
BtoBビジネスにおいて、デジタルマーケティングは単なるリード獲得手段ではなく、リード創出・育成・商談化・成約・LTV(顧客生涯価値)最大化までを一貫して最適化するための戦略的枠組みとして位置づけられています。
しかし、実際には、認知獲得に注力しすぎて商談化率が低い、あるいは各フェーズが分断されて顧客体験が途切れるなど、ファネル全体を効果的に管理・最適化できていない企業が多いのが現状ではないでしょうか。
今回は、ファネル視点でBtoBデジタルマーケティングを整理し、各段階での最適なアプローチを紹介します。
INDEX
デジタルマーケティングにおけるファネルとは?
BtoBのデジタルマーケティングにおける「ファネル」とは、見込み顧客が購買・継続に至るまでのプロセスを段階的に可視化したモデルのことです。
顧客の心理や行動を理解し、それぞれの段階に応じた最適な施策を設計することで、リード獲得から契約、そして継続的な関係構築までを一貫して支援できます。
BtoBでは、購買決定に複数の関係者が関わるため、ファネルを活用して顧客育成と意思決定支援を体系的に行うことが成功の鍵となります。
BtoBデジタルマーケティングにおけるファネルの基本構造
BtoBのファネルは、一般的に以下の6つのフェーズで構成されます。
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フェーズ
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定義
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主な目的・特徴
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| 認知 | 自社や製品の存在を知ってもらう段階 | ブランド認知、情報発信 |
| 興味 | 顧客が関心を持ち、情報を収集する段階 | 関心喚起と情報提供 |
| 比較 | 他社製品と比較検討する段階 | 差別化要因の明確化・ROI比較・機能比較表の提供 |
| 検討 | 導入に向けて社内調整を行う段階 | 導入意欲の醸成と合意形成 |
| 購買 | 契約・購入を行う段階。多部門間(経営層・現場・IT・購買・法務)の合意形成 | 手続きの円滑化 |
| 継続(カスタマーサクセス) | 購入後の活用・リピート促進段階 | 顧客満足・アップセル |
BtoBでは『購買後の継続フェーズ』が特に重要です。新規獲得コストの5〜25倍の効率性を持つアップセル・クロスセル機会の創出、また顧客推奨による質の高い新規リード獲得など、カスタマーサクセスを通じたLTV最大化が事業成長の鍵となります。
ファネル視点で考える際の基本ポイント
ファネルを活用する際は、単に段階を分けて管理するだけでなく、顧客体験を途切れさせない連続的な設計が重要です。
- ファネル全体の連動性を意識する
各フェーズがスムーズに次へ移行できるように、一貫したストーリー設計を行う - 顧客ジャーニー視点を取り入れる
ファネルを企業目線ではなく、顧客の心理変化と行動データとして捉える。デジタル・対面の複数タッチポイントを横断した顧客体験を設計する - フェーズごとの目的を明確化する
認知なら情報発信、検討なら提案支援など、目的に応じた施策を設計する - データ分析で改善を繰り返す
各段階の成果をデータで可視化し、PDCAを高速で回す
BtoBのデジタルマーケティングでファネル運用を成功させる7つの実践ポイント
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実践ポイント
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概要
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ファネル運用への効果
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| 顧客の購買プロセスを正確に捉える | 「課題認識→検討→導入→活用」といった購買の流れを可視化し、各段階の顧客心理と行動を把握する | 適切なタイミングで最適施策を打てる |
| 各段階に応じて目的と施策を最適化 | フェーズごとの目的(認知・興味・比較・検討・購買・継続)を定義し、KPI(重要業績評価指標)と施策をセットで設計 | 各フェーズの成果指標が明確化し、リードの質が向上 |
| 次のステップに進む導線を設計する | 各施策から次の行動(例:資料DL→ウェビナー→商談)へのCTAを明確に設計 | コンバージョン率と顧客体験の一貫性が向上 |
