• 2026/01/30
  • 2026/01/30

AIとPRM:次世代パートナーエンゲージメントの形

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はじめに:PRMは「記録するシステム」から「思考するシステム」へ

2025年、ビジネスのあらゆる領域でAI(人工知能)の実装が進む中、パートナービジネスの世界もまた、かつてない変革の時を迎えています。

これまでのPRM(パートナー関係管理)システムは、契約情報や売上データを管理するための「System of Record(記録のシステム)」としての側面が強いものでした。しかし今、生成AIと予測AIの融合により、PRMはパートナーの行動を予測し、最適な支援を自律的に行う「System of Intelligence(知能のシステム)」へと進化を遂げようとしています。

労働人口の減少が深刻化する日本において、限られたリソースでパートナー網を拡大し、成果を最大化するためには、AIの活用が避けて通れません。本稿では、グローバルな先行事例を紐解きながら、AIがもたらす「次世代パートナーエンゲージメント」の姿を考察します。

1. 「AIエージェント」がパートナー担当者の分身となる

これまでのパートナー支援(イネーブルメント)における最大の課題は、「リソースの壁」でした。メーカーの担当者1人が数十社、時には数百社のパートナーを担当する状況では、きめ細やかなサポートは物理的に不可能です。

この壁を打ち破るのが、2025年のトレンドである「Agentic AI(自律型AIエージェント)」です。

24時間365日対応の「AIコンシェルジュ」

Salesforceの「Agentforce」に代表されるように、最新のAIエージェントは単なるチャットボットではありません。パートナーからの「この製品の最新の仕様書はどこ?」「競合他社A社に対する勝ち筋(キラーフレーズ)を教えて」といった質問に対し、社内の膨大なナレッジベースから即座に回答を生成・提示します。

これにより、パートナーはメーカー担当者の返信を待つことなく、必要な瞬間に必要な情報を手に入れ、商談を進めることが可能になります。これは、パートナー体験(PX)を劇的に向上させる要素となります。

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営業ロープレの相手役

また、AIは教育の現場でも威力を発揮します。Seismicなどのセールステック企業が提供する「AIロールプレイ」機能では、AIが仮想の顧客(例えば「予算に厳しい情シス部長」)になりきり、パートナー営業担当者と商談の練習を行います。

AIは即座にフィードバックを行い、「今の説明ではコストメリットが伝わりにくいです。こう言い換えてみましょう」といった具体的なコーチングを提供します。これにより、集合研修を行わずに、個々の営業担当者のスキルを標準化・底上げすることが可能になります。

2. 「予測」がもたらすプロアクティブな支援

従来のパートナー管理は、売上報告書を見てから対策を練る「事後対応(リアクティブ)」が中心でした。しかし、AIによるデータ分析は、これを「事前対応(プロアクティブ)」へと変えます。

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離脱リスクと推奨アクションの提示

Cisco Systemsのパートナープラットフォーム「PXP」では、AIがパートナーのパフォーマンスや顧客の契約状況を分析し、「どの顧客のライセンス更新が迫っているか」「どのパートナーに離脱の兆候があるか」を予測して提示します。

さらに、AIは「このパートナーはセキュリティ製品の販売が得意なので、新製品のキャンペーンを優先的に案内しましょう」といった具体的なネクストアクションまでレコメンドします。これにより、メーカー担当者は「勘と経験」ではなく、「データと予測」に基づいて戦略的に動くことができるようになります。

アカウントマッピングの自動化

パートナーとの協業において最も時間を要するのが、「お互いの顧客リストを突き合わせ、攻略すべきターゲットを決める」作業(アカウントマッピング)です。

次世代のPRM環境では、セキュアな環境下でAIが双方のデータを分析し、「パートナーA社は、当社が攻めあぐねている業界Bへの強力なパイプを持っている」といったシナジーを瞬時に特定します。これにより、協業の初速が劇的に向上します。

3. 日本企業におけるAI活用の勝ち筋

「人手不足」と「属人化」に悩む日本企業こそ、AI×PRMの恩恵を最も享受できる土壌があります。

アナログ業務からの解放

日本のパートナービジネスの現場では、いまだにExcelでの案件管理や、メールでの質疑応答に多くの時間が割かれています。

PartnerPropをはじめとする最新のPRMツールとAIを組み合わせることで、契約手続き、案件登録、Q&A対応といった定型業務の大半を自動化(オートパイロット)できます。空いたリソースを、トップパートナーとの戦略立案や、人間同士の信頼構築といった「人間にしかできない業務」に集中させることこそが、生産性向上の鍵です。

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「ブラックボックス」への光

「代理店がどう売っているか分からない」というブラックボックス化の問題も、AIが解決の糸口になります。

パートナーポータル上の行動ログ(どの資料を見たか、どのテストを受けたか)や、登録された案件の進捗データをAIが解析することで、各パートナーの「得意分野」や「つまずきポイント」が可視化されます。これにより、一律の支援ではなく、個社ごとの課題に合わせたパーソナライズされた支援が可能になります。

結論:AIは「冷たい自動化」ではなく「温かい関係深化」のために

AIの導入というと、「人間関係が希薄になるのではないか」という懸念を持つ方もいるかもしれません。しかし、PRMにおけるAI活用の本質は逆です。

煩雑な事務作業や問い合わせ対応をAIに任せることで、メーカーとパートナーの担当者は、より本質的なビジネスの議論や、未来に向けた共創の対話に時間を使えるようになります。

「管理」のための工数をゼロに近づけ、「共創」のための熱量を最大化する。AIはそのための強力なエンジンであり、次世代のパートナーシップを築くための必須ツールと言えるでしょう。

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事業成長の新たな新手法「PRM」とは何者か?
梅木 俊成

PROFILE

株式会社電通 第8マーケティング局B2Bマーケティングコンサルティング部 B2Bマーケティングコンサルタント

梅木 俊成

マーケティング、営業部門を経て2020年より現職。 2012年から素材、半導体、産業用ロボット、PC、スマートフォン等の製造業や人事、会計等のSaaS商材等、300社以上の国内外におけるB2B事業コンサルティング及びブランド戦略とデマンド戦略を中心に担当。顧客購買データ分析を起点にオンオフ施策やMA/SFA/CDP等のDXツールの導入、インサイドセールス、カスタマーサクセス体制等の組織構築支援を行う。電通B2Bイニシアティブ共同代表。

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