• 2024/11/20
  • 2024/12/19

実録!本当にあった米国雇用と解雇の怖い話

実録!本当にあった米国雇用と解雇の怖い話

ニューヨークは、世界中から多様な文化や価値観を持つ企業が集まるグローバルな都市として知られていますが、特にアメリカの雇用慣習は、日本と大きく異なる点が多く、駐在員や進出企業にとって、アメリカでの働き方や人事管理には大きなカルチャーショックを伴うことも少なくありません。

私自身、雇用主としてアメリカ人スタッフを解雇した際、訴訟問題に発展しそうになったことがあり、その時は心底恐怖を感じました。今回は、そんな実体験をもとに、ニューヨークでの雇用事情や解雇にまつわるエピソードを紹介し、日米の労働環境の違いについて深掘りしていきます。

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1.アメリカの雇用に新卒枠がない理由

アメリカ企業の採用では、経営戦略や事業目標を達成するために、具体的な役職や業務に必要なスキルや経験を持つ人材が重視されます。そのため、日本の「終身雇用」や「新卒採用」のような雇用枠に基づくシステムは存在せず、新卒者であっても、その人のスキルや経験が採用判断の中心となります。スキルや経験が少ない場合でも、伸び代やポテンシャル、さらには新卒特有の柔軟性や斬新な視点が評価され、採用されることもあります。

アメリカでは特に、企業の目標やその年の経営方針に合致したチームワークを発揮し、迅速に問題を解決する能力が求められています。難しい課題に直面して、期待された結果が出せなかった場合、ストレートに「他の人に任せるべきかもしれない」といった厳しい会話が行われることも珍しくありません。つまり、採用においては、即戦力としての結果を出せるかが重視されると同時に、企業文化やチームへの貢献度も大切な要素として考慮されます。

このように、アメリカと日本の採用プロセスの違いは、アメリカが「即戦力」と「成果重視」の文化に根ざしているのに対し、日本は「新卒一括採用」や「長期的な育成」を重視する文化に基づいているため、これらの違いは採用の基準以外にも、採用後のマネジメントやトレーニングなどでも見受けられられます。

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2.午後5時前に帰宅支度を始めるアメリカ人スタッフ

採用プロセスから既にわかるように、アメリカと日本のビジネスカルチャーの違いは大きいため、ニューヨークや海外の現地チームのマネジメントで苦労している日系の駐在員は少なくありません。特に、働き方に対する考え方のギャップは大きいので注意が必要です。

アメリカでは、多くのスタッフが午後5時になるときっかり退社し、早ければ445分頃から帰宅準備を始めることも珍しくありません。これは、アメリカの労働文化が「成果主義」を重視しているためで、長時間、残業をしてまで働く日本のビジネス習慣とは大きく異なります。むしろ、アメリカでは「ワークハード・バット・スマート(Work hard, but smart)」、つまり一生懸命働きながらも、スマートに効率よくより短時間で業務をこなすことが優れた働き方だと考えられています。

企業の文化によっても異なりますが、オフィスでスタッフが長い間世間話をして、仕事と直接関係のないことに時間を使ったりする光景もたまに見られます。これは、業務に支障がなければ問題視されないことが多く、むしろ職場のリラックスした雰囲気を重視する企業では一般的といます。たとえば、Googleのようなテック系の企業では、仕事以外の活動に時間を使うことも逆に歓迎される企業文化も多くあります。このような背景から、アメリカ人スタッフの働きぶりを評価する際には、日本のように「どれだけの時間を働いたか」という点だけでなく、最終的な成果や効率性、そしてチームへの貢献度を総合的に評価することが重要なポイントとなります。

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また、日本では職務の範囲を超えて仕事を頼むことが一般的で、従業員もそれに応じることが多いですが、アメリカでは「職務記述書(Job Description)」に記載されていない仕事を頼むと嫌がられる事がよくあります。場合によっては、不満が募り離職につながるケースもあるため、採用時に職務範囲を明確にすることが非常に重要です。特に、オフィスの立ち上げなどで多様な業務を担当する可能性がある場合は、その旨を事前に職務記述書に明記しておくことが、期待値のギャップを防ぐためのポイントとなります。

また、アメリカの製造業などにおいては、政治的な理由からアメリカのレイバーユニオン(労働組合、Labor Union)などの団体を利用しざるを得ない場合もあります。レイバーユニオンは雇用者と交渉をするための労働者の為の団体で、労働者の権利を守り、より良い労働条件を求めるために重要な役割を果たしています。しかし、企業にとってレイバーユニオンの存在は同時にコストの増加や経営の柔軟性の低下、ストライキなどのリスクを伴います。そのため、企業が成功するためには、労働組合との適切な関係を築きながら、労働者の権利と企業の利益をバランスよく考慮することが必要となります。