| ボトルネックを可視化して改善する | 離脱ポイントを定量的に把握し、原因を多角的に分析(コンテンツの質・ターゲティング精度・営業フォロースピード・UI/UX・価格設定等)して優先順位をつけて改善 | ファネル全体の通過率が改善し、成果効率が上昇 |
| データドリブンな意思決定を行う | CRM(顧客関係管理)・MA(マーケティングオートメーション)ツールを活用し、コンバージョン率や商談化率を分析。データに基づくPDCAを実践 | 感覚的判断を排除し、継続的な成果改善が可能に |
| 顧客視点のコンテンツ設計を徹底する | 顧客の課題解決に焦点を当て、ペルソナ・業界・役職別にフェーズ別に最適な情報提供(例:課題記事・比較表・事例紹介)を行う | 顧客の興味喚起と信頼醸成を促進 |
| マーケティングと営業の連携を強化する | MQL(Marketing Qualified Lead)〜SQL(Sales Qualified Lead)〜契約までのリード情報を共有し、共通KPIで連携を強化、定期的なフィードバックループを構築 | リードナーチャリングが円滑化し、受注率が向上 |
デジタルマーケティングの基本情報はこちらをご参考ください。
【5分でわかる】デジタルマーケティングとは?基本と実施プロセス&手法一覧、成功事例を紹介
ファネルごとに考えるBtoBデジタルマーケティングのコンテンツ施策とタッチポイント

BtoBデジタルマーケティングでは、購買プロセスが長期化(平均3〜12ヶ月)・多人数関与平均6〜10名の意思決定者)・情報収集型であることから、ファネルごとに「信頼獲得」と「ナーチャリング」の設計が成果最大化の鍵となります。
また、顧客は直線的ではなく各フェーズを行き来する非線形な購買行動を取るため、柔軟な対応が求められます。
顧客が自然に次のステップに進める「ファネル間のつながり」を設計する
BtoBでは、ファネルは単なる段階の積み重ねではなく、顧客の購買ジャーニーを形成する連続的なプロセスです。各フェーズを連動させることで、離脱防止と成果最大化が可能になります。
- 顧客心理変化に沿ったコンテンツ連携
認知→興味→比較→検討→購買へと段階的に情報提供
例:認知フェーズでの業界課題記事→興味フェーズで詳細調査レポート→比較フェーズでケーススタディ - タッチポイントのシームレス連携
Web、メール、SNS、ウェビナー、オフライン展示会、セミナーなどデジタル・リアル双方の複数チャネルを統合し、一貫した体験を提供 - 次ステップを促す明確なCTA
例:資料請求→ウェビナー登録→デモ申込 - 顧客データ活用
行動履歴や反応を分析し、フェーズに応じた最適なタイミングでのフォローアップを実施
1.顧客教育(エデュケーション)が重要
BtoBでは、複雑で長期の購買プロセスを考慮し、顧客に価値を理解してもらう「顧客教育」が不可欠です。
顧客の約70%は営業と接触する前に独自調査を完了しているとされ、単なる商品情報ではなく、課題認識の醸成や解決策提示→導入価値の実証という段階的な教育を通じて、次の比較・検討フェーズへスムーズに誘導します。
顧客教育に有効な施策と役割
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施策
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役割・特徴
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狙う心理ステージ
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| 調査レポート・ホワイトペーパー |
業界動向、トレンド、課題構造などを客観的なデータで提示し、顧客に「自社も同様の課題を抱えているかもしれない」と気づかせる。 単なる資料ではなく、「課題認識を促す教育型コンテンツ」として機能する。 リード情報を取得し、ナーチャリングの起点としても活用可能 |
認知・興味 |
| 成功事例・ケーススタディ |
実際の導入企業の成果や改善データを提示し、具体的な成果を可視化。 「自社と同じ課題を解決できるかも」という共感を生み、購買後のイメージを具体化する。 BtoBでは社内稟議や決裁を通す際の説得材料にもなる |
比較・検討 |
| ウェビナー・セミナー |
顧客とリアルタイムに接点を持ち、課題解決への具体的なアプローチを提示。 質疑応答によって疑問や不安をその場で解消し、関係構築+教育を同時に行える。 録画アーカイブをオンデマンド配信することで、継続的なリード育成にも活用可能 |
興味・検討 |
| ブログ・専門記事 |
