感覚だけでは勝てない!旭化成・旭化成ファーマが実践するデータドリブン文化(前編)ー電通B2Bイニシアティブ

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感覚だけでは勝てない!旭化成・旭化成ファーマが実践するデータドリブン文化(前編)

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旭化成ファーマは、医療用医薬品の製造販売を行っている企業です。

DXを積極的に推進しており、「Pharma DIGITAL(ファーマデジタル)」といった医療関係者向けWebサイトの取り組みにより『NIKKEI BtoB マーケティングアワード』の2022年度大賞を受賞しました。

データドリブンマーケティングの最先端を走る同社の取り組みとはどのようなものでしょうか。

今回は、旭化成ファーマでデータドリブンマーケティングを推進し、現在は旭化成株式会社デジタル共創本部 CXトランスフォーメーション推進センターのセンター長である石川栄一(いしかわ えいいち)氏と、旭化成ファーマ株式会社医薬営業本部で「Pharma DIGITAL」を担当されている桐山泰明(きりやま やすあき)氏に、同社におけるデータドリブンマーケティングの取り組みについて、電通B2Bイニシアティブのサブリーダーである太田と唐澤がお話を伺いました。

前半にあたる本記事では、旭化成ファーマにおけるデータドリブンマーケティングの概要、マーケティングと営業(MR:医薬情報担当者)の連携のカギなどをご紹介します。

PROFILE

旭化成株式会社 デジタル共創本部 CXトランスフォーメーション推進センター センター長 石川 栄一

旭化成株式会社 デジタル共創本部 CXトランスフォーメーション推進センター センター長

石川 栄一

PROFILE

旭化成ファーマ株式会社 医薬営業本部 デジタルマーケティング プロジェクトデジタルコミュニケーショングループ グループ長 桐山 泰明

旭化成ファーマ株式会社 医薬営業本部 デジタルマーケティング プロジェクトデジタルコミュニケーショングループ グループ長

桐山 泰明

PROFILE

電通国際情報サービス 製造ソリューション事業部 製造営業第3ユニット オートモーティブ営業4部 太田 直樹

電通国際情報サービス 製造ソリューション事業部 製造営業第3ユニット オートモーティブ営業4部

太田 直樹

PROFILE

電通 出版ビジネス・プロデュース局 デジタルコンテンツプランニング部 アソシエイト・プランナー 唐澤 和

電通 出版ビジネス・プロデュース局 デジタルコンテンツプランニング部 アソシエイト・プランナー

唐澤 和

医薬品業界に根づくデータドリブン文化

唐澤:旭化成ファーマ様では、データドリブンなマーケティングを行っていると伺いました。具体的には、どのようなデータを扱っているのですか?

石川:旭化成ファーマで扱っているデータでは、国内の医師32万人、および全医療機関にコードが附番されていて、医師については専門医の取得状況や卒業大学、卒業年といった情報、医療機関については病床数や診療科、救急体制、保有する施設設備、患者数などの情報を入手できます。

また、顧客情報だけではなく、競合品や市場データも活用しています。こちらのデータは、全国をほぼ網羅しており、「どの医療機関に、どの薬が、いつ(月単位)、どれだけ納入された」といったことを把握できます。

唐澤:そこまでやられている事例は、他にはあまり聞いたことがないですね。

石川:製薬業界では、弊社に限らず多くの企業がデータドリブンマーケティングを実践していると思います。顧客情報や市場データに基づきデスクトップリサーチを行い、仮説を立てて市場調査を行うといった習慣が業界全体に根付いています。大手の製薬企業には、国内だけでリサーチャーが10名ほどいて、年間1人あたり50件ほどの市場調査を行うとお聞きしたことがあります。

太田:製薬業界ではデータの活用が進んでいるということですが、貴社でもかなり前からデータの活用に取り組んでいたのでしょうか?

石川:弊社が最初に顧客情報を収集し始めたのは、1995年でした。おそらくベテランの人にしかわからないと思いますが、PDA(Personal Digital Assistant)というポケット型端末に顧客データを入力しはじめたのが発端です。その後、2000年にSFAを導入しました。

ただし、弊社だけがCRM(Customer Relationship Management:顧客管理システム)やSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)を導入していたわけではありません。製薬業界全体に、以前から顧客情報を集める文化がありました。

コロナ禍以降加速したマーケティングのマルチチャネル化

太田:他社の売上状況などもデータで把握できるのでしょうか?

