
前回の記事では、価格やスペックの消耗戦から脱却して「指名買いされる企業」になるためのブランド構築手法と、指名検索がマーケティングROI(投資収益率)を向上させるメカニズムについて解説しました。
前回の記事はこちら:指名買いされる企業へ 顧客の心を掴むブランド構築手法と指名検索の増やし方
中長期で指名検索の絶対数を増やし続けるためには、すでに顕在化している狭い市場を奪い合う従来の「獲得型広告(刈り取り)」を待つだけでは限界があり、予算設計そのものの見直しが不可欠です。
限られた予算の中で「未来の検討層を育てる認知(想起形成)施策への投資」と「目先の需要を刈り取る獲得施策への投資」にどのようなバランスで予算を配分し、その効果をどう測定すべきなのでしょうか。本記事では、マーケティング全体の成果を最大化するための具体的な投資配分戦略を提示します。
INDEX
認知施策と獲得施策におけるゴールおよび評価基準の乖離
マーケティング戦略において、認知施策と獲得施策はそれぞれ異なるフェーズと目標を持っています。特にBtoBにおける広告投資では、この両者のゴールと評価基準の違いを正確に理解し、適切に区別することが、限られた予算の最適な配分と投資成果の最大化に直結するのです。
まずは、認知施策と獲得施策の本質的な違いを下表で整理します。
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施策種別
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主なゴール
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主な評価指標(KPI:重要業績評価指標)
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特徴・課題
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| 認知施策 | 顧客の記憶への定着度向上 | 指名検索数、純粋想起率 | 効果が中長期的なため、短期的なCPA(顧客獲得単価)評価には適さず成果が見えにくい |
| 獲得施策 | 直接的なリード獲得やCV数の増加 | CPA | 即時的な効果測定が可能で投資対効果を算出しやすいが、認知拡大には不向き |
このように、認知施策は「顧客の記憶に残すこと」、獲得施策は「顧客からの具体的なアクションを獲得すること」という異なる役割を担っています。
単一のCPA評価がもたらす部分最適の課題
これら性質の異なる施策をすべて一律のCPAだけで評価してしまうと、中長期の成果を生み出す認知施策への投資が「効率が悪い」と誤認され、予算配分の最適化が妨げられる傾向があります。CPA評価だけに依存した場合、以下のような課題が生じやすくなるのです。
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認知施策の成果の過小評価
認知施策は指名検索数や純粋想起率の向上といった中長期的な指標で効果を発揮するため、短期間のCPAでは真の価値を測定できない -
将来的な売上基盤の停滞
短期的なリード獲得数だけを重視するあまり、将来の検討層を育てる投資が後回しになり、やがて顕在層の枯渇を招く恐れがある -
予算配分の偏りによるROI低下
CPAが良好に見える獲得施策だけに予算が集中すると、市場全体の需要が縮小した際に全体のマーケティングROIが低下する可能性がある
広告予算の効率を高めるためには、まずそれぞれの施策が担う役割に応じた評価の仕組みを明確に切り分ける必要があります。
【事業フェーズ別】最適広告予算配分比率の考え方

BtoBマーケティングにおける広告予算の配分は、認知施策と獲得施策の特性を踏まえ、事業の成長フェーズに応じて最適化することが重要です。
『THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing※1』および『The B2B Effectiveness Code※2』のレポートによれば、BtoBにおける広告投資の基本的な配分比率は「認知施策:46%」「獲得施策:54%」のバランスが推奨されています。
この比率は、複数の企業データを分析した結果として全体のマーケティングROIを最大化する「基本原則(目安)」です。実際の配分は自社の事業フェーズや市場環境に合わせて柔軟に調整する必要があります。
配分比率とセットで見ておくべき理論的枠組みとして、新製品やサービスが市場に浸透していく過程を数学的に表現した「バス拡散モデル(Bass Diffusion Model)」があります。このモデルも照らし合わせながら配分比率を考え、一例として各事業フェーズにおいて以下のような投資戦略を導き出しました。