業界知識やトレンド解説、課題解決ノウハウなどを継続的に発信。 SEOにより検索経由での流入を増やし、ロングテールキーワードからのリード獲得を狙う。 E-E-A-T(Experience, Expertise, Authoritativeness, Trustworthiness)の強化:実務経験・専門性の明示 • 生成AI時代の差別化:独自データ・一次情報・実践的ノウハウで差別化 |
認知・興味 |
| FAQ・ガイド資料 |
製品導入前に生じる疑問や不安を先回りして解消。 「サポート体制」「導入プロセス」「費用対効果」など、意思決定に直結する懸念を払拭する。 営業への問い合わせ前に心理的ハードルを下げ、購買をスムーズにする |
検討 |
運用のポイント
顧客教育の施策は単なる情報提供ではなく、ナーチャリングの一環として設計することが重要です。具体的には以下が挙げられます。
- 調査レポートは最新データや独自分析を盛り込み、説得力を高める
- ケーススタディではROI(投資利益率)や業務改善数値を明示し、意思決定を後押し
- ウェビナーはQ&Aや双方向コミュニケーションを重視し、理解度を高める
- コンテンツの相互連携
1つのコンテンツから次のコンテンツへの自然な導線を設計
例:ブログ記事→ホワイトペーパーDL→ウェビナー案内→ケーススタディ→デモ申込 - 効果測定の実施
ダウンロード数だけでなく、その後の商談化率・成約率まで追跡し、コンテンツの質を継続的に改善
2.複数ステークホルダーを意識したコンテンツ設計
BtoBでは、平均6〜10名の意思決定者(経営層、現場担当者、IT部門、購買/調達部門、法務・コンプライアンス)など、複数の意思決定者が関与します。
各ステークホルダーが異なる判断基準を持つため、それぞれの関心や課題に応じた情報提供が、ファネル全体の進行を円滑にし、社内合意形成を加速します。
ステークホルダー別コンテンツ例
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ステークホルダー
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主な関心・課題
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具体的コンテンツ例
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推奨接触段階
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| 経営層 | ROI、戦略的価値、事業成長 | ROIレポート、戦略ホワイトペーパー、業界動向資料 | 認知〜比較 |
| 現場担当者 | 使いやすさ、導入効果 | 操作マニュアル、導入事例動画、FAQ、製品デモ | 興味〜検討 |
| IT部門 | セキュリティ、システム連携 | 技術仕様書、セキュリティ評価、APIドキュメント、技術ウェビナー、既存システム連携実績、運用マニュアル、サポート体制説明 | 比較〜購買 |
| 購買/調達部門 | コスト妥当性、契約条件、支払条件 | 価格表、契約書サンプル、支払条件資料、TCO(Total Cost of Ownership)分析資料、競合価格比較、ボリュームディスカウント情報 | 検討〜購買 |
| 法務/コンプライアンス | 契約リスク、規制対応、SLA(ServiceLevelAgreement) | 契約リスク評価、ガイドライン、SLA文書、データ保護方針、GDPR/個人情報保護対応、監査レポート、コンプライアンス認証(ISO等) | 検討〜継続 |
運用のポイント
各ステークホルダー向けコンテンツは、単に提供するだけでなく、心理変化や購買判断のタイミングに合わせて設計することが重要です。具体例として、以下が挙げられます。
- 経営層にはROIや事業成長視点を数字で示す
- 現場担当者には操作性や導入効果を視覚的に伝える
- IT部門には技術的要件やセキュリティ情報を詳細に提供
- 購買/調達には契約・費用情報を透明化して安心感を与える
- 法務/コンプライアンスには規制・SLA情報をタイムリーに提示
3.ファネル段階別の主要施策とタッチポイント
BtoBデジタルマーケティングでは、ファネル段階ごとに施策とタッチポイントを最適化することで、顧客の購買ジャーニーをスムーズに進めることができます。
ただし、実際の顧客行動は直線的ではなく、各段階を行き来する非線形パターンを取るため、柔軟な対応と複数段階への同時アプローチも重要です。
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ファネル段階