石川:わかります。先ほどお話しした医療機関に紐付く売上情報は、外部のデータ会社から購入することが可能です。また、処方箋や診療明細情報、病院の電子カルテの集計データも販売されており、性別比率や年齢区分、合併症といった患者さんの情報に加えて「どのような薬が、どれぐらい処方されているのか、継続率はどうなっているのか」といった情報が得られるため、自社製品の戦略立案に際して活用しています。

太田:医師ごとにクラスター分けを行って、優先順位を付けることも可能なのでしょうか?

石川:医師単位でのFactデータ(処方や治療実績)はありませんが、調査会社が実施したシンジケート調査データ(医薬品のプロモーションや認知・処方状況、処方患者数、MRの評価など)を活用しています。また、学会発表や論文投稿の状況もデータ化されているため、ターゲットを選定する際に非常に有効です。

唐澤:MR(医薬情報担当者)の方の活動以外にも、データを活用したマーケティングを実施されているのでしょうか?

石川:近年は、Webサイトを活用したインターネットプロモーションも浸透してきています。製薬業界のMRの数は2013年の6万5,000人をピークに減少し、現在は4万9,000人となっています。

2010年台の初頭まで、医薬品プロモーションのメインチャネルはMRでした。その後、製薬企業各社は、インターネットプロモーションを積極的に展開するようになりました。ただし、急速に浸透したわけではなく、ネットに親和性の高い層を中心に徐々に浸透していったと記憶しています。

しかし、新型コロナウイルス(以下、コロナ)が蔓延して、2020年の4月に緊急事態宣言が発出されると状況が一変しました。製薬業界では、プロモーション状況もすべてトラッキングしているのですが、MRの活動量が半分以下まで落ちてしまったのです。MRの情報提供を補うため、ポータルサイトを活用したプロモーションやウェビナーが増えていきました。

【マーケティング×営業】連携強化のカギは徹底的なサポート

太田:多くの企業において、マーケティング部門と営業部門のリレーションが課題になっていると思いますが、貴社では両者がどのように連携を取っていたのでしょうか?

石川:おそらく、BtoBマーケティングを行う企業においてそこが1番の悩みですよね。インサイドセールスがどのように営業へバトンを渡すか、ホットリードをどのようにセールスへ渡して営業がアクセプトするのかが、多くの企業における課題だと思います。こちらに関しては、桐山のほうからお話しします。

桐山:コロナ禍で大きく変化したのは、MRの活動量が半減したため、医師に必要な情報が十分に届かなくなった点です。MRの活動量が半減するということは、医師の面談率も半分以下になり、医薬品の適正使用に関わる情報を届けられていないことを意味しています。そのため、MRと医師の接点を増やすため、サイトの活用方法について社内で多くの検討を実施しました。

「Pharma DIGITAL」の運営メンバーには、プロダクトマネジャーにも兼任し参画してもらっています。各製品の戦略に合致したコンテンツを作成し、MRにも逐次共有しました。リニューアルの目的やコンテンツの趣旨は営業ラインを通じて説明するだけでなく、支店や営業所、ときには個人単位で説明したりしてフォローしています。このような活動を、何度も繰り返しました。

オウンドメディアの活用戦略をいかに浸透させていくかが重要でしたので、コロナ初期に我々も行動していきました。

石川:MRも営業パーソンなので、自分の売上に寄与すると思えばオウンドメディアを活用しますし、役に立たないと判断すれば使わない、当たり前のことです。医師と面談できないことが理由で売上が下がるという意識があれば、面談以外で情報を届けられるオウンドメディアを「有効活用してやろう」と考えると思います。

したがって、「Pharma DIGITAL」というコンテンツを有効活用することによって医師が振り向いてくれることを、MRにしっかりと訴求できるかどうかがポイントになります。

唐澤:インターネット上でのマーケティングに関して、MRの方から「こういうコンテンツが欲しい」などと言われることはありますか?

石川:「Pharma DIGITAL」の会員で、許諾を得られた会員医師のメールアドレスをWebメーラーに連携しており、このWebメーラーを活用してメールプロモーションをMRが実施できる環境を整備しています。Webメールのテンプレートを製品ごとに複数用意していますが、「こういうのがあったほうがいいよね」といった要望をMRから受けることはあります。ただし、「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」というプロモーションに関わる規制があり、「競合品と比較してより効く」「最も有効性が高い」などといった表現は禁止されていますので、MRが利用できるテンプレートは社内審査で承認を受けたものに制限されます。

桐山:製品プロモーションに関わらない部分については、自由記載欄の追加などをMRの要望を受けてテンプレートに追加したこともあります。プロモーションに関わるテンプレートを全社で統一する、承認を受けたものに限ることは、戦略の一貫性を担保できるというメリットもあります。

