回の記事では勘や経験に頼らない、データを元にした営業戦略策定の重要性について述べました。今回は、「では、どのようなデータを活用して営業戦略を策定すべきか?」に焦点を当てたいと思います。
データを活用して営業戦略を策定するということは、複数の情報ソースからデータを取得・統合し、高度な洞察を組織内で共有するということです。このデータの取得や統合という作業が、実は非常に煩雑な作業です。ただ、データの統合・クレンジング・リッチ化をほぼ自動的に行える最新のアプローチをとることで、こうしたデータ管理のハードルは解消されます。
この記事では、営業プロセスの短縮や競合優位性の確立といったビジネス拡大にむけて、どのようにデータの「精度」や「鮮度」を管理すべきかについて、説明いたします。
ユーソナー株式会社が独自に行った2024年発表の最新調査によると、新規市場の開拓を積極的に行っている企業の約7割が、顧客情報をはじめとした何らかのデータを活用していることがわかりました。
【BtoB調査レポート】「市場開拓」におけるデータ活用の実態調査 | 資料ダウンロード
その反面、調査対象企業の約半数が自社の市場シェアをしっかり把握できておらず、強みを活かせる市場を特定できていない傾向にあることもわかりました。
また、2024年2月にHubSpot Japan株式会社より発表された第5回「日本の営業に関する意識・実態調査2024」によりますと、「データを活用するうえで困っていることとしてあてはまるもの」として「データ活用できる人材がいない・少ない」「営業部署内のデータが適切に管理されていない」「他部署とのデータ連携が進んでいない」などの課題が挙げられています。
近年、営業分野でもSFAやCRMなど様々なデジタルツールの導入が推進され、企業の営業効率は上昇傾向にあるかのような印象を受けますが、実態としてはデータの管理や連携に数々の課題が残っており、多くの企業では営業部門の従業員が気軽にデータを使える環境とは言い難い状況が続いている、と認識しています。
つまり、まだまだ多くの企業において、顧客データに有益な情報が入っておらず、「ここが良さそうだ」と直感に頼って訪問した先で無駄な時間を使ってしまう非効率的が発生していると受け止めています。
また、「このような顧客にこのようなアプローチをして成約に結びついた」という情報が担当者間やチーム間で共有されておらず、各人のセンス任せとなっていては、同じような非効率が繰り返され、成約まで至った成功体験が無駄になってしまっている。そのように懸念しています。
顧客データの属性や最新のステータスが適切に管理されていれば、アプローチする先や方法をデータに基づいて絞り込むことができ、順番を決めずにリストをやみくもに当たって行くといった方法を変え、優先順位が高い顧客から接触することができます。
ただし困ったことに、データは必ずしも「キレイな状態」で保管されているものではありません。例えば、社名情報だけを例にとっても、以下のようなことが起こり得ます。
• 経営統合やブランディング強化を目的とした名称変更が発生し、顧客の名称が古くなる
• 情報更新のタイミングが新しいデータが「最新の(正しい)データ」として扱われてしまう
• 顧客名の略称が一般的に浸透しており、部署や人により正式名称と入力情報がバラつく
このような管理から容易に想定されるのが、「データの質の混乱」や「データのサイロ化」です。顧客データ管理で陥りがちな課題の代表格です。データが部署やシステムごとに分断され、あちこちに散らばり、他部門から利用できない状態では、データが入っているシステム全体が使いにくく、正確なデータ分析にも時間がかかり、ビジネスチャンスを失うことにつながります。特に日本の企業ではまだまだ縦割り組織が多く、各部署の独自ルールでデータ管理をしてきたため、社内のどこに「正しいデータ」があるかがわかりにくい企業が多い、と言われています。
ではデータの混乱や分散、分断を防ぎ、扱いやすくするために必要な作業とは何でしょうか。ユーソナーによると、それは「整理」「峻別」「更新」の3つだといいます。 企業名における処理を例にすると、具体的には、下図のような作業プロセスが発生します。