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主要施策
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タッチポイント
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目的・効果
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| 認知 | SEO、Web広告、SNS投稿、業界メディア寄稿 | 検索エンジン、SNS、ニュースサイト、オンライン展示会 |
ブランド認知向上と潜在顧客の獲得。 製品訴求よりも「課題理解」を軸とした情報発信で、信頼の初期接点を形成 |
| 興味 | ホワイトペーパー配布、ウェビナー、メールマーケティング | メール、ダウンロードページ、ウェビナープラットフォーム |
顧客教育とナーチャリングの開始。 課題解決への関心を深化させ、信頼関係を醸成。将来的な商談化につながる見込み顧客の育成を狙う |
| 比較 | 製品比較表、ケーススタディ、顧客の声 | 製品サイト、動画、比較ページ |
競合との差別化と信頼獲得。 製品の導入価値を数値化・実証し、意思決定者への説得材料を提供 |
| 検討 | 提案資料、無料デモ、ROIシミュレーション | 営業面談、オンラインデモ、ポータルサイト |
導入検討促進と社内合意形成。 顧客の懸念を払拭し、購買決定を後押しする |
| 購買 | 契約手続き簡素化、営業フォロー | 契約管理システム、メール、オンライン購入ページ |
購買決定の円滑化と顧客体験の最適化。 ストレスのない導入体験を提供し、満足度を高める |
| 継続 | 定期フォローアップ、アップセル、コミュニティ運営 | メールニュース、カスタマーサポート、コミュニティ |
顧客満足度向上と長期関係構築。 LTV最大化、アップセル/リピート促進、顧客推奨(紹介)効果の創出 |
運用のポイント
以下のポイントを踏まえ、ファネル段階ごとの施策を連動させることが重要です。
- 認知で興味を引き、興味段階で詳細情報を提供
- 比較・検討では具体事例やROIで意思決定をサポート
- 購買・継続段階では契約やフォロー施策で顧客体験を最適化
- 非線形ジャーニーへの対応
顧客は直線的に進まず、比較と興味を行き来する。各フェーズの施策を同時並行で提供できる体制を構築 - 施策間の連携設計
例:ウェビナー参加者に自動でケーススタディを送付、資料DL者にはデモ案内を配信など、行動に応じた次のアクションを自動設計 - マーケと営業の引き継ぎ最適化
検討フェーズでのMQL→SQLの移行基準(SLA)を明確化し、タイムリーな営業介入を実現 - データに基づく継続的改善
各フェーズの転換率を定期的に分析し、ボトルネックを特定。A/Bテストで施策を継続的に最適化 - カスタマーサクセスからのフィードバックループ
継続フェーズの顧客の声を認知〜検討フェーズのコンテンツに反映し、リアルな価値訴求を実現
4.リード獲得→ナーチャリング→商談化のフロー
BtoBのリード運用では、単なる情報収集ではなく、リード獲得後に段階的な育成(ナーチャリング)を行い、適切なタイミングでホットリードを営業に渡すプロセスが成果を左右します。
ステップと施策
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ステップ
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目的・役割
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施策例
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| リード獲得 |
潜在顧客との初期接点を拡大し、見込み顧客情報を収集するフェーズ。 「課題解決」を起点としたコンテンツで興味を引き、フォーム入力やイベント参加などを通じてリードを獲得 |
Web広告、SEO、ホワイトペーパーDL、ウェビナー、SNS |
| リードスコアリング |
獲得したリードの関心度・購買意欲・属性適合度を定量化し、優先順位を明確化するプロセス。 行動データ(資料DL、サイト滞在時間、メール開封率など)と属性データ(業種・職種・規模)を掛け合わせ、MAツールでスコアリング |
行動履歴分析、属性評価、MAツールで点数化 |
| ナーチャリング |
まだ購買検討段階にないリードや検討が停滞しているリードに、段階的に有益情報を提供して関心を育てるフェーズ。 コンテンツ配信を通じて「課題理解→解決イメージ形成」を促し、温度感を高めていく |