この戦略も先述同様、自社の事業フェーズや市場環境に合わせて調整が必要ですが、一つの基準、考え方として参考にしてみてください。
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立ち上げ期:獲得施策を最優先(目の前の需要を確実に回収)
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成長期(変曲点):認知 46% : 獲得 54%へシフト(潜在層の創出)
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成熟期:認知 46% : 獲得 54%を維持(ブランド信頼の強化、コモディティ化回避)
立ち上げ期:獲得施策を最優先
市場参入の初期段階では、アプローチすべき市場そのものがまだ小さく、大規模な認知施策は費用対効果が見合いにくい傾向にあります。そのため、この時期は大規模な認知施策への投資よりも、目の前の需要を確実に回収して売上を早期に立ち上げるため、リスティング広告やホワイトペーパーダウンロードなどの「獲得施策」へ予算を優先配分する戦略が合理的です。
成長期:認知 46% : 獲得 54%へシフト
市場への浸透が進むと初期の普及スピードが落ち着き、アプローチが容易だった顕在層が枯渇することで、売上成長が鈍化する「変曲点」に達する傾向があります。
この段階で獲得施策のみに投資を増やしても、競合との競合激化によりCPAが高騰しやすくなります。そのため、基本原則である「認知 46%:獲得 54%」の配分へ移行し、長期的なブランド構築(認知施策)によって未来の検討層(潜在層)を創出することが重要です。
成熟期:認知 46% : 獲得 54%を維持
製品やサービスの市場普及が進む成熟期では、競合他社による機能の模倣が進み、製品の同質化(コモディティ化)が進行します。価格競争に巻き込まれないためには「ブランドへの信頼感」が総利益を左右するため、「認知 46%:獲得 54%」の最適バランスを維持します。認知施策で価格競争を回避しつつ、発生する需要を獲得施策で確実に回収していく体制が不可欠です。
BtoBでブランド構築(認知施策)に46%の予算を配分すべき4つの理由
なぜ、BtoBマーケティングにおいて認知施策へ46%もの予算を配分することが推奨されるのでしょうか。実証データと心理学的アプローチに基づく4つの理由を解説します。
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ROIの最大化
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価格感応度の低下による利益率の拡大
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感情ヒューリスティックによる「短期施策の反応率底上げ」
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「95:5の法則」に基づく将来の需要創出
1. ROIの最大化
先述の繰り返しにはなりますが、『THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing※1』および『The B2B Effectiveness Code※2』のレポートによると、認知施策(ブランド構築)に46%、獲得施策(販売促進)に54%を配分した際、最もマーケティングのROIが高まることが実証されています。双方の施策が互いの効果を補完し合うことで、全体の成果が最大化されるというわけです。
2. 価格感応度の低下による利益率の拡大

認知施策によって顧客の長期記憶にポジティブな連想を植え付けることで、自社ブランドへの選好度が向上します。これに伴い、顧客の価格への敏感さ(価格感応度)が低下するため、値引き競争に依存せず選ばれるようになり、中長期的な利益幅の拡大につながるのです。
3. 感情ヒューリスティックによる「短期施策の反応率底上げ」
心理学における「感情ヒューリスティック」の考え方も、ブランド構築に役立ちます。感情ヒューリスティックとは、仕事などで合理的な決断が求められる状況においても、「好き・嫌い」といった感情的な要素で判断してしまう傾向のことです。
この考え方に基づけば、事前にブランドへの認知・信頼を獲得しておくことは、ユーザーに対しブランドへの好意的な感情を高めることにつながり、リード獲得などの短期施策を展開した際の反応率(クリック率やCVR)向上につながる可能性が示唆されます。
4. 「95:5の法則」に基づく将来の需要創出
B2B Instituteの調査データ※3によれば、任意の時点で実際に購買検討しているBtoB顧客は全体のわずか5%であり、残り95%は現時点で購買意向を持たない潜在層であるとされています。
