
急速に変化するエレクトロニクス業界のなかで、商社リョーサンは「お客様理解」を軸に価値を再定義すべく、デジタルマーケティングで業務改革を進めています。
営業・技術・マーケティングが連携し、ニーズカードの導入やテクラボ課の設立などを通じて“面”での接点を構築。BtoBマーケティング改革により、商社の枠を超えた新たな成長モデルを描いています。
そんなリョーサンの変革の舞台裏について、キーマンとなるセールスプロモーション部の村田隼平氏・小林航士氏に話を伺いました。
PROFILE
株式会社リョーサン 技術本部 統括部長 兼 営業統括本部 セールスプロモーション部 部長
村田隼平
リョーサンに組込ソフト開発者として入社後、日欧米半導体を扱う技術営業を経験後、エンタープライズ営業を10年担当。特にスマホの躍進に助けられ、半導体ビジネスの魅力を体感。その後、企画本部を経て、現在は営業統括本部としてマーケティング部門と技術本部の統括を担当。
PROFILE
株式会社リョーサン 営業統括本部 セールスプロモーション部 データ・マーケティング マネージャー
小林航士
リョーサンに入社後、海外半導体の国内セールス及びプロダクトマーケティングのリーダーとして従事。企画本部を経て、現在は営業統括本部マーケティング部門マネージャーとして施策の企画・実行、KPIマネジメントを担当。
INDEX
成長戦略の転換点としての「デジタルマーケティング改革」
リョーサンのデジタルマーケティング改革は2020年2月に代表が交代し、新たな経営体制が始動したことをきっかけにスタートしました。
当時は、時代の変化に合わせて従来型の営業モデルから脱却しなければならない過渡期。そのときに掲げた成長戦略の柱が3つあったとセールスプロモーション部を統括する村田氏は話します。

技術本部 統括部長 兼 営業統括本部 セールスプロモーション部 部長 村田隼平氏
「1つ目が『売り方と売り先の多角化』、2つ目が『稼ぎ方の多角化』、そして3つ目が商社としての『品揃えの多角化』。このなかで『売り方と売り先の多角化』を実現するための手段として導入したのが、デジタルマーケティングだったのです」(村田氏)
従来の営業モデルから脱却を目指したリョーサン。以前は、半導体を中心とした大手のお客様に対して、密着型の営業スタイルが主流で「既存のお客様に既存の商品を売る」手法だったのだそう。しかし、最近ではサプライチェーンも複雑化し、製造拠点が中国やインドなどの海外にも移るなかで、「対峙すべきお客様の範囲が非常に広がった」と村田氏。
さらに、業界の構造の変化も影響していると話します。
「エレクトロニクス業界の市場構造として、これまでは企画から設計、開発、製造までを一つのメーカーが垂直統合型で行うことが一般的でしたが、複数のメーカーによる水平分業制へと変わりつつあります。さらに、テクノロジーの進化により、1つのIC(集積回路)に多くの機能が集約されるなど、お客様が求める価値も変化してきました。こうした市場の変化に対応するためには、ビジネスモデルをデジタルシフトしていくことが不可欠だったのです」(村田氏)
リョーサンは成長戦略の一環として、2020年7月から企画本部で改革に向けた構想設計を開始し、スモールスタートで取り組みを進めました。その後、2022年にはMAツールを導入し、ダイレクトメールの配信によるお客様との接点づくりの実証実験を開始すると同時に、インサイドセールスチームを設立。
さらに、2023年4月には専任組織として営業統括本部にセールスプロモーション部を新設し、技術本部にもテクラボ課を新設しました。翌月の2023年5月にはテクラボサイトをオープンし、2024年1月にはウェビナーなどで使用できる本格的なスタジオを立ち上げました。
そして2024年11月にはSFAを導入し、現在もデータ連携による全社の業務最適化を目指しています。
リョーサンが考える「お客様に向き合う」とは?
BtoBマーケティングにおける「お客様との向き合い方」について、セールスプロモーション部データ・マーケティングマネージャーの小林氏は次のように話します。

