B2B Compass
前編では、ヤマハおよびヤマハファインテックがいかに後発参入のヒートシール検査機市場でリード獲得増加に至ったかについて、超音波ヒートシール検査機「ULTRASONICA」のマーケティング戦略立案のプロセスを中心にご紹介しました。
後編となる本記事では、マーケティング部門と営業の連携のコツやリード5倍に至った経緯についてカスタマージャーニーをもとに詳しくお話しいただきました。また、今後のヤマハが目指す姿や成長戦略についてもお聞きしておりますので、ぜひご一読ください。
ヤマハ ブランド戦略本部 コーポレート・マーケティング部 CX マーケティンググループ
松原 徳美
営業部門、開発戦略部門等複数部門を経た後、2016 年ヤマハのマーケティング部門発足時よりマーケティング業務に従事、現在に至る。
マーケティング実務士の資格を保有。
ヤマハファインテック FA事業部 FA営業部 FA営業グループ
長畑 渓心
ヤマハ株式会社入社後、FA機器メーカーのヤマハファインテック株式会社に出向。未経験・知識ゼロからBtoBマーケティングを学び、現在は「ひとりマーケター」として奮闘中。
INDEX
編集部:マーケティング部門が主導していくなかで、営業との連携がうまく行かない企業も多いのですが、貴社では営業部門とマーケティング部門で衝突することはなかったのでしょうか?
長畑:弊社の営業部門との共通認識として、これまでと同じやり方では「ULTRASONICA」が売れないのではないかという危機感がありました。そこで営業部門の中でもマーケティング戦略が必要だという共通認識があったので、営業部門からの反発というものはほとんどありませんでした。商品自体も未完成のなかで、市場に最適化しながら拡販していくためにはマーケティングの知見が必要不可欠でした。
編集部:営業部門としても危機感があったのですね。営業との連携はどの程度できていますか?
長畑:弊社ではSFAを活用して商談管理を実施しています。今の規模では問題なく連携できていますが、今後事業規模を拡大していく上での課題は山積みです。顧客情報基盤の整備から営業のオートメーション化まで多様な施策にトライしていきます。
編集部:本プロジェクトには、どのように関係者を巻き込んでいったのですか?
長畑:いきなりヤマハのマーケティング統括部との連携を進めようと思ってもうまくいくはずがないので、ヤマハファインテックの社員に向けてヤマハのマーケティング研修プログラムを実施してもらいました。
その研修には営業部門だけでなく、開発部門のメンバーも参加しましたし、役職としても経営層から新入社員まで幅広いメンバーに参加してもらいました。食品シール検査機を題材とした実践的なプログラムを実施したことで、メンバー全員が同じ方向を向くことができたのではないかと感じています。研修プログラムの中では皆で意見を出し合うアイディエーションなどを実施しました。
編集部:たしかに、かなり実践的なプログラムですね。研修はどのくらいの期間で実施したのですか?
長畑:本来であれば約1週間かけてやるようなプログラムなのですが、今回は特に重要な顧客の課題抽出にフォーカスして、2日間の研修を行いました。このような取り組みは初めてのことだったので、色々と試行錯誤しながら進めていきました。
編集部:参加者のモチベーションはどのようにコントロールしたのでしょうか?
長畑:最初の頃はヤマハファインテックの社員も半信半疑な状態ではあったのですが、ヤマハファインテックの社長も巻き込んで研修を実施したことで、参加したメンバーも高いモチベーションを持って取り組んでくれたのかなと感じています。
編集部:細かい部分まで教えていただき、ありがとうございます。やはりトップマネジメントの方々が後押ししてくれると社員も同じ方向が向きやすいですよね。
編集部:BtoBブランディングにおいて既存のブランド資産をビジネスに拡張するコツを教えてください。また、BtoCの事例を活用した具体的な成功事例はありますか?
