パートナーとの協業体制を強化し、売上をスケーラブルに伸ばす。
そんな期待を背負って、近年ますます注目されているのがPRM(Partner Relationship Management)の導入です。
PRMは、パートナーとの情報共有や案件管理、販促支援などを一元化できるツールであり、「属人的な対応からの脱却」「業務の効率化」「売上への貢献」が期待される戦略的な仕組みです。
しかし現実には、「PRMを導入したものの、思ったような成果が出ていない」「結局、誰も使わなくなってしまった」という声も少なくありません。
その多くは、「何をもって成功とするか」「どのプロセスをどう改善すべきか」が設計されないまま、ツールだけを導入してしまった結果です。
成果が出るPRMには、見える“構造”がある
PRMを単なる管理ツールではなく、“パートナーと成果を共創する仕組み”として活用するには、導入後のプロセスを明確に設計し、その状態を数値で可視化しながら改善していく必要があります。
本記事では、PRM導入のROIを最大化するために押さえるべき5つのプロセス指標を紹介し、それぞれを1つの分かりやすい数値(KPI)でどう可視化するかを解説します。
INDEX
PRM運用の成否は、導入後の「5つの問い」に答えられるかで決まる
- パートナーの動きは、どこで止まり、どこで進んでいるか?
- 提供した資料や支援は、実際に使われているか?
- パートナーは、案件創出や提案活動まで進めているか?
- パートナー社内の個人別に、活動状況の偏りはないか?
- 一度活用されたパートナーは、継続的に成果を出しているか?
この5つの問いに向き合うためのフレームワークとして、次章から順に解説していきます。
①パートナージャーニーの可視化×フローごとの完了率
代理販売契約というものは「契約すればすぐ販売してもらえる」ものではありません。
実際には、パートナーがどのようなフローをたどって案件創出に至るのか、その行動の可視化(=パートナージャーニーの把握)することが非常に重要です。
特に、PRM導入において多くのパートナーが陥るのは、「PRMの登録までは完了したが、その先の動きが止まっている」という状態。
これは、パートナーが次に何をすればいいか分からない、もしくは動機づけがされていないことで起こる現象です。
ジャーニー設計は「解像度」がカギ
パートナーの活動を整理すると、以下のようなステップが浮かび上がります。
- PRMに登録
- 提供資料の閲覧・DL
- 案件の検討・相談
- 案件申請・登録
- 提案・クロージングへ進行
この一連の流れの中で、「どこで離脱が多いのか」「何がボトルネックになっているのか」を把握しなければ、施策の打ち手も曖昧になります。
KPIで見る「フローごとの完了率」
このステップごとの進行度合いを定量的に捉えるために有効なのが、「フローごとの完了率」です。
例(100名の登録パートナーの動き)
- 100名 登録完了
- 80名 資料DL完了(資料DL率:80%)
- 50名 案件登録完了(案件登録完了率:50%)
このように、各フェーズの完了率を追うことで、「資料はDLされているが案件化していない」などの課題が明確になります。
改善のヒント・次のアクションをガイドする
パートナーの離脱を防ぐために有効なのは、「次にやるべき行動を明示する」ことです。
例えば、
- 「資料」・「すぐ使える提案トークスクリプト」などをひとまとめにした学習コースを整備し、その受講を案内する
- PRMの活用に向け、「初めての案件登録ガイド」をマニュアル・勉強会等で周知
- 一定期間動きがなければ、案件を促すメール通知を送る
PRMを「道に迷わないように誘導するナビゲーター」として設計することで、フローの完了率は大きく向上します。
②オンボーディング施策の実行×コンテンツ資料DL数
パートナーに積極的にアクションしてもらうためには、ただアカウントを渡すだけでは不十分です。
重要なのは、「何をどう使えばいいのか」を理解し、パートナー自身が自走できる状態にまで引き上げること。これを支えるのが、オンボーディング施策です。
オンボーディング=定着の起点
オンボーディングとは、契約初期にパートナーに対して行う、教育・定着支援のことを指します。
営業資料の使い方、案件申請の流れ、提案事例の共有など、最初の1歩を踏み出させるための仕掛けがなければ、パートナーは製品の全容を理解できず、そのまま離脱してしまう可能性があります。
特に「案件登録まで進んでいない」「一度ログインして終わってしまっている」といった課題は、オンボーディング不全が原因であることが非常に多いのです。
KPIで見る「コンテンツ資料DL数」
オンボーディング施策の浸透度を測るうえで、最もシンプルかつ有効な指標が「コンテンツ資料DL数」です。