営業統括本部 セールスプロモーション部 データ・マーケティング マネージャー 小林航士氏
「弊社は『お客様のニーズにお応えし 社会に必要とされる企業になる』という経営ビジョンを掲げています。このビジョンに基づき『お客様への理解』があるからこそ、はじめてお客様から困りごとを相談してもらえる関係を構築できるのです。そして、そのためにはBtoBマーケティングにおいて、お客様との複数のタッチポイントを統合し、接点を『面』で捉えていくことを非常に重視しています」(小林氏)
リョーサンは組織的にお客様理解を深めるための具体的なツールとして「ニーズカード」を導入しています。これは、営業担当がお客様との対話で得た課題や潜在ニーズを記録し、それを関連部門にフィードバックして組織的に活用する仕組みです。導入の流れや現在のフェーズについて、小林氏はこう説明します。
「ニーズカードの導入当初、最初の2年間は、まず『量』にこだわり、とにかくお客様にニーズを聞いて社内にシェアすることを習慣化させました。一定の強制力をもたせることで『やって当たり前』の状態を作り出したのです。2024年からは『質』を磨くフェーズへと移行しています。
現在、お客様が目指したい姿と現状とのギャップをすべてニーズとして定義しており、そのなかで『深い・浅い』といったレベル分けはしていません。また、これは現在実証実験中ですが、営業活動にAIリコメンド機能を採用しています。これは、当社の営業が長年かけて培ってきたノウハウをAIに学習させることで、若手の従業員でも『次に何をすればいいのか』のネクストアクションを推奨してもらえる仕組みです。
この機能が本格的に活用できれば、どの営業担当者でも一定の品質で対応できるようになるでしょう」(小林氏)
技術×マーケティングが生む新しい価値──「テクラボ課」の挑戦
技術部門とマーケティング部門が密に連携しているところもリョーサンの独自性です。それを象徴するのが、技術本部内に新設された「テクラボ課」です。その役割と背景について、村田氏は次のように語ります。
「当社は元々『技術商社』として成長してきた会社です。テクラボ課は2023年4月に、そんな弊社の中核を担う技術本部のなかに新設されました。従来の技術部門が組み込みエンジニア中心の組織だったのに対し、テクラボ課はAIの活用やウェブテクノロジーの活用、ウェビナーシステムなど、幅広いテクノロジーを研究・活用する部門として切り離して設置されました。当初はサービスサイトを立ち上げることが目的でしたが、現在は先述したようなAIなどのテクノロジー活用も推進しています」(村田氏)

また、テクラボ課が発信する「テクラボサイト」やウェビナーにおけるコンテンツの内容について、村田氏はこう続けます。
「特にお客様からご支持いただいているのは、エンジニアが発信する“リアルな情報”です。例えば、外国車の電源を分解し、技術トレンドや使用部品を解説するウェビナーなど。我々のエンジニアは、サプライヤーからの情報だけでなく、お客様の開発チームに入り込んで開発経験を積んでいるメンバーもいるため、現場感のある“濃いコンテンツ”が生み出せています。最近では比較的若いお客様層が『勉強する』という観点で見てくれているようですね。これは、エンジニア同士の共感を軸にしたBtoBマーケティングの新しい形といえるかもしれません」(村田氏)
テクラボサイトやウェビナーのコンテンツの内容について、編集・発信を100%内製化している点も特徴。記事はエンジニア自身が書き、それをテクラボ課内の編集チームが編集してリリースしています。
「我々はメディアではないため、これで収益化を図るつもりはありませんが、パートナーやサプライヤー、お客様に、取り組みの“本気度”を示すためにも内製にこだわっています。これにより、新たなお客様接点の創出につながっていると思います」(村田氏)
社内横断で支える「お客様グリップ力」──営業・技術・マーケの連携モデル
リョーサンではお客様理解を深めるために組織力を重要視していると小林氏は話します。