データを「整理」「峻別」「更新」し、「キレイな状態」で統合管理できる環境を作ることにより、自社内の顧客データに対する信頼やアクセシビリティが高まります。ひいてはシステムの維持にかかる管理コストを抑えることにもつながります。
また、データを統合管理することで、自社内のデータだけではなく、より多くの外部データを付け加えやすくもなります。自社だけでは持ち得ない情報属性を付加することにより、顧客のインサイトを深堀りしやすくなり、より具体的な営業戦略を策定することにつながるのです。
ここで、最初に立ち返って、仮に顧客データを使わずにアプローチ先を探す場合を考えてみましょう。例えばデスクリサーチによりターゲット先とする企業を調査する場合。この場合、会社概要や沿革、関連ニュースなど、企業の「現在地」を把握することができますね。しかし、現在に至るまでの背景や経営層が抱えている課題といった「過去」から現在へのつながり、現在から「未来」への 志向といった「時間軸」で理解することができるかは、情報が見つかるか次第であったり、見つけるまで結構な時間がかかったりしそうです。とくに法人営業を推進するにあたって不可欠とされるBANT(予算・決裁権・需要・導入時期)をデスクリサーチで得られることは、ほぼないでしょう。これらを可視化するには、とにかく商談の現場で多くの情報を集めるしかないということになります。
一方、顧客データが正確にそろっている場合を考えてみるましょう。前述のような基本情報が事前にそろっているという段階から営業活動を始めることができます。さらに取引先や商談の情報に対してリード情報を名寄せすることができるため、例えば業種や企業規模に応じて成約率が異なる場合、成約率が高い傾向にある条件に絞り込みリスト抽出しアプローチする、といった戦略を立てることができます。
また、顧客データが正確であれば、さきほどのようなデスクリサーチも生きてきます。対象企業が発信している様々な情報を集約し、顧客データ側の関連性の高い情報と紐づけることができます。すると、企業活動の因果関係を時間軸のなかで読み解くことで、ニーズの内容や緊急度などBANTに関する推察が可能となってくるのです。さらには、関連するニーズがどの部門に潜在し、その部門はどのような投資を進めているかを事前に把握することができれば、B2Bの営業効率は飛躍的に向上するでしょう。
このように見てくることで、顧客データのキレイさが、その後の活動の効率性、成果を生む大前提であることが、ご理解いただけるのではないでしょうか。
最近では、AI、機械学習により、顧客データに受注確度を判断できる情報を付与することで、確度の高い見込み客を抽出し、成約率を向上させるといった取り組みも増えてきています。これらの高度な取り組みも、すべては「キレイな顧客データ」が出発点となっているのです。
周知のとおり、「物流2024年問題」に代表されるように、物流・運送・建設といった業界で働き手の時間外労働に関する規制が始まっています。限られた労働時間のなかで成果を最大化させることが、改めて重要な日本の社会的な課題となっています。この流れは今後、多くの業界に波及するものと思っています。
ここ数年、営業領域においては、コロナ禍の影響で失われた顧客との接点づくりの機会を、自社の顧客データベースを活用して回復しようというトレンドがありました。しかし2024年の現在は、日々の業務生産性を高めるためにさまざまな取り組みが進んでいるなか、いかに自社の顧客データベースを整備し活用するかが重要なポイントになってきています。
散在するデータを最新の状態で統合し、また継続的に更新できるような環境の構築は上記のような社会潮流に適応しながら企業活動を円滑に進めるというより高次元な経営課題を解くうえでも不可欠な要素となってくるでしょう。
株式会社電通 第8マーケティング局B2Bマーケティングコンサルティング部 B2Bマーケティングコンサルタント
梅木 俊成
マーケティング部門、営業部門を経て2020年より現職。2012年から半導体、マテリアル、IT系商材、PCやスマートフォン等100社以上の国内外におけるB2B事業におけるコンサルティング及びブランド戦略とデマンド戦略を中心に担当。顧客購買データ分析を起点にオンオフ施策やMA/SFA/CDP等のDXツールの導入、インサイドセールス、カスタマーサクセス体制等の組織構築支援を行う。電通グループ横断プロジェクト「電通B2Bイニシアティブ」主宰。