これは、パートナーが初期に提供された資料やガイドを、どれだけ実際に活用しているかを可視化するものです。
例
-
オンボーディング資料(例:提案トーク集、導入事例集)が10種類
-
合計DL数が300回 → 1パートナーあたり平均3DL
-
特定資料のみDL数が突出 → ニーズや関心テーマが見える
この数値を追うことで、「見られている資料」と「見られていない資料」の違いが分かり、オンボーディング設計の改善にもつながります。
改善のヒント・行動に結びつくコンテンツを設計する
効果的なオンボーディングとは、パートナーの次のアクションを促すコンテンツ設計にあります。
読んで終わりではなく、“読んだあとに動きたくなる”資料やガイドを用意することが、オンボーディングの質を左右します。
③パートナーのアクティベーション×案件登録数
PRM導入の目的は、「使われること」ではなく「成果につながること」です。
つまり、ログインしただけ、資料をダウンロードしただけではROIは生まれません。
本当に重要なのは、パートナーが実際にアクションを起こし、案件創出に踏み出しているかどうかです。
この状態を私たちは「アクティベーションされた状態」と捉えます。
アクティベーション=成果の起点
アクティベーションとは、パートナーがPRMを通じて具体的な提案活動や案件登録を始めた状態を指します。
ここで初めて、パートナービジネスが動き出したと評価できます。
導入初期にアクティブだったパートナーでも、実際に案件登録まで進まなければ、売上インパクトは生まれません。
一方、案件登録まで進んだパートナーは、その後も継続的に成果を生む傾向が高いため、アクティベーションはPRM運用の転換点となります。
KPIで見る「案件登録数」
この段階の活性度合いを最もシンプルに測るのが、「案件登録数」という指標です。
例
- 月間の案件登録数:75件
- アクティベーション済みパートナー数:25社
→ 1社あたり平均3件の案件を登録
案件登録数が増えるほど、PRMの商流への接続度が高まっている証拠となり、売上インパクトの予測にも活用できます。
また、登録のないパートナーに対しては、追加フォローやインセンティブ設計などによって“最後のひと押し”を行うべき段階だと判断できます。
改善のヒント・登録を促す仕掛けを用意する
案件登録というアクションを促すには、次のような施策が効果的です。
- 成果事例の共有 → 「他社もやっている」ことが心理的ハードルを下げる
- 登録時のテンプレート化 → 「書きやすさ」が行動を後押し
- 初回登録特典や表彰 → ゲーミフィケーションの要素も有効
重要なのは、パートナーが「自分もできそう」と思える環境を整えることです。
そのためには、使いやすさ・タイミング・動機づけをトータルで設計する視点が欠かせません。
④パートナー個人別の活動指標
なぜ“個人別”なのか?
PRMのダッシュボードに総量指標だけを並べていては、真にインパクトのある打ち手は見えてきません。
案件総数やリード総数はエコシステム全体のボリューム感を示すに過ぎず、個々のパートナー担当者(AE・コンサルタント・営業)の“稼ぐ力”を捉え切れていません。
エリート数名が数字を牽引しているのか、全員がまんべんなく成果を出しているのか。この違いは運用上の課題も施策もまったく変わります。
そこで登場するのが「一人当たりリード数」と「一人当たり案件数」。
個人単位での生産性を見ることで、「何がボトルネックか」「誰を支援すべきか」が一目で判別可能になります。
KPIで見る「一人当たりリード数・案件数」
例(あるパートナーの営業担当者別成績)
担当者 | 登録リード数 | 登録案件数 | リード→案件転換率 |
Aさん | 18件 | 8件 | 44.4% |
Bさん | 22件 | 3件 | 13.6% |
読み取りポイント
1.量より質のギャップ
- Bさんはリード数ではAさんを上回るが、案件化率は約1/3
- リード量産が先行し、ニーズの深掘りや提案フェーズで失速している可能性
2.ヒアリング精度・提案スキルの差
- Aさんは転換率が40%超。課題仮説→解決提案までの一連フローに再現性あり
- Bさんはヒアリング後の「次の一手」が曖昧か、見積・導入イメージ提示が弱い恐れ
3.入力タイミングの違い
- Bさんは案件入力が遅いことで実数値が低く見えている場合も
- フォローアップで「入力遅延」vs「実案件欠如」を切り分けると対策が明確になる
改善のヒント・ノウハウの横展開&平準化
こうして課題が特定できたのちには、以下のような施策が有効です。
Aさんの成功パターンを横展開
- Aさんのヒアリング質問集・提案資料をテンプレ化し、Bさんへ即共有
