リード5倍増!ヒートシール検査機市場への後発参入、ヤマハはいかにBtoBマーケティングを成功させたか?(前編)ー電通B2Bイニシアティブ

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リード5倍増!ヒートシール検査機市場への後発参入、ヤマハはいかにBtoBマーケティングを成功させたか?(前編)

リード5倍増!ヒートシール検査機市場への後発参入、ヤマハはいかにBtoBマーケティングを成功させたか?(前編)

『NIKKEI BtoBマーケティングアワード』でデマンドジェネレーション賞を受賞したヤマハ株式会社とヤマハファインテック株式会社。

両者が協業して、超音波ヒートシール検査機「ULTRASONICA」のマーケティングに取り組みました。既存のブランド資産を新ビジネスに拡張し、従来の5倍のリードの獲得に成功しました。

今回はヤマハ株式会社 コーポレート・マーケティング部CXマーケティンググループの松原氏とヤマハファインテック株式会社 FA事業部 FA営業部 営業グループの長畑氏に、電通のB2B Compass編集部がお話を伺いました。

PROFILE

ヤマハ ブランド戦略本部 コーポレート・マーケティング部 CX マーケティンググループ 松原 徳美

ヤマハ ブランド戦略本部 コーポレート・マーケティング部 CX マーケティンググループ

松原 徳美

営業部門、開発戦略部門等複数部門を経た後、2016 年ヤマハのマーケティング部門発足時よりマーケティング業務に従事、現在に至る。
マーケティング実務士の資格を保有。

PROFILE

ヤマハファインテック FA事業部 FA営業部 FA営業グループ 長畑 渓心

ヤマハファインテック FA事業部 FA営業部 FA営業グループ

長畑 渓心

ヤマハ株式会社入社後、FA機器メーカーのヤマハファインテック株式会社に出向。未経験・知識ゼロからBtoBマーケティングを学び、現在は「ひとりマーケター」として奮闘中。

  

ヤマハとヤマハファインテックが初めてタッグを組んだ

編集部:ヤマハといえば楽器のイメージが強いのですが、ヤマハと協業したヤマハファインテックはどのような会社なのでしょうか?

 

長畑:ヤマハファインテックはヤマハのグループ会社の1つです。ヤマハグループの売上は楽器事業と音響機器事業が大きな割合を占めていますが、これに加えて第3の柱の確立を目指す部品・装置事業があります。ヤマハファインテックはその部品・装置事業の中で、FA機器や自動車用内装部品などを取り扱う会社です。私が所属しているFA事業部は既存事業として自動車やエレクトロニクス向けの検査機を製造・販売しているのですが、今回新たに食品市場に向けたヒートシール検査機「ULTRASONICA」のマーケティングに取り組むことになりました。

 

編集部:楽器以外にもB2Bの事業を展開されているのですね。ヒートシール検査機「ULTRASONICA」のマーケティングに取り組むにあたって、どうしてヤマハとヤマハファインテックは協業することになったのでしょうか?

 

長畑:ヤマハファインテックは元々特注品を多く扱っていたためBtoCのようなマーケティングを行う必要がなく、専任のマーケティング部門は存在していませんでした。しかし、ヒートシール検査機という市場に拡販していくような標準機ビジネスに転換するタイミングだったこともあり、ヤマハ株式会社のマーケティング統括部(名称は当時)に協力を要請し、協業体制が実現しました。ヤマハ株式会社とこのような協業をすることは今回が初めてのことでした。

 

編集部:協業するのは初めてだったのですね。協業する上で工夫した点はありますか?

 

松原:本案件は複雑な業界構造でステークホルダーも多く、最初の頃は狙うべき方向性も見出しにくい状況でした。そのため、両社で綿密な打合せを定期的に持ち、些細な疑問点も徹底的に話し合い、情報を整理しながら認識のずれが起きないように留意しました。

ヤマハ・ヤマハファインテックの事業概要_ヤマハ

戦略立案の5つのプロセス

編集部:ヒートシール検査機「ULTRASONICA」のマーケティングを行うにあたって、いくつかの戦略立案プロセスがあったと思いますが、具体的にはどのようなものだったのでしょうか?

 

松原:戦略立案プロセスとしては大きく5つに分かれております。1つ目は情報の整理、2つ目は調査の実施と3Cの把握、3つ目はターゲットの絞り込みとコアバリューの策定、4つ目は価値訴求の方向の検討、5つ目は戦術への展開です。

 

編集部:そのようなプロセスで進めていったのですね。戦略立案のプロセスについて、1つ目から詳しく教えてください。

 

松原:1つ目は情報整理です。まずはヤマハファインテックが持っている情報をすべて出してもらい、現状で分かっていることをまとめていきました。そして、その整理した情報をもとにどのような調査・分析が必要なのかを考え、リサーチの設計を行いました。

2つ目が調査の実施と3Cの把握です。具体的には市場の把握と自社・競合の現状確認になります。市場把握のために調べた情報から独自の業界地図を作成し、客観的に市場の規模感やステークホルダーの関係性を把握できるようにしていきました。同時に、自社や競合のWEBトラフィックやオーガニック検索後の遷移先、検索キーワード分析等、デジタル上の状況を把握していきました。

      

編集部:食品検査シール市場は非常にニッチな市場で情報を集めにくいと思いますが、どのようにリサーチを進めていったのですか?