個々のコンテンツをコントロールして、営業が適切に利用するできるところまでを管理できるのは、まさにデータドリブンのメリットだといえるでしょう。ご紹介したWebメーラー以外に、プレゼンテーションツールを導入しており、「営業資料のどのスライドを、どれだけの時間、どの組み合わせで使用しているか」といったことまで把握でき、こちらのログデータはSFAと連携させています。

唐澤:医薬品はマーケティングフレームワークとの相性が良いビジネスモデルであると感じました。ただし、この仕組みを構築するプロセスは、非常に大変だと思います。営業活動は通常、個人のスタイルに依存する傾向があるため、標準化することが難しいこともあります。しかし、一定のルールの下でコミュニケーションを行うことは、プロモーションの効果的な伝達を支援する面において有益ですね。

営業目線によって実現したデータドリブン文化

唐澤:続いて、MRのみなさんの営業活動についてお伺いします。先ほど、営業活動においてもデータを活用されているとお伺いしましたが、個人の営業活動にはどのようにデータが使われているのでしょうか?

石川:弊社では、BIBusiness Intelligence:さまざまなデータから情報を集約・分析し、経営などに活用できるようにするツール)でダッシュボードを構築しています。ユーザーがログインすると自分の活動や自担当の売上が、パーソナライズ化されて表示されます。支店長、営業所長、MRごとに、職責に応じカスタマイズされた情報が表示されます。

太田:一人ひとりの営業活動にデータを活用する仕組みが整えられている点が素晴らしいですね。ここまで社内で施策を浸透させられた背景には、会社の上層部に理解者がいらっしゃったのでしょうか?

石川:2012年に私がデータマネジメント部門の責任者になったとき、すでに経営層からはBIの有用性に対する理解を得られていたと思います。

BIには、タイムリー、かつ知りたい情報を自ら確認できる利点があります。しかし、営業現場では新しいシステムをなかなか受け入れないといった課題がありました。新しいシステムの導入による業務効率化が実現できるとしても、それまでの習慣、業務スタイルが変わること自体に対する抵抗感があるためです。

そのため、我々は営業部門に対して丁寧に説明を行いました。当時はZoomなどのWeb会議システムがなかったため、全国を飛び回って支店や営業所ごとにBIの研修会を開催し、営業の方々と同じ目線に立つことを重視して説明をしました。現在でもBIに新しい機能やレポートが追加された場合、またシステムを刷新する際には、ユーザーの理解が進むよう説明会を開催しています。

唐澤:営業と同じ目線に立つことは非常に大切ですね。本当におっしゃる通りだと思います。石川さんが旭化成ファーマに在籍されていたとき、こうした活動に反対意見はなかったのでしょうか?

石川:さすがにデジタルマーケティングをはじめて10年も経過すると、BISFAを使うことが社内では当たり前のことになっています。ただし、ツールを使う人と使わない人の温度差があるのは事実です。

太田:SFAの導入後、業務定着に苦戦する企業も多い中、貴社において継続的に利用する風土を作り上げることができたのは、どのような要因があったのでしょうか?

石川:製薬業界において、SFAを導入するのは当たり前のことなので、弊社だけが特別な存在ではありません。業界全体として「デジタルで情報を管理する」という風潮があるのだと思います。

SFAを使用することで、上司や同僚と即座に情報を共有できるメリットをSFAのユーザーが享受できたことも「デジタルで情報を管理する」ことに対する抵抗感を下げた大きな一因といえるでしょう。ただし、SFAへの入力は正直手間がかかるため、隙間時間を活用して情報を入力できるようiPhoneiPad、パソコンの3つのデバイスで入力可能な環境を提供しています。

感覚だけではPVは伸びない!データ分析によりサイト設計を最適化

唐澤:貴社がPharma DIGITALで情報発信するにあたり、PV(ページビュー)数を向上させるためにどのような方法でサイト設計を行っているのでしょうか? 