- 月次の「Best Practice Live」で案件化フローをライブ解説
提案フェーズのスキルアップ
- ペアロールプレイでBさんの商談を録画し、フィードバック
- コールレビューで失注理由をタグ付けし、改善ポイントを可視化
案件入力の即時化
- Slack Botで「商談終了30分後」に入力リマインド
データドリブンなフォロー体制
- 週次ダッシュボードで「リード数・案件数・転換率」を自動スコアリング
- スコア低下時にはCSが個別コーチングを即トリガー
例えば、 Aさんのヒアリング質問と提案資料をテンプレ化してBさんに共有し、月例の「Best Practice Live」で案件化フローを短時間で学べる場を設けます。次にBさんの商談を録画し、タグ付きコールレビューで弱点を特定してピンポイントで補強。
さらにモバイル対応フォームとSlackリマインダーで商談後すぐの案件入力を徹底し、データ遅延を解消します。最後に週次ダッシュボードでリード・案件・転換率を自動スコアリングし、数値が落ちた担当者へCSが即コーチングを開始。
この4ステップを同時に回すことで、Bさんの転換率を底上げし、全体の案件化スピードを加速させることができます。
このような活動を継続的に行っていくことが重要です。
⑤パートナーのリテンション×継続利用率
PRM導入のROIは、単発の成果では測れません。
本当に価値を発揮するのは、「成果を継続的に生み出すパートナーが増え続ける状態」をつくれるかどうかです。
そのために必要なのが、リテンション=パートナーとの関係性の維持と強化です。
リテンションがROIの本質を決める
導入初期に活発だったパートナーも、時間とともに活動が減り、フェードアウトしてしまうことは少なくありません。
それを防ぐためには、「成果が出たら終わり」ではなく、成果が出たからこそ、さらに支援を継続するという姿勢が必要です。
リテンションは、「パートナー側のモチベーション」「自社からの継続的支援」「成果の再現性」という3つの要素によって成り立ちます。
PRMのROIを最大化するには、導入後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月といった長期スパンで、どれだけのパートナーが継続活用しているかを明確に把握する必要があります。
KPIで見る「継続利用率」
この段階の評価に使える代表的な指標が、「継続利用率」です。
これは、一定期間(例:過去3ヶ月)にわたって、継続してログイン・活用しているパートナーの割合を示します。
例
- 登録パートナー数:100社
- うち過去3ヶ月間で1回以上ログインしているパートナー数:60社
→ 継続利用率:60%
この数値をもとに、アクティブなパートナーに対しては表彰・情報提供を強化し、休眠傾向のあるパートナーには再活性化施策を打つ、といったメリハリのある支援設計が可能になります。
改善のヒント・継続支援プログラムの設計
リテンション向上のためには、以下のような仕掛けが有効です。
- 定期的なアップデート通知(機能追加や新資料の案内)
- 案件実績に応じたインセンティブ制度
- コミュニティ化(オンライン座談会、成功事例共有会 など)
- サクセスマネージャーによる定期フォロー
重要なのは、「使い続ける理由」を提供し続けることです。
PRMを“パートナーの営業活動の一部”として自然に組み込めたとき、リテンションは飛躍的に高まり、ROIも着実に積み上がっていきます。
PRMのROIは、仕組みと数字で育てていく
PRMは単なるツールではありません。
それは、パートナーとの協業を“再現性のある仕組み”に変えるための、戦略的なインフラです。
しかし、導入しただけで成果が出るものではなく、成果を生むためのプロセスをどう設計し、どう数値で可視化するかが成功のカギを握ります。
各プロセスと数値を1つずつ設計し、運用し、改善していくこと。
それが、PRM導入のROIを最大化する最短ルートです。
ツールではなく、「関係性の資産」として育てる
PRMは、パートナーとの関係性を蓄積し、可視化し、強化する“関係資産”です。
目先の案件管理や効率化だけでなく、長期的に成果を出し続けるエコシステムを構築する土台と捉えるべきです。
だからこそ、自社に合ったプロセス設計とKPI設計を行い、「どのパートナーが、どの段階で、どんな支援を必要としているか」を見える化することが、PRM運用における最大の武器になります。
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PROFILE
株式会社電通 第8マーケティング局B2Bマーケティングコンサルティング部 B2Bマーケティングコンサルタント
梅木 俊成