パーソナライズメール、コンテンツ提供、ウェビナー案内 |
| 商談化 |
スコアが一定基準を超えたホットリードを営業へ引き渡し、商談・成約を目指す段階。 マーケティングと営業の情報共有を密に行い、リードの興味関心を営業活動に反映 【成功の鍵:SLA(Service Level Agreement)】 マーケと営業間で以下を明文化 • MQLの定義:どのスコアで営業に渡すか(例: 80点以上) • 営業の対応期限:リード引き渡し後、何時間以内に初回接触するか(例:24時間以内) • フィードバックルール:営業からマーケへの結果報告(商談化の可否、理由) • 再マーケ基準:商談化しなかったリードをマーケに戻す基準 SLAがないと、「マーケが渡したリードに営業が対応しない」「温度が低いリードばかり渡される』といった部門間の不和が生じる」 |
CRM連携、営業フォロー、商談管理 |
MAツール活用のポイント
- 行動に応じたスコアリング(例:資料DL3点、ウェビナー参加5点、問い合わせ10点)
- 一定スコア以上で自動的に営業通知、タイムリーなフォローを実施
- スコアの減衰設計
古い行動は徐々にスコアを減らす(例:30日で−20%)。過去に興味があっただけのリードを誤って営業に渡すことを防止 - ネガティブスコアの設定メール配信停止
(0点)、競合企業(0点)、学生(0点)など、不適格なリードを自動で除外 - CRM連携の完全性
MAとCRMのデータが常に同期され、営業が最新のリード情報にアクセス可能 - 育成シナリオの自動化
スコアやセグメントに応じて、自動でメール配信・コンテンツ推薦を実施 - 効果測定の定期実施
スコアリングモデルの精度を定期的に検証し、成約につながる行動をより高く評価するよう継続的に改善
BtoBのデジタルマーケティングでは、ファネルごとの信頼構築とナーチャリング設計が不可欠であり、ステークホルダーごとの関心と購買心理に沿ったコンテンツ提供が成果を左右します。
ファネル間の連動、施策の具体化、データドリブンな運用が、リードから商談化までの流れをスムーズにするのです。
これらを意識した設計と運用により、BtoB特有の長期・多人数関与型購買プロセスでも、デジタルマーケティング施策の効果を最大化できます。
成功のための3つの原則
- マーケと営業の連携強化
SLAの明文化と定例ミーティングで部門間の壁を解消 - データドリブンな継続改善
スコアリングモデルやナーチャリングシナリオをデータに基づき定期的に見直し - 顧客視点の徹底
リードを「数」ではなく「将来の顧客」として扱い、価値提供を最優先する文化の醸成
わたしたち電通B2Bイニシアティブでは、BtoB事業活動全般の戦略立案はもちろんのこと、デジタル領域の知見を活用した具体的な施策の実行から最終的な成果を分析・改善し続けるためのサイクルの創出まで伴走支援が可能です。
支援の詳細については、以下をご覧ください。
BtoBデジタルマーケティングにおけるファネル活用型運用改善プロセス

BtoBマーケティングの現場では、単発の施策だけでは成果を安定させることが難しいのが現実です。実際、多くの企業でファネル全体の転換率は1〜5%程度に留まっており、リード獲得から購買、さらには継続的な顧客関係の構築までを一貫して最適化することが、転換率を2〜3倍に高める鍵です。
ここからは、「ファネルを活用した運用改善」の考え方と、実務での具体的プロセスを体系的に解説します。ツールの活用例やデータ分析のポイントも交えながら、現場で即実践できる内容にしています。
ファネル運用改善の全体像
BtoBマーケティングでは、リードの質や量をただ追い求めるだけでなく、施策同士の連携や顧客のジャーニー全体を意識した全体最適化が不可欠です。
なぜ全体最適化が重要なのか
- 単一施策だけを最適化しても全体成果は上がらない
→単一施策の成果だけを追うと、リードは増えても商談化や契約率が伸びないケースが多い
例:広告最適化でリード数が2倍になっても、質の低いリードばかりで商談化率が半減すれば、最終的な成約数は変わらない - ファネル全体を俯瞰することでボトルネックが明確になる
→顧客ジャーニーのどの段階で離脱が起きているかを把握することで、施策の優先順位を明確化できる
例:商談化率が低い場合、検討フェーズの施策(提案資料・デモ等)を強化すべきであり、認知施策の追加は無駄になる
実務で意識すべきポイント
- データドリブンな意思決定
リードや行動データに基づき施策を評価。感覚的判断を排除 - 継続的なPDCA
小さな仮説検証を積み重ねて施策を改善。週次・月次での振り返りを習慣化 - 部門間連携
マーケティング、営業、カスタマーサクセスで情報共有。SLA(Service Level Agreement)を明文化し、部門間の責任を明確化 - 柔軟な施策適応
