- 2025/02/10
- 2025/02/19
B2BマーケティングにおけるGTMの重要性とは?求めているのはDemand GenでもBrandingでもなく、“総力戦Enabler”
昨今のマーケティングにおいて、自社商品やサービスを市場に展開する際、顧客に対してどのように届けるかをまとめた計画、戦略「Go-to-market(GTM)」が注目されています。
今回は、電通B2Bイニシアティブが企画するセミナーのなかで、長年にわたりB2Bマーケティングに携わる株式会社クラレ経営企画室の中東孝夫氏に講演いただいた内容をご紹介します。B2BマーケティングにおけるGTMの必要性や、戦略の立て方とは?
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PROFILE
中東孝夫
インサイドセールス・大規模イベント・顧客データ管理・SFA/MA、デジタルマーケティング、法規制、人材育成など、幅広い経験をもち、2015年には著書「BtoBマーケティングの基本」を出版。各方面で講演会も行い、現在のB2Bマーケティング業界をリードしている。
INDEX
GTM DMIモデルver.1.0構築の背景・モデル概要
GTMの概要や詳細について、マーケティング・コミュニケーションにデジタルを活用するための必要な研究・情報収集を行うデジタルマーケティング研究機構およびB2Bマーケティング委員会が、2024年10月に「GTM DMIモデルver.1.0」として発表しました。
「経営としてのマーケティング機能を強化し、日本企業の価値創造力を高める『GTM DMIモデルver.1.0』を公開」-公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構
これは、B2Bマーケティング委員会の参加企業における市場開拓や市場投入の取り組みと実体験に基づき、主にB2Bに携わる企業のマーケティング活動において、製品やサービスを市場に投入する際に検討するべき項目やプロセスをまとめたモデルです。
マーケティング部門が中心となって社内外のステークホルダーとの議論における共通言語を提供し、マーケティング本来の役割である『顧客や社会と共に価値の創造』を果たせるよう、マーケティング組織の意識変革を目指して構築されました。
GTMが今求められる理由
GTMが求められる理由として、市場において「激変するゲームのルール」が関係していると中東氏は語ります。
中東氏「コロナ禍によるリモート化や急速に進むデジタル化、サステナビリティやコンプライアンスへの意識の高まりなど、市場のルールや価値観が変化したことで、これまでのように事業部門の個人プレイのマーケティング・営業活動では変革にさらされる顧客のニーズを満たすことが難しくなってきました。だからこそ根本的なマーケティング機能であるGTMに取り組むことで、現場の局地戦ではなく、全社をあげた総力戦で取り組む必要があるのです。」
また、中東氏はこれらを見据えてB2Bマーケティングを再定義するうえで、“マネジメントの父”として知られる経営学者、ピーター・ファーディナンド・ドラッカーが残した次の2つの言葉を改めて見直すべきであると話します。
「企業とは何かを理解するには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、目的は社会にある。したがって、企業の目的として有効な定義は一つしかない。顧客の創造である。」
「企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。」
(P・F・ドラッカー著「現代の経営」)
さらにドラッカーは、企業に対して5つの質問を問い、そのすべてに明確に答えられる企業だけに成功がもたらされているという思想を残しています。とくにそのなかで2番目から5番目までの質問に対して回答する方法を定義したのがGTMモデルで定義したところであると中東氏は話します。(P.F.ドラッカー著『経営者に贈る5つの質問』)
中東氏「我々の顧客とは?価値とは?成果とは?計画とは?…これらの問いに対して答えられる人がいたとしても、全員が共通認識をもっている企業は少ないでしょう。GTMは、まさに社内の認識を統一し、言語化していくためのプランニングモデルとして非常に重要なのです」
顧客と顧客価値の解像度を上げることからはじめよう
前述の通り、市場のルールや価値観が激変する今、B2Bマーケティングにおいて企業は何をすべきか…「まずは顧客と顧客価値の解像度を上げることからはじめましょう。マーケターだけでなく、末端の営業から商品企画、経営者まで同じ解像度で同じ議論をしていく必要があります」と中東氏は語ります。
続けて中東氏は、顧客の解像度を測るための「10の質問」を提案しました。
中東氏「一つひとつの質問について、改めて自社の商品やサービスを見つめ直すとともに、顧客をプロファイルし、明確にしていく必要があります。これらの質問は、事業責任者やCMOなどのトップマネジメントが常に立てるべき問いでもあります。」
GTM DMIモデル ver. 1.0における3つのレイヤーと全体像
GTMモデルのプロセスには、前述したドラッカーの5つの質問と顧客理解を測る10の質問に対する回答を明確化する方法が組み込まれています。
B2Bの場合、GTMモデルの全体像として、「Market & Account」「Buyer & Value」「Channel & Engagement」という3つのレイヤーに分け、さらにブレイクダウンした各項目について明確化していく必要があると中東氏は述べます。
Market & Account レイヤー
- 市場/業界分析:どの市場・業界でどれだけの市場可能性があり、どれだけ投資できるか明確化する
- 対象企業の分析:どの企業アカウントをターゲットにするのか優先順位をつけて明確化する
- 競合/代替品:純粋な競合や無料版も含めた代替品との競争環境を明確化する
Buyer and Value レイヤー
- 対象企業の購買意思決定プロセスと購買関与者:自社製品をターゲット企業に販売する際、誰が起案してどんな関係者の承認を得て決済されるのか、関与者を明確化・言語化する
- 顧客課題と自社の提案:顧客企業の経営課題やビジネスペインに対して自社製品の強みを結びつけ、その解決ストーリーを明確化・言語化する
- 顧客が自社を選ぶ理由:他社ではなく自社の製品が選ばれる理由を明確化・言語化する
Channel and Engagement レイヤー
- 販売チャネル戦略:誰を経由して届けるのか。営業部門の規模に応じてカバレッジプランを立てながら販売代理店やEコマースの活用も含めて戦略を明確化する
- 販売チャネルのイネーブルメント:自社営業だけでなく代理店営業も含め営業部隊が成果を出し続けられる仕組みを明確化する。提案書ひな形やオブジェクション・ハンドリングなど営業プレイブック作成も含まれる
- キャンペーン設計:広告や展示会、メディアプランニング、Webサイト、Eメールなど、キャンペーンの手法とそのKPI/KGIを明確化する
- 目標設定、測定と評価:PDCAサイクルを回すために目標を設定し、測定と評価の方法を明確化する
GTMモデルで解決できる課題とは?