松原:先ほどもお話しさせていただいたのですが、参入した市場がほぼ寡占市場で、さらに最後発ということもあり、ヤマハブランドを活用した差別化を図る必要がありました。ヤマハは“音・音楽”を通じて「世界中の人々のこころ豊かなくらし」に貢献することを目指しています。また“音・音楽”を原点に培った“技術×感性”を強みとしてさまざまな変革を起こし社会の要請にこたえたいと考えています。そうした観点からも音のヤマハが作る超音波検査機という部分を押し出すことで、優位性を持たせることができたのではないかと感じています。
BtoCの知見を活用した具体的な事例としては、2020年にリリースしました車載オーディオの事例があります。車載オーディオはB2B2Cの案件で最後は消費者になりますので、情緒的価値の側面を強く見せるコミュニケーション戦略を取り、Webサイトやクリエイティブの質にも強くこだわり顧客体験を前面に出したプロモーションを実施しました。どちらの案件においても、お客様をしっかりと捉え、行動変容をどう起こすか、を考え抜くという点においては、これまでのB2Cでの経験が活かせたのではないかと考えています
編集部:たしかにヤマハは音のイメージが強いですよね。ちなみに、これまでにヤマハファインテックではヤマハブランドを活用したブランディングなどは行っていなかったのでしょうか?
長畑:結果だけ見ると音のヤマハブランドを活用したマーケティングをするのは当たり前だと思われるかもしれないのですが、“音・音楽”とはほど遠いビジネスを行ってきたヤマハファインテックにとって、ブランドの活用方法が分かっていませんでした。今回初めてヤマハのマーケティング統括部と協業し、一からお客様に刺さるポイントを整理したことで、ヤマハブランドを最大限に活用するマーケティング戦略を作り出せたのではないかと考えています。
編集部:そうだったのですね。次に、ニッチな新規商材のマーケティングにおいてどのようにリード獲得、ナーチャリングを進めていったのか教えてください。
長畑:社内インタビューを実施したこともそうですが、さまざまなことを言語化してクリエイティブに落とし込むということは、ニッチな商材であっても有効でした。クリエイティブにコストを投じることを含めて、競合企業がやってこなかったようなことを徹底してやり抜くことがリード獲得やナーチャリングに繋がっていったのではないかと考えています。
編集部:今回のプロジェクトの成果を教えてください。
長畑:定量的な成果としては、世界最大級の食品製造総合展であるFooma Japanにおいて、合計で1,000件以上のリードを獲得しました。この数字はヤマハファインテック史上最多のリード数で、従来は200件程度のリードしか獲得できていなかったため5倍の成果となりました。
当日にセミナー視聴してくださったお客様は140社を超え、350社を超える企業と名刺交換ができ、効率的にリードを獲得することができました。
また定性的な成果として、今回のターゲットである食品業界だけでなく、医薬・化粧品など新たな業界との繋がりができました。新しい製品のシーズとなる技術なども得ることができたので、本当に多くの成果を得られたと感じています。
編集部:ちなみに、今回のプロジェクトではメインの目標はどこに設定していたのでしょうか?
長畑:初年度に商品を導入していただけるお客様、いわゆるローンチカスタマーを最重要のKPIとして定めていました。Webサイトの滞在時間を伸ばすことや、多くの動画再生回数を獲得するなどの目標はありましたが、メインとなる指標はローンチカスタマーですね。導入していただいたお客様も徐々に増えてきており、現在も順調に数字を伸ばしています。
編集部:貴社が目指す姿や成長戦略について教えてください。
長畑:ヤマハファインテックとしては、超音波ヒートシール検査機「ULTRASONICA」をグローバルに展開していきたいと考えています。ただ、弊社だけが一人勝ちを目指すのではなく、最終的には業界全体としてレトルトパウチの品質不良ゼロの世界を目指してやっていきたいと考えています。そのためにも、今後はヤマハファインテック自身のブランディングにも注力していきたいです。
編集部:ありがとうございます。最後に、今後取り組む新たなビジネストランスフォーメーションに関する展望などもあれば教えてください
松原:マーケティングを推進していくためのテクノロジーは日々進歩していると感じていますし、その重要性はどんどん増していくと考えています。弊社でもメタバースやAIなどの新たな技術の導入に取り組んでいる最中です。BtoBやBtoCに関係なく、マーケティングを通してヤマハグループとして、今後も人々が音や音楽を通じて豊かな暮らしを楽しんでいくお手伝いができればと考えています。
ヤマハ株式会社の松原様、ヤマハファインテック株式会社の長畑様にインタビュー形式でお話を伺い、後発参入のヒートシール検査機市場でいかにBtoBマーケティングを成功させ、リード獲得5倍に至ったかを前編・後編にわたりお聞きしました。
本記事の内容がBtoB企業のデマンドジェネレーション施策成功の一助となりますと幸いです。