• 2025/05/02
  • 2025/05/07

なぜパートナーは離れていくのか?Partner Relationship Managementに潜む落とし穴と解決策

なぜパートナーは離れていくのか?Partner Relationship Managementに潜む落とし穴と解決策

転校生との距離感、PRMにもそっくり?

たとえば、あなたのクラスに転校生がやってきたとします。
あなたは「一緒に給食を食べたいな」「部活にも誘ってみよう」と思って、声をかけます。
でも……

  • 自己紹介が曖昧で、どんな人かよく分からない
  • 話しかけても反応が薄い
  • 何も言わずに別のグループと仲良くしている

こうなると、だんだんその転校生との関係はギクシャクしていきますよね。


実はこれ、Partner Relationship Management(PRM)でも同じことが起きています。

企業と代理店の関係は、最初の出会いから始まり、徐々に育てていく「人間関係」そのもの。
どれだけ優れた製品や報酬制度を用意していても、相手が「ここではうまくやっていけそうにない」と思ったら離脱してしまうのです。

Partner Relationship Managementとは何か?

Partner Relationship Management(PRM)は、販売代理店やビジネスパートナーと良好な関係を築きながら、製品・サービスの販売を支援・強化するための仕組みです。

一般的にPRMは次のような活動を含みます。

  • 製品情報や価格表の共有
  • 提案資料、営業トークスクリプトの提供
  • 代理店向けトレーニング・認定制度
  • インセンティブ(報奨)制度
  • パートナーポータルや案件管理ツールの提供

でも問題は、「仕組みを整えるだけではパートナーは定着しない」ことです。
その理由を見ていきましょう。

 

パートナーが離れてしまう主な理由とは?

国内外の調査から明らかになっている、パートナーの離脱要因は以下の通りです。

原因 状況 結果
初期オンボーディングが弱い 最初に何をすればよいか分からない 早期に関係が途切れる
売り方が見えない ターゲット、提案方法が不明 提案を避けるようになる
情報提供が一方通行 相談しても応答が遅い 信頼が揺らぎ始める
インセンティブが曖昧 何をどこまでやれば報酬が得られるか不透明 モチベーション低下
継続的な関係構築がない 共に成長する仕組みがない 別のベンダーに切り替えられる

 

離脱は突然起こるわけではありません。
多くの場合、気づかぬうちに「関係が冷めていく」プロセスが進んでいるのです。

最も大きなパートナー離脱の原因「成約インセンティブの限界」

パートナービジネスが思うように回らないとき、その原因として「パートナーにやる気がない」「商材が弱い」といった表面的な指摘がなされることがあります。しかし、数多くのパートナー企業と接点を持つ中で見えてきた本質的な課題は、パートナーの動機付けが「成約」という一点にしか向いていないことにあります。


成果報酬型の成約インセンティブは、一見すると合理的な仕組みに思えます。実際、成果に応じて報酬が支払われることは、無駄のないコスト設計であり、営業活動のモチベーションにもつながると考えられています。しかし現実には、以下のような課題が浮き彫りになります。

  • 商材理解や立ち上げフェーズに時間を割こうとしない
  • 成約確度が不明なリードには消極的
  • 提案前のリード育成や関係構築には取り組まない
  • 一部の優秀な営業担当に依存し、活動が広がらない

つまり、「成約=報酬」という構造は、それ以前の営業プロセスを「時間対効果の悪いもの」と見なしてしまうリスクがあるのです。その結果、「紹介だけして終わる」「提案書を渡したままフォローしない」「案件を共有しても音沙汰がない」といった状態が生まれます。

さらに厄介なのは、パートナー自身が「成果が出なかった=やっても意味がない」と感じてしまい、次第に動かなくなっていくスパイラルに陥る点です。

このような構造的な問題を解消するには、モチベーションの設計そのものを見直す必要があります。具体的には、成約という「結果」だけではなく、「行動」にも価値を見出し、そこにインセンティブを紐づけていくことが重要です。

たとえば、次のような施策が考えられます。


  • 商材トレーニングの受講完了に対する報酬
  • 一定件数の案件登録を評価対象とする制度
  • 商談同席や同行数に応じた活動インセンティブ
  • 市場情報やフィードバックの共有に対するリワード

このように、行動そのものを評価する仕組みを導入することで、成約だけに依存しない関係を築くことができます。もちろん、金銭的な報酬だけでなく、「自分の知見が活かされている」「クライアントに貢献できている」「信頼されている」といった心理的報酬とのバランスも大切です。

パートナーが動かないのは、意欲がないからではありません。動くように設計されていないから動けないのです。重要なのは、「成果が出たから動く」ではなく、「動けるように設計されているから、結果的に成果が出る」という順序で捉えることです。

解決のフレームワーク『PRACTモデル』とは?

こうした離脱を防ぐためには、関係性のフェーズごとに適切な支援を行う設計が必要です。

そのために有効なのが、電通が提唱する『PRACTモデル』です。

このうち、Activate(動機付け)が適切になされていることが最も重要なポイントです。行動プロセスにも価値を置いたインセンティブ設計が継続的な稼働と成果につながる土台になります。

PRACTモデルとは?