市場や顧客ニーズの変化に応じて見直す。四半期ごとの戦略レビューを実施
1.各ファネルのリード実数把握
運用改善の第一歩は、リードの正確な把握です。BtoBでは、1件のリードが商談化するまでに複数のステップを経るため、各段階でのリード数や離脱率を正確に捉えることが成果向上につながります。
ファネル例(目安)
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ファネル段階
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離脱率目安
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ポイント
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| 認知→興味 | 30〜50% | ターゲット設定やメッセージの適合性が離脱に大きく影響。SEO・広告・SNSの訴求内容や配信タイミングを最適化することで改善可能 |
| 興味→検討 | 40〜60% | 提供コンテンツ(ホワイトペーパー、事例、ウェビナーなど)の質・分量・関連性、タイミングが鍵。CTAの明確化やフォーム入力負荷軽減も有効 |
| 検討→商談 | 20〜40% | 営業フォローのスピード・提案精度、製品比較情報の充実度が影響。商談化までのプロセスを自動化・見える化すると改善しやすい |
| 商談→契約 | 10〜20% | 契約条件や価格、競合との比較が離脱に直結。デモ・ROIシミュレーション・サポート体制の訴求で成約率向上を狙える |
実務でのポイント
- 正確なデータ収集
MAやCRMでWeb訪問、資料DL、ウェビナー参加などの行動データを漏れなく取得。データ品質の定期監査(重複排除、欠損値チェック)を実施 - ファネル段階で分類
認知→興味→検討→購買→継続の各段階でリードを整理。ファネルレポートをダッシュボード化し、リアルタイムで可視化 - リアルタイム更新
古いデータに基づく判断は改善の精度を下げるため、常に最新状態に保つ - 重複リード排除
同一企業や担当者の重複を排除し、正確な施策評価を可能に - 定期レビュー
推移や異常値を確認し、ボトルネックを早期に特定
例えば、ウェビナーに参加したリードが多いにも関わらず商談化率が低い場合、「参加後のフォロー施策」に課題がある可能性をデータから読み取ることができます。
2.データ統合と可視化
リードの実数が把握できたら、次はデータの統合と可視化です。多くの企業でMA・CRM・SFA・BIツールなど複数システムにデータが分散しており、全体像の把握が困難になっています。
複数ツールに散在する情報を一元化することで、ボトルネックや改善ポイントを明確に、意思決定のスピードを高めることが可能です。
可視化のメリット
- ファネル全体のリード状況が一目で把握できる
リアルタイムダッシュボードで、各段階のリード数・転換率を常時監視。 異常値を即座に検知し、迅速な対応が可能 - 離脱ポイントを特定し、優先度の高い改善策を導きやすくなる
スピーディなポイントの特定とスムーズな改善策の優先順位付けが可能 - 組織内で共通認識を作り、迅速な意思決定を促進
マーケ・営業・経営層が同じデータを見ることで、 「感覚的な議論」ではなく「データに基づく建設的な議論」が可能に。 部門間の対立を解消
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ツール
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収集・管理データ
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可視化目的
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活用例
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| MA | Web訪問、資料DL、ウェビナー参加、メール開封・クリック、フォーム送信 | リードの行動把握と温度感スコアリング | スコアリング・メール配信、行動トリガー型施策・リードナーチャリング |
| CRM | 商談・契約情報、営業活動履歴、顧客とのコミュニケーション履歴 | 顧客状況把握と営業プロセス管理 | 商談進捗管理・優先度設定・案件予測・営業活動分析 |
| BI | MA・CRM統合データ | ファネル可視化と経営判断支援 | ボトルネック特定・施策優先度決定・ROI分析・予算配分最適化・経営レポート |
