B2B Compass
前編の記事では、株式会社リコーの今村綾子さんに本社(マーケティング部門)と販社(営業部門)の連携ポイントや、BtoB製造業がマーケティング改革をする際の課題と対策について、前職でのご経験を元にリアルなお話を伺いました。後編では、大手製造会社ならではのグローバルマーケティング活動の取り組みについてご紹介します。
株式会社リコー グラフィックコミュニケーションズ グローバルマーケティング本部 デジタルサービス事業センター
今村 綾子
ブラザー工業にて、欧米向けの営業企画・商品企画や新規事業に1
株式会社電通 ソリューションプランナー/ビジネスコンサルタント
梅木 俊成
マーケティング部門、営業部門を経て2020年より現職。2012年から半導体、マテリアル、IT系商材、PCやスマートフォン等100社以上の国内外におけるB2B事業におけるコンサルティング及びブランド戦略とデマンド戦略を中心に担当。顧客購買データ分析を起点にオンオフ施策やMA/SFA/CDP等のDXツールの導入、インサイドセールス、カスタマーサクセス体制等の組織構築支援を行う。電通グループ横断プロジェクト「電通B2Bイニシアティブ」主宰。
INDEX
まず、現状の売上構成を御覧いただきたいのですが、リコーは現在、売上の60%が海外で構成されています。グローバルマーケティングにも積極的に取り組んでいますが、その中でも、今回はRGC(リコーグラフィックコミュニケーション)事業部の取り組みでチャレンジしている内容をご紹介したいと思います。我々の事業部は、本社機能として、企画・開発が日本と海外のメンバーで構成されています。グローバルマーケティングチームには海外(アメリカ)メンバーが主体となり推進していることもあり、売上割合の高い地域においての推進力が高いため売上貢献率にも影響が大きく左右します。
続いて、マーケティング部門と営業部門の連携という目線からお伝えすると、海外販社と国内販社の活動において、マーケティングチームが獲得したリードの活用、つまりSQLを営業が活用するという点では、結果として大きな違いはありません。各販社でのマーケティング活動においてのKPI設定としても、CV/MQL/SQLなど一般的な指標や進め方などは、多少異なるものの根本的な考え方は同じです。その場合に、本社側として、どのように連携・管理させていくのか?ということをグローバルマーケティングに携わっている方への課題だと思いますが、“管理”よりも“活用”という視点で限られたリソースの最大限を目指しています。
印刷機器業界におけるグローバルマーケティングの課題は、ハードウェアである製品本体の販売という「モノ売り」が主要な活動となり、そこにソフトウェアなどを通して提供する「コト売り」という新しい付加価値営業へ移行するのは理解しているものの、なかなか大変です。今まで成功してきている「モノ売り」がベースのマーケティング活動や営業活動が根付いているカルチャーを変革するのは、並大抵のことではありません。
これは「モノ売り(箱売り)」から「コト売り(デジタルサービスという付加価値を売る)」に変革するために、アジャイル(機敏に)でソフトを開発しクライアントへソリューションとして提案していくためです。また、ソフトウェアの開発自体もアメリカで進められているため(RGCのソフトウェア)、アメリカでの成功要因を分析・モデル化し、日本やEU、アジアにも横展開させていくことです。一度に、多くの商品展開をさせていくことは、各販社のリソースや顧客ニーズとのマッチングもことなるため、小さな成功モデルから商品ラインナップの拡大を図ろうとしています。
現在、リコー(RGC DSBCグローバルマーケティング)がグローバルで取り組んでいる施策は、マーケティングの王道といえるものばかりです。しっかりと戦略を練り、オウンドメディアの立ち上げやウェビナーなどを通じてデータを蓄積し、MAを活用しながら営業との連携をすすめています。
また、アジアや他の拠点においてマーケティング人材やコンテンツ制作が不足しているため、グローバルコンテンツの活用とDAM(Digital Asset Management, MarcomCentral利用)を活用したデータ共有による作業効率化も行っている状況です。アメリカとヨーロッパで同じ英語圏のキャンペーン方法を横展開し、効果的な運用を行っています。デマンドジェネレーションとして、基本的なことをひたすら地道に続けております。
一方、グローバルマーケティングの活動には、非常に重要な「売上を伸ばす活動」と「データ基盤を構築する活動」の2つの活動があります。これらの活動の課題は、海外と日本の事業部ごとに分散しており、情報やスキルの連携が不足していることです。
特に後者のデータ基盤の構築には、やはり時間と費用がかかります。
しかし、このように顧客データをシームレスに収集するためのシステム構築は、詳細な要件定義を行う必要があり、MAのようにデジタル接点で得るデータだけに限らず、アナログ接点で得られるデータ運用も意識しなくてはいけません。これには非常に労力がかかっていますが、リコーとしての新たなフェーズに入っていくため、また販社の皆さんの役に立ちたいという気持ちも強いため、今後もチャレンジし続けようと考えています。
今回、我々電通B2Bイニシアティブのメンバー(電通グループ14社の社員)に向けてご講演いただき、ここには掲載しきれなかったことも含め拝聴させていただいたが、一言で言うと「出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれない」ということではないか。むしろ、出過ぎる杭こそ、今まさに求められているのではないかと感じた。記事には掲載していないことも含めると、特に重要なマーケチームと営業チームの連携ポイントは以下だ。
①協創
販社(営業)と一緒になって売れるようになりたいという気持ちと行動
②ゴール共有
メーカーも販社も目指すゴールは同じであることを数字と気持ちで共通認識化すること
③ファン化
独りよがりではなく、仲間を着実に増やし、上層部もしっかりと巻き込むこと
今村さん曰く、前職含め、もともと製造業をBtoBマーケティングで変革することを考えていたわけでなかった。しかし、メーカー(マーケティング部門)と販社(営業部門)に見えない壁があることで機会ロスを生んでいるのであれば「自分も営業と一緒になって悩み、答えを探すことでこの壁を取っ払えるのではないだろうか?」という純粋な気持ちがきっかけだったとのこと。
では「今村さんのような人材だったからこそ、このような改革に着手できたのか?」というと、それだけではない。当たり前かもしれないが、改革のためにはマーケティング部門だけではなく、営業部門の上層部をしっかりと巻き込むことが非常に重要である。製造業であれば、開発部門のトップも巻き込んでいくことが、今後必須になるだろう。今村さんが着手していることは、DXの本質である「カルチャーの変革とマインドセット」であるということだ。
リコーはマーケティング部門から新しい風(問題提起)を巻き起こしているが、それは営業部門(事業部門)から巻き起こすことも可能だ。独りでやってはだめだ。計画的、且つ強かに仲間を集め、ファンにしていく。それこそが重要であると感じた。
この記事がBtoB企業、特に製造業のマーケティング部門、または営業部門の方の一助になると幸いである。