GTMは、自社の商品の価値をどのような流れで顧客に届けるかだけではなく、そもそもどのマーケットになぜ進出するのかまでを考えた市場戦略モデルです。
実際の現場では、「どのようにマーケティングでデジタルを活用するか」「どのようにリードを獲得するか」「どんなクリエイティブにするか」「どんなWebコンテンツをつくるか」など、施策に注目しがちです。
しかしそうした施策の良し悪しを生み出すよりも根源的な「顧客価値」を起点として、市場戦略に必要な要素を解像度高くリストアップし、実行計画に盛り込むのがGTMのプランニングモデルです。GTMを採用することで、各担当者のレベルによってさまざまな効果が期待できると中東氏は語ります。
経営層
新規事業や新製品への投資を検討する際、市場の情報を把握し、期待される効果を明確化して、経営資源の配分の最適化を実現できる。また、経営および各部門間の共通言語化を実現し、経営目標の達成に向け、全社的アラインメントの構築が容易になる。
事業責任者
新規事業の見通しを精緻化・共通言語化することで、事業戦略における意思決定の精度が向上。経営層やマーケティング部門からの支援を得やすくなり、事業目標達成の確度を高めることができる。
マーケティング部門長
GTMモデルを活用することで、マーケティング戦略の立案がしやすくなるとともに、キャンペーンの実行可否について客観的な判断材料を得られる。また、戦略の立案と成功に必須な要素を関係者間があらかじめ準備できるようになるため、マーケティング投資のROI向上につながる。
マーケティング担当者
GTMモデルであらかじめマーケティングプランの策定に必要な要素が準備・共有されることで、パートナー企業へのオリエンテーションやインサイドセールスのトークスクリプト、提案書やWebコンテンツの作成など、キャンペーンの精度を高めることが可能。
求めているのはDemand GenでもBrandingでもなく、“総力戦Enabler”
最後に中東氏は、「自身が30年にわたりお付き合いさせて頂いた電通」の総合代理店としての強みについて「B2Bマーケティングにおける、デジタル・グローバル・オフライン・リーガルなど、B2Bの総力戦でパートナーとなり得る唯一の存在」と言及しました。
「企業が総力戦で戦えるようにするには様々な支援が必要です。
今回のGTMモデルだけでなく、組織のマーケティング成熟度測定、教育アセット、ワークショップ支援、データエントリーサービス、システムアーキテクチャ再構築支援など多岐にわたります。それらに加え、市場調査、クリエイティブ開発、Web開発、CRM、メディアプラン、展示会、法規制対応など、総力戦に臨んでいるCMOのビジネスペインはあまりに幅広く、電通グループのような総合代理店のみが解決可能です。ソロの演奏ではなく、”交響楽団のオーケストレーション(指揮)”の支援が望まれているのです。」と述べました。
また、日経クロストレンドSpecialが公開した『電通グループが提供する「Marketing For Growth B2B」とは?』の記事を紹介。そのうえで、次のような言葉で締めくくりました。
「梅木氏が言うように、日本のこれまでのやり方を否定していてもなんの生産性もありません。ビジネスの全体を理解したうえで適切な設計をするという考えに強く賛同します。日本の企業に必要なのは、Demand GenでもBrandingでもありません。分散したマーケティング機能の脱サイロ化と、電通のような企業総力戦体制のEnablerなのです。そしてGTMも従来型のマーケティング手法を見直し、アップデートするための重要なモデル。GTM DMIモデルは、クリエイティブコモンズCC4.0で公開し商用利用も可能です。ぜひ多くの企業に活用していただきたいと思います。」
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PROFILE
芳田晃一