3.仮説立案→改善施策→効果測定(PDCAサイクル)
まず、現状のファネルを定量的に分析し、離脱ポイントと原因を特定します。感覚や経験則ではなく、データに基づく客観的な分析がPDCA成功の鍵です。
離脱ポイント特定
ファネルの各段階でどこに顧客の離脱が多いかを可視化
原因仮説
離脱の原因として考えられる要素を洗い出す
- コンテンツ・メッセージの問題
・コンテンツの質・量が不足
・顧客の課題に刺さらない訴求
・専門性・信頼性の欠如
・ステークホルダー別の情報不足 - ターゲティング・リードの質の問題
・ICP(Ideal Customer Profile)とのミスマッチ
・決裁権のない人ばかりリード化
・予算のない企業からのリード - 営業フォローの問題
・初回接触までの時間が長すぎる(24時間超)
・フォローアップの頻度・質が不足
・提案の質・パーソナライゼーション不足
・マーケと営業の連携不全(SLA未整備) - UX・導線の問題
・フォームの入力項目が多すぎる
・CTAが不明確・見つけにくい
・ページ表示速度が遅い
・モバイル対応が不十分 - タイミングの問題
・顧客の予算時期と合わない
・検討優先度が低い時期にアプローチ
KPI設定
仮説の検証に必要な指標を設定します。
- 認知フェーズ
・サイト訪問数、ユニークビジター数
・SNSエンゲージメント率、インプレッション数
・広告CTR(クリック率)、CPC(クリック単価) - 興味フェーズ
・リード獲得数、リード獲得単価(CPL)
・コンテンツDL率、ウェビナー参加率
・メール開封率・クリック率
・リードの質(ICP適合率) - 検討フェーズ
・MQL数、MQL転換率(リード→MQL)
・リードスコア平均値
・ナーチャリングメールのエンゲージメント率 - 商談フェーズ
・SQL数、商談化率(MQL→SQL)
・初回接触までの平均時間
・商談数、パイプライン金額 - 成約フェーズ
・成約率、平均受注金額
・商談期間(初回接触→成約)
・CAC(顧客獲得コスト) - 継続フェーズ
・チャーンレート(解約率)
・NRR(Net Revenue Retention)
・アップセル・クロスセル率
・LTV(顧客生涯価値)、LTV/CAC比率
SMART原則でのKPI設定
- Specific(具体的)「リードを増やす」ではなく「月間MQL数を50件」
- Measurable(測定可能)定量的に測定できる指標
- Achievable(達成可能)過去実績から現実的な目標
- Relevant(関連性)ビジネス目標に直結する指標
- Time-bound(期限)「3ヶ月で商談化率を20%→25%に改善」
ファネル別改善施策例
改善施策は、各段階ごとの課題に応じて具体的に設計します。
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ファネル段階
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改善施策例
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狙い
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| 認知→興味 | ターゲット広告のクリエイティブ改善、ウェビナー告知文言変更、SNS投稿の時間帯最適化、共催ウェビナー・ゲスト寄稿 | 潜在リードの関心を引き、初回接触率や資料DL率の向上を狙う |
| 興味→検討 | 資料ダウンロード後のステップメール自動化、ABテストによるCTA改善、ウェビナー追客(録画提供・関連資料)、パーソナライズメール(業界・役職別)、リターゲティング広告、コンテンツの質向上(独自データ・実名事例) | リードの検討意欲を高め、リードスコアの向上・商談準備度を高める |
| 検討→商談 | SLAの厳格運用(24時間以内の初回接触)、営業による個別フォロー、提案資料のパーソナライズ化、オンラインデモ実施、稟議書サンプル提供、ROI計算ツール提供、ホットリードアラート(高スコアを営業に即通知)、デジタルセールスルーム(案件専用ポータル) | 商談化率を向上させ、受注可能性の高いリードを効率的に営業に引き渡す |
効果測定と次のPDCA
改善施策を実施したら、定量的な指標で効果を評価し、次の施策に反映します。
- KPIを段階別に設定し定量評価
- 仮説検証結果をPDCAに反映
- 効果が低い施策は再仮説を立て、改善サイクルを継続
PDCAは「小さな仮説→施策→測定」の積み重ねが鍵です。失敗を恐れず、継続的に改善することでファネル全体の精度が向上します。