認知施策に予算の46%を配分し、この残り95%の潜在層に対して記憶のつながり(メンタル・アベイラビリティ)を構築しておくことで、将来彼らが市場に参入し、購買検討に入った際の「第一想起」を確実に担保することができるのです。
広告投資の全体最適を評価するKPI「MER」の活用
部分最適の課題を解消し、広告投資の全体最適を正しく評価するためには、総合的な指標である「MER(Marketing Efficiency Ratio:マーケティング投資効率)」の導入が有効です。
MERとは、マーケティングパフォーマンスの費用対効果を測る指標で、全体の売上を総マーケティング費用で割ることで算出可能です。MERの算出式は以下の通りで、算出した数値が高いほど、マーケティング効率が良いと判断できます。
MER=総売上高/総マーケティング費用
指名検索から流入する顧客は最初から信頼度が高く、資料請求への移行率(CVR)や成約率も高くなるため、認知施策への投資はマーケティング活動全体に大きな間接効果をもたらします。認知施策への投資によって全体のオーガニック流入や指名経由のCVRが向上すれば、全体のCPAが下がり、結果としてMERの数値が改善される仕組みです。
CPAという短期指標だけでなく、MERを共通言語とすることで、経営層に対しても認知施策への予算配分の妥当性を論理的に説明し、強固な合意形成を図ることが可能となります。
認知施策への投資では「効果発現のタイムラグ」への理解が必要

認知施策に投資したお金が顧客の記憶に蓄積され、指名検索として返ってくるまでには通常数ヶ月〜半年の期間を要します。そのため、投資を開始した直後は広告費だけが増えて成果が追いつかないため、一時的にMERが悪化して見える期間が構造上必ず存在します。
『THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing※1』のレポートに基づいた、一般的な投資回収期間のイメージは以下の通りです。
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期間
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特徴・内容
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MER/ROIの動き
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| 0〜1ヶ月 | 投資開始直後。顧客の記憶への定着はこれからの段階 | 広告費が先行するため、一時的に投資対効果が悪化して見える |
| 1〜3ヶ月 | ブランド認知が徐々に浸透し、指名検索数増加などの早期指標が見えてくる | MER/ROIに改善の兆しが見え始める |
| 3〜6ヶ月 | 認知施策の効果が顕著になり、指名買いやリード獲得の底上げを実感 | MER/ROIが向上し、投資効率効果を感じられるようになる |
| 6ヶ月以降 | 【投資の変曲点】ブランド構築の効果が短期の販売促進効果を上回り、成長の主要な推進力となる | MER/ROIが安定してくる |
このように、最初の数ヶ月間に投資対効果が一時的に悪化して見えるのは、マーケティングの構造上必然のプロセス(タイムラグ)であることをあらかじめ理解しておく必要があります。
経営層を論理的に納得させるための3つのアプローチ
認知施策への投資の重要性を社内で共通認識とするために、前述のデータ※1を基にした3つの説明材料が有効です。
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「バス拡散モデル」を用いた成長の限界の提示
口コミや自然成長だけに頼る獲得施策には限界があり、獲得しやすい見込み客が枯渇する「変曲点」が必ず訪れることを数理モデルで提示 -
「95:5の法則」に基づく将来の需要への投資
短期施策は「今すぐ客(5%)」の刈り取りに留まるため、残り95%が将来市場に参入した際の第一想起を担保する投資が必要であることを共有する -
認知施策による「短期のリード獲得効率」の底上げ
感情ヒューリスティックの働きにより、事前にブランドへの信頼を獲得しておくことが、結果的に短期の獲得施策の反応率を向上させる実証データを提示
移行期間におけるリード供給の確保対策

立ち上げ期から成長期へ移行し、予算比率を「46:54」へシフトする過渡期には、認知施策への投資拡大に伴う直近のリード数減少リスクをケアする必要があります。
この移行期間におけるリード供給を構造的に担保するための対策として、以下の2つのアプローチがおすすめです。
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予算の54%維持によるパイプラインの担保
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成功しているBtoBキャンペーンの「3つの戦術」の実行