桐山:MRから製品情報を聞きたい、医療系のポータルサイトから情報を得たい、など、医師によってチャネル指向性が異なっています。そこで、医師が自分の好きなチャネルから情報を収集できるように、複数の媒体で情報提供できる仕組みづくりが重要です。

PV数を伸ばすには、医療系ポータルサイトなどの他サイトから自社サイトに誘導することが重要なポイントの1つです。医療系ポータルサイトやウェビナーで得た情報をさらに知りたいと思ったとき、医師はWebサイトに訪問してくれます。プル型のプロモーションです。どの媒体を使って情報を発信するか、新規会員に対してどの媒体でメッセージを送るかなど、実行と検証を繰り返しながらデジタルマーケティング活動を実践しています。

石川:オウンドメディアの成長戦略を考えるにあたり、まず、ユーザーの動線を調査します。これもすべてデータドリブンです。感覚では絶対にPVは稼げません。

製薬業界では徹底的に市場調査を実施するというお話をさせていただきましたが、それはオウンドメディアの運営でも同様です。Webサイトリニューアルに際して、製品情報以外にも文献や学会、副作用情報など、ユーザーがどのようなコンテンツを見たいのか、市場調査を実施しニーズを確認しました。そして、調査結果に合致するコンテンツを用意しました。その結果、Webサイトへの訪問が増えPVも伸びたのです。

また、Webサイトにどのような経路から訪れるのかも調査しました。例えば、医療系ポータルサイトのコンテンツやウェビナーを視聴した後、製品の詳細な情報を確認するために企業のWebサイトに訪れるパターンがあります。こうしたユーザーのためにウェビナーなどで取り上げたトピックに関連する情報をWebサイトに掲載することで、PVの伸長が期待できます。こうしたファクトベースでの施策は、経験や勘だけでは実現できません。

唐澤:あらゆる点において、徹底的に市場調査を行っているのですね。

石川:データドリブンでなければ、競合に絶対勝てません。もちろん、感覚で打った企画で数字が伸びることもあります。デジタルマーケティングの担当者には、営業担当者や顧客の行動・心理を把握しながらも、データから導き出される仮説をもとに戦略を立てることが求められます。

太田:確かに、どうやったら売れるのかという仮説がなければ、何から手を付けたらよいのかがわからないかもしれませんね。

石川:そうですね。売れるアプローチを見つけるためには、仮説や戦略が必要です。何が売れるかを想像し、仮説検証を行って、それに基づいて行動することが大切だと感じます。

旭化成ファーマにおけるBtoBマーケティングの成功事例

太田:貴社は非常に先進的な取り組みをされていると思いますが、社内で効果を実感されたことがあれば教えていただけますか?

桐山:BtoBマーケティングの成功事例はいくつかあります。例えば、Webサイトの会員医師から許諾を得て取得したメールアドレスをWebメーラーと連携させる仕組みを構築したことで、MRがメールを介してコンタクトが取れるようになりました。その結果、これまで接触できなかった医師と面会し、成約に結び付いた事例がいくつか社内で報告されています。

石川:「Pharma DIGITAL」のリニューアルにおいては、ユーザー数が以前と比較して月間で10倍、直帰率は35%程度下がり、PVも2倍以上になりました。ただし、これらの数字はKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)に過ぎません。KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)は売上・利益であるべきです。

社内データから分析した結果、デジタル接点の有無による売上差は約2%です。しかし、この2%はインパクトのある値で非常に大きな成果だと考えています。

唐澤:貴社の中で「デジタルマーケティングによる売上を全体の何%にしよう」といった目標はありますか?

桐山:確かに、明確な数値目標は重要です。しかし、さまざまなチャネルを介しているため、アトリビューション分析は難しい部分があります。そのため、チャネルごとの施策に応じて、新規会員数、PVや施策に応じたKPIがどのように変化しているかを確認しています。

石川:医療機関への新規採用は、BtoBマーケティングでいうと案件管理に相当します。即ちリード獲得からMQL(Marketing Qualified Lead)の創出、商談、成約といった流れです。ただし、医薬品の場合には、顧客のLTV(顧客生涯価値)を伸ばすことが重要であるため、複数のチャネルを用いてプロモーションを展開します。そのためチャネルごとの効果を単純に計算はできません。マルチチャネルでのプロモーションでは、どのチャネルが高い寄与率を持つかを判断することは難しいでしょう。

ただ、医薬品においてはSoV(シェア・オブ・ボイス:競合製品・サービス間における広告出稿量やメディア露出量)が非常に重要です。「製品A、製品B、製品Cのプロモーション構成比に応じて、新たに処方する患者の割合は同じである」という論文があり、自社でも検証を行いました。トータルチャネルのSoVを拡大することが成功のカギとなります。

したがって、MRリソースを投入できない製品の場合、Webサイトなどのデジタルチャネルのウェイトを高めてプロモーション戦略を練らなくてはいけません。現在、この点においてはまだ改善の余地があり、今後の課題といえるでしょう。

あとがき

今回は、旭化成ファーマにおけるデータドリブンマーケティングの取り組み概要や変遷、具体的な効果などをお話しいただきました。

後編では、データドリブンマーケティングを成功させるポイントや、今後のビジョンについてお話しいだだきます。