PDCAを成功させる文化づくり
- 失敗を学びと捉える
失敗した施策も貴重なデータ。責めるのではなく、 「何を学んだか」を重視する文化を醸成 - スピードを重視
完璧な施策を待つより、70%の完成度で実行し、 素早く改善する方が成果につながる - データに基づく議論
感覚や声の大きさではなく、データで意思決定。 部門間の対立を建設的な議論に変える - クイックウィンを積み重ねる
小さな成功体験を積み重ね、 チームのモチベーションを維持
4.マーケティング自動化とナーチャリングで長期リード育成

BtoBの購買は長期化する傾向があり、平均3〜12ヶ月、複雑な製品では18ヶ月以上かかることも珍しくありません。短期的にリードを追うだけでは成果が安定せず、獲得したリードの約70%が放置され、機会損失となっています。
そのため、長期的・体系的なリード育成を可能にする自動化ナーチャリングが不可欠です。
効果と運用ポイント
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効果
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内容
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実務でのポイント
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| リード育成の安定化 | 興味を段階的に育て、購買意欲を高める | ステップメールやシナリオ設計で計画的に実施。リードの行動履歴を確認して次のアクションを調整 |
| リソース効率化 | 自動化で手動対応を軽減 | MAとCRM連携で営業フォローを最適化。テンプレート化と自動リマインドで作業負荷削減 |
| パーソナライズ体験 | 行動・属性に応じた最適コンテンツ配信 | データ分析に基づき継続的に改善。セグメントごとのコンテンツ最適化を実施 |
| 継続的関係構築 | 購買後も長期コミュニケーション | カスタマーサクセスと連携し顧客満足度向上。アップセルやクロスセルの提案を自然に組み込む |
成功のための3原則
- 顧客価値を最優先
売り込みではなく、役立つ情報を提供し続ける - データに基づく継続改善
開封率・クリック率を定期的にレビューし、効果の低いコンテンツは容赦なく改善 - 人間味を忘れない
自動化しても「人から人へ」のコミュニケーション。適時、営業からの個別フォローを挟むことで関係性を深化
適切に設計された自動化ナーチャリングは、マーケティングチームの生産性を3〜5倍に高め、同時に顧客により良い体験を提供するBtoBマーケティングの要となります。
ファネルを効果的に活用しBtoBデジタルマーケティングの成果プロセスを最適化しよう
デジタルマーケティングファネルを効果的に活用することで、BtoBビジネスのリード獲得から成約までのプロセスを最適化できます。ファネルの各段階において、顧客の購買プロセスを理解し、適切なコンテンツや施策を用意することが重要です。
これにより、リードを効果的にナーチャリングし、コンバージョン率を向上させることが可能になります。また、データに基づいてボトルネックを特定し、PDCAサイクルを回すことで、継続的な改善を図ることができます。
この記事で紹介した戦略やテクノロジーを活用し、あなたのマーケティング活動を一歩進めてみてください。もし具体的な行動に移す際に不明点があれば、専門家に相談することも一つの手段です。
わたしたち電通B2Bイニシアティブは、BtoB事業の成長を加速させるデマンドジェネレーションとブランディングのプロフェッショナルです。
電通グループの強みである広範なネットワークと豊富なデータ資産、そしてBtoBに特化した専門チームの知見を活かし、以下の領域をトータルで支援します。
- 事業戦略の立案
- 顧客体験(CX)の最適化
- マーケティング/営業活動の支援
- DX導入
わたしたちの核にあるのは、広告コミュニケーションで培ってきた「人の心を動かす力」です。この力を活用し、経営・人材・組織・事業といったあらゆるレイヤーにおける課題に向き合いながら、具体的な施策の実行から最終的な成果を分析・改善し続けるためのサイクルの創出まで伴走します。
単なる「施策の提供」にとどまらず、強いブランドづくりや売れる仕組みの構築を通じて、企業の持続的な成長と信頼性の高いパートナーシップの実現を目指します。
デジタル領域における、BtoBに特化した多様なご支援が可能ですので、ぜひ一度ご相談ください。
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B2B Compass編集部