PRACTモデルは、パートナーとの関係構築を5つの段階で整理した行動モデルです。

フェーズ
内容
パートナーの心理
本社のアクション
Perception(認識)
製品や企業を正しく理解
「売る価値がありそう」
魅力訴求・紹介資料・ウェビナー
Readiness(準備)
販売に向けた準備が整う
「これなら売れそう!」
研修・提案ツール・営業スクリプト
Activate(動機付け)
実際に提案・営業を行う
「まずは提案してみよう」
同行営業・案件支援・FAQ対応
Collaboration(協働)
一緒に戦略を考え実行
「この会社と一緒に動こう」
共同キャンペーン・定例MTG
Trust(信頼関係)
長期的な関係へ移行
「ずっと付き合っていきたい」
表彰制度・フィードバック共有
 

 

図解:PRACTモデル

パートナーマーケティングの行動モデル「PRACTモデル」

PRACTモデルを実践する成功事例・Salesforce

Salesforceは、世界中に代理店パートナーを展開するクラウド型CRMのリーディングカンパニー。
同社のパートナー支援体制は、PRACTモデルを見事に体現しています。

フェーズ
Salesforceの施策
Perception(認識)
Partner Program」で定期的な製品情報提供と、成功事例の共有。説明会やカンファレンスを通じて魅力を訴求。
Readiness(準備)
認定資格制度を完備した上で、パートナーランクの昇格条件にSalesforce認定資格の保有数を設定し、自主的な学習を促す。
Activate(動機付け)
新規顧客の獲得数やその貢献度をパートナーランクの昇格条件とすることで、販売活動をする動機を作る。加えて、即営業活動に移れる環境整備のために、提案書テンプレート、見積もりツール、案件共有機能を提供。
Collaboration(協働)
一定程度のランク以上のパートナーには共同マーケティングやカスタムGTM支援、営業同行などを実施。ランクアップの対価として、戦略的なキャンペーン設計を協働する。
Trust(信頼関係)
ランクの昇格・維持条件に年間販売金額や顧客満足度を適用するとともに、成果を出したパートナーを「Partner Awards」で表彰。長期関係の維持とモチベーション向上に寄与。

 

 

離脱を防ぐ!実践的な改善策まとめ

ここまでパートナー離脱の主な原因や、PRACT モデルを用いたフェーズごとの重要ポイントを見てきました。では実際に、離脱を防ぐためにどのような対策を講じればよいのでしょうか。

ここからは、企業・代理店双方によく起こりがちな落とし穴と、その改善策を簡潔に整理しました。自社の現状と照らし合わせながら、必要な施策例を確認してみましょう。

よくある落とし穴
解決策の例
認識が曖昧
ウェビナー、製品紹介動画、業界別説明資料
準備が不足
eラーニング、認定制度、FAQ集の整備
販売に結びつかない
提案テンプレート、競合比較表、同行営業
協働感がない
1回の戦略ミーティング、共同キャンペーン
続かない関係
インセンティブ+非金銭的な表彰制度の設計

 

特に、自社のパートナープログラムにおいて適切なインセンティブ設計がされているか、しっかりと振り返ることが重要です。インセンティブは、単なる報酬ではありません。どの行動に価値があるかを明示するメッセージでもあります。

自社が期待する行動が適切に評価される仕組みになっているか——この視点でプログラム全体を見直してみることで、パートナーの行動は大きく変わります。

「成果が出ないから動かない」のではなく、「動くように設計されていないから成果が出ない」。
まずは、プログラム設計にその兆しが潜んでいないかを見極めることが、パートナービジネス再活性の第一歩です。

 

自社のPRMは大丈夫?診断チェックリスト

今すぐチェックしてみましょう。

PRACTモデルに基づく簡易診断(各5点満点)

フェーズ
質問
自己評価
(0〜5)
認識
パートナーは自社の製品や魅力を理解しているか?
 【 】
準備
パートナーが「これなら売れる」と思える支援ができているか?
 【 】
販売活動
パートナーが実際に動きやすいようにツールや情報を提供できているか?
 【 】
協働
一緒に施策を企画・実行する機会が定期的にあるか?
 【 】
信頼関係
継続的な支援や評価制度で、長期関係を築けているか?
 【 】

合計点:_____ / 25点


  • 21〜25点:理想的なPRM運用ができています!
  • 15〜20点:あと一歩!協働や支援体制を見直してみましょう
  • 〜14点:離脱リスクが高めです。まずは準備と認識フェーズから見直しを

 

パートナーは「戦力」ではなく「関係」である

PRMは単なる「代理店管理ツール」ではありません。
人間関係と同じように、丁寧に育てていくものです。

相手の立場に立ち、段階ごとの支援をきちんと設計することで、
「一時的に売ってくれるパートナー」ではなく、
「共に成長するビジネスパートナー」へと進化していくのです。

次回の執筆記事はこちら

「PRM導入のROIを最大化するための5つの指標」
〜施策の価値を可視化し、社内説得力を高めるために〜

参考文献・出典一覧

Salesforce Partner Relationship Management
Allbound: The Ultimate Guide to PRM
Zinfi PRM Blog
Oracle PRM
Partner Prop Lab

「事業成長の新たな新手法「PRM」とは何者か?」ダウンロード

事業成長の新たな新手法「PRM」とは何者か?
梅木 俊成

PROFILE

株式会社電通 第8マーケティング局B2Bマーケティングコンサルティング部 B2Bマーケティングコンサルタント

梅木 俊成

マーケティング、営業部門を経て2020年より現職。 2012年から素材、半導体、産業用ロボット、PC、スマートフォン等の製造業や人事、会計等のSaaS商材等、300社以上の国内外におけるB2B事業コンサルティング及びブランド戦略とデマンド戦略を中心に担当。顧客購買データ分析を起点にオンオフ施策やMA/SFA/CDP等のDXツールの導入、インサイドセールス、カスタマーサクセス体制等の組織構築支援を行う。電通B2Bイニシアティブ共同代表。

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