「弊社の強みは『お客様グリップ力』と自負しており、これは全社共通の価値観です。この強みを組織全体で支えるため、それぞれの部門が異なる視点と役割でお客様と向き合っています。まず営業部門は、お客様のキーマンとの信頼関係を築きながら、担当者レベルにとどまらず、ミドル層や経営層にまで関係を広げ“面”でお客様全体を理解していく役割を担います。
技術部門は『エンジニアがエンジニアを支える』という姿勢で、半導体設計や開発の現場で発生する課題に対し、営業ではなく技術者自身が『最後の一手』として解決にあたっていきます。
そしてマーケティング部門は、複数のお客様を分野ごとに捉えてペルソナを設定し、課題やニーズの背景を深く理解したうえで、将来的に生じる可能性のある課題を予見し、次の打ち手を構想します。こうして3つの部門が異なる視点からお客様に寄り添うことで、リョーサンは組織全体でお客様との関係を強固にし、信頼を積み上げているのです」(小林氏)
しかし、縦割りの組織構造になっていると、なかなか部門を超えた連携は難しいもの。そこで活躍するのが先述したニーズカードなのだと小林氏は続けます。
「営業現場で収集されたお客様のニーズ情報は、ニーズカードを通じて社内全体にナレッジ化され共有されています。また、ニーズカードの情報とともに、SFA、MAツールで得られたリード情報などのデータを連携させることでさらなる最適化を図っています。
加えて、社内横断的な連携を促すため、『賞賛文化』の醸成に力を入れています。その一環が、毎月実施している『全社貢献アワード』です。自分の部門や担当製品の枠を超えて、お客様ニーズに対して他部門へ案件を引き継ぎ、全社に貢献してくれた従業員を賞賛することで、組織の活性化を促進しています」(小林氏)
「商社の枠を超えた発信力」で業界をリードする未来へ
これからのエレクトロニクス業界においては、自社発信というマーケティング施策が重要になると村田氏は次のように話します。
「半導体や電子部品を扱うエレクトロニクス業界はもともと専門性が非常に高いですが、最近では誰もが簡単に情報を入手できるようになっており、今後はさらにAIが最適な答えを導き出す時代が来るでしょう。そのような環境下において、商社が介在価値を発揮し続けるためには、自ら専門性の高い“本物の情報”を発信することが重要だと考えています。これにより、効率的・効果的にお客様接点を増やし、独自性を武器に事業拡大を推進できるはずです」(村田氏)
一方で、自社の事業拡大だけでなく、業界のパートナーやサプライヤーとの共創についても積極的に取り組んでいるリョーサン。最後に、BtoBマーケティングを通してリョーサンが最終的に実現したい価値と、今後の展望を村田氏はこう語りました。

「テクラボブランドの認知が拡大してきたことで、銀行やメディア、さらにはお客様やサプライヤーから『リョーサンさんと一緒にやりたい』と声をかけてもらえるようになりました。例えば、ウェビナーをお客様と共同で開催するケースが増えています。
我々のお客様のサービスが、我々の商材では応えきれないお客様のニーズに適合する場合、協業を提案する。これは、単なる売買の関係を超え、お客様との新しい接点となり、エンドユーザーを巻き込む形で、新しい情報流通の形を築くことに繋がっています。
今後は、DXとAIをフル活用した営業・技術・マーケ一体型モデルの確立を引き続き目指していきます。2024年、リョーサンはAIビジネスに強みをもつ菱洋エレクトロと経営統合しました。そのノウハウも活用し、我々自身がAIで業務を改革し、それをビジネスに転換していきたいと考えています。
AIやDXを活用する最大の目的は、お客様接点拡大の『スケールアップ』です。最先端のテクノロジー導入により、商社の枠を超えたお客様グリップ力の強化を目指します」(村田氏)
リョーサン菱洋ホールディングス株式会社 コーポレートサイト:https://www.rr-hds.co.jp/
PROFILE
B2B Compass編集部