 

松原:本当にその通りで、今回の戦略立案プロセスにおいて一番苦労したポイントは市場の把握かもしれません。ヒートシール検査市場を把握するために可能な限りの情報を集め、先ほどお話した業界地図の作成によって業界全体を俯瞰できるようにしたのに加え、業界特有の慣習や考え方を知るため、社内の営業担当者や購買担当者にインタビューを実施しました。実務担当者にインタビューを実施したことで、ヒートシール検査機市場のリアルな像がイメージでき、これまでのリサーチ情報と併せることで解決に向けて動き出せたという感覚がありました。

 

編集部:社内でインタビューを実施するのはとても良いアイデアですね。続いて、3つ目のプロセスであるターゲットの絞り込みとコアバリューの策定について教えてください。

 

松原:3つ目のプロセスでは、2つ目のプロセスで実施したリサーチ情報をもとにして、ターゲットを絞り込み、コアバリューを決めていく作業を進めました。それと同時に、想定していた市場や顧客の検証を実施していきました。

 

編集部:今回のケースはBtoBtoBの形、具体的には最初のBがヤマハ、真ん中のBが工場設備やFA系の会社、最後のBが実際にパウチなどを製造するメーカーさんになると思うのですが、真ん中のBと最後のBではどちらにターゲットを絞ったのですか?

 

松原:どちらのBを狙うのかということは最後まで悩んだ部分です。当初は真ん中のBを想定していたのですが、最終的には最後のBをターゲットにすることを決めました。データに基づいた定量的な情報に加えて、インタビューによる定性的な情報を加味して検討したことが判断の決め手となりました。

 

編集部:やはり社員インタビューは大きな判断材料になったのですね。次に、4つ目と5つ目のプロセスについても詳しく教えてください。

 

松原:4つ目として、決定したターゲットとコアバリューをどう打ち出していくのかを考えていきました。その際に自社の強みとどのように結びつけるのかという点にフォーカスし、ヤマハにしかできない価値の見せ方を模索していきました。最終的に行き着いた先は、ヤマハブランドだけが持っている“音”へのこだわりです。ヤマハブランドの強みである音と超音波技術をかけ合わせて、製品の魅力を伝えていくことを決めました。

5つ目は戦術への展開です。積み上げてきた戦略を戦術に落とし込んでいったのですが、具体的には2つの戦術を考えました。詳しくは後ほどお話ししますが、1つ目が動画をはじめとするクリエイティブの制作で、2つ目がSEO対策・広告施策の実施です。

 

 

ヤマハブランドを前面に打ち出したマーケティング戦略

編集部:各タッチポイントで一貫性のある顧客体験を作るマーケティングを実現することが重要だと思うのですが、長畑さんが大切にしていたお考えはありますか?

 

長畑:ステークホルダーの皆さんに目線を合わせることを特に大切にしました。今回は一貫して、「音のヤマハの超音波」というコアバリューを軸にマーケティング戦略を展開していきましたが、お客様のヤマハの音に対する信頼感というのは非常に大きいものがありました。マーケティング統括部と密に連携を取ることで、カスタマージャーニーを設計し一貫性のあるマーケティングが実現できたと考えています。

 

編集部:詳しく教えていただきありがとうございます。次にBtoB領域であるヒートシール検査機市場に最後発企業として参入したとのことですが、どのようにそのハードルを乗り越えたのですか?

 

松原:最後発ということもありますし、さらに食品シール検査市場はほぼ寡占市場の状態でした。競合との差別化を図り、いかに優位性をアピールできるかが勝負だったのですが、同じ土俵で戦っても勝ち目がないのは最初から明らかでした。そこで、最後発と寡占市場という大きなハードルを乗り越えるために、2つの戦術を展開していきました。

他社との差別化を図るクリエイティブ_ヤマハ

松原:1つ目が動画やWebのクリエイティブ制作です。まずは動画で具体的な情報提供を行うのが効果的だと考えました。動画ではCGを全面に活用し、音のヤマハだけが持つ強みを知的にカッコよく伝えられるようにしていきました。また、レトルトパウチの品質クレーム“ゼロ”へというコアバリューを打ち出し、動画を見た人に「ULTRASONICA」を使ってみたいと思ってもらえるようにしました。公開した動画は現在までに4000回以上再生されており、BtoB関連の動画としては異例の再生数を獲得することができました。

また動画だけでなく、Webのクリエイティブにもこだわりました。購入プロセスのキーになるのが他社製品と比較しやすい情報の提供だと考えたのです。お客様の環境下で機械がちゃんと使えるのか、製品がどのように有効に機能するのかという情報を提供し、お客様の課題を解決できるようなWebサイトを作りました。

 

編集部:今までヤマハのグループとして培ってきたブランドの資産を新たな事業に横展開していったということですね。続いて、2つ目の戦術についても教えてください。

 

松原:2つ目の戦術がSEO対策と広告施策です。調査の中で企業の担当者の情報収集には2通りのパターンがあることがわかっていました。一つはもちろん日常的な情報収集ですが、これに加え大きな展示会などの前には集中的に情報収集が行われます。そのため、世界最大級の食品製造総合展であるFooma Japanに照準を合わせた導線設計をしていき、リスティング広告やディスプレイ広告を打ちました。事前認知を獲得した上で展示会に臨んだこともあり、大きな効果を得ることができました。

 

編集部:さまざまな施策を実施してこられたと思うのですが、本プロジェクトにはどのくらい時間をかけたのですか?

 

長畑:マーケティングの研修から始めたプロジェクトだったのですが、全体でいうと丸1年ほどは時間がかかっています。研修終了後にチームを編成し、クリエイティブを作り、Fooma Japanに向けて準備を進めてきたような形ですね。

あとがき

今回は、ヤマハおよびヤマハファインテックがいかに新規参入からリード獲得増加に至ったかについて、超音波ヒートシール検査機「ULTRASONICA」のマーケティング戦略立案のプロセスを中心にお聞きしました。

後編では、マーケティング部門と営業の連携のコツやリード5倍に至った経緯についてお話しいただきました。ぜひご一読ください。

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