1.予算の54%維持によるパイプラインの担保
BtoBマーケティングの基本原則に基づき、予算の過半数(54%)は獲得施策に投資し続けます。これにより、認知施策の効果が出るまでのタイムラグ期間中も、現在市場にいる顕在層からのリード供給を一定水準で維持し、営業パイプラインを担保可能です。
2.成功しているBtoBキャンペーンの「3つの戦術」の実行
過渡期のリード獲得効率を最大化するため、『The B2B Effectiveness Code※2』で実証されている「Level 2: Lead Generator(効果的なリード獲得手法)」の勝ちパターンである3つの戦術がおすすめです。3つの戦術を通して、リードの質と量を補完しましょう。
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ターゲットへの深い洞察
見込み客をセグメント化し、役職や検討段階に応じた適切なコンテンツ(短尺動画から詳細レポートまで)を最適化して提供する -
クリエイティブなダイレクトマーケティング
単なる機能説明のみのメッセージを避け、ユーモアや工夫を取り入れた独自の表現手法でターゲットの関心を惹きつける -
有用性の提供
単なる売り込みではなく、顧客の業界におけるベンチマークツールや、専門的な知見(ソートリーダーシップ)を提供してビジネス課題の解決を支援する
事業フェーズに基づいた投資配分&KPI設計がCPA最適化の鍵
本記事では、認知と獲得の評価基準を切り分け、ROIを最大化するための予算配分について解説しました。上記を踏まえつつ、実装においては以下個別CPAの最適化にとどまらず、MERによる全体最適評価を導入することと、予算の54%を獲得施策に維持し、3つの戦術を並行実行することでリードの質と量を構造的に担保することが重要です。
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個別CPAの最適化にとどまらず、MERによる全体最適評価を導入する
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予算の54%を獲得施策に維持し、営業パイプラインを担保する
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移行期は3つの戦術を並行実行し、リードの質と量を構造的に確保する
加えて、効果発現までの約6ヶ月のタイムラグ期間中は、「指名検索数」や「オーガニック流入数」を先行指標として可視化・コントロールすることが有効です。
効果発現までの6ヶ月のタイムラグ期間中は、「指名検索数」や「オーガニック流入数」を先行指標として可視化・コントロールすることもおすすめです。自社の事業フェーズに応じた最適な予算比率を設計することが、中長期的な成長への鍵となります。
わたしたち電通B2Bイニシアティブは、BtoB事業の成長を加速させるデマンドジェネレーションとブランディングのプロフェッショナルです。
電通グループの強みである広範なネットワークと豊富なデータ資産、そしてBtoBに特化した専門チームの知見を活かし、以下の領域をトータルで支援します。
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事業戦略の立案
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顧客体験(CX)の最適化
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マーケティング/営業活動の支援
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DX推進
わたしたちの核にあるのは、広告コミュニケーションで培ってきた「人の心を動かす力」です。この力を活用し、経営・人材・組織・事業といったあらゆるレイヤーにおける課題に向き合いながら、具体的な施策の実行から最終的な成果を分析・改善し続けるためのサイクルの創出まで伴走します。
単なる「施策の提供」にとどまらず、強いブランドづくりや売れる仕組みの構築を通じて、企業の持続的な成長と信頼性の高いパートナーシップの実現を目指します。
デジタル領域における、BtoBに特化した多様なご支援が可能ですので、ぜひ一度ご相談ください。
参考※1:THE 5 PRINCIPLES Of Growth In B2B Marketing
参考※2:The B2B Effectiveness Code
参考※3:The 95:5 Rule is a Preview of B2B Marketing's Future (LinkedIn B2B Institute)
PROFILE
B2B Compass編集部