3.解雇したスタッフからの訴訟事件

アメリカでは解雇に関する訴訟が非常に多いため、解雇を行う際は訴訟リスクを十分に考慮した慎重なアプローチが求められます。私自身も、雇用主としてアメリカ人従業員を解雇した経験があり、その際には非常に恐ろしい思いをしたのでその経緯をここで皆さんと共有します。

まず、解雇に至った理由は大きく二つに分かれます。一つ目は、業務責任を果たせていなかったことです。雇用者の実務や成果については、事業目標に基づいて繰り返しレビューを行い、改善のためのリソースやツールにも投資しましたが、主に本人のモチベーションの低下が理由で改善の兆しは見られず一向に実務の改善が見受けられませんでした。

そして二つ目の理由は、職場の雰囲気に関わるもので、ネガティブな噂を広めたり、チームのモラルを低下させる発言が目立っていた事です。この状況を改善するために、何度も個別でカウンセリングや注意しましたが、結局よくならないままでした。企業文化は業績に直結するため、こうしたソフト要因も重要な経営判断材料となりました。

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このように、実務や成果などといったハード要因だけでなく、企業文化やチームとのコミュニケーションという面のソフト要因も絡むケースでは、特に慎重に進める必要があるため、解雇手続きでは以下のプロセスを踏まえて慎重に進めました。

1. ハード要因の明確化

実務内容をステップバイステップでリスト化し、やらなければいけない事や提出書類などのミスもないようにチェックリストを作成しました。それでも実務にミスや提出漏れなどがあった際には、その都度警告し、改善策を文書で残しました。そしてもうこれ以上改善の目処がないと思った際に、あと3回で解雇に至る事を本人の了承を得た上で都度、メールなどの書面での意識確認を徹底しました。

2. ソフト要因の改善

チームメンバー全体と対話を通じて、モラル低下の原因を探り、新しいシステムやプログラムなどを導入しました。個別ミーティングなどを経て彼らが望む職場環境や挑戦したいこと等を聞き出し、モチベーションを高める施策や企画を検討しました。

こうして細かく書面と対面でのフォローアップがつづいたなか、結局なにも改善・向上がされなかったため、解雇に至りました。そして解雇から1、2ヶ月が過ぎた際、訴訟を何度も試みたようですが、結局文面の証拠が残っていたため、訴訟には至らなかったという結果となったのです。そのため、訴訟大国アメリカでのビジネスでは必ず口頭や対面でのやりとりも文面にして再度フォローアップするという癖をつける事をお勧めします。

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4.最近の変化と今後の課題

アメリカの雇用事情は、特にコロナ以降の社会的変化や経済的影響を受けて大きな転換期を迎えています。特にミレニアル世代やジェンZといった新しい世代の雇用期を迎えた現在は、彼らの価値観や働き方、そして企業のマネジメントスタイルも常に変化を遂げており、仕事に対する価値観が今までの価値観と全く異なるものに変化してきています。

例えば単なる給与や昇進だけでなく、仕事の意義や自分のライフスタイルとの調和を重視する傾向があるがために、特にフレキシブルな働き方企業の社会的責任(CSR)への関心が高まっているなど、柔軟な勤務時間やリモートワークの導入は今では当たり前の世界になってきました。

また、リモートワークやリモートとオフィス出勤を半々で行うハイブリッドモデルが当たり前となった今、企業は新たな人事戦略を模索しています。労働者がどこで働くかに関わらず、バーチャルな環境でも効果的にチームをマネジメントできるようなスキルが求められてきています。効率的なコミュニケーションやチーム・ビルディングをどのように行うかが今後は人事の課題となりそうです。

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そして、インフレが続くアメリカでは、企業は人件費や福利厚生の見直しを余儀なくされています。給与の上昇圧力が高まる中で、優秀な人材を確保するためには、単なる金銭的報酬だけでなく、職場環境メンタルヘルスの支援インクルーシブな職場文化の構築なども求められます。特に、多様性を重視した職場環境は、従業員の満足度や生産性にも大きく影響するため、採用プロセスの見直しが今後は必要となりそうです。

そのほかにも、メンタルヘルスへの配慮がますます重要視されています。コロナ禍ではストレスや不安が高まる中、企業は従業員のメンタルヘルスを支えるプログラムを導入しましたが、コロナ後の今でも心理的な安全性を確保し、オープンなコミュニケーションを促進することで、従業員が安心して働ける環境を提供することが重要となるでしょう。

このように、アメリカの雇用事情は、様々な要素によって常に変化し続けています。企業はこれらの課題に柔軟に対応し、魅力的な職場環境を提供することで、優秀な人材を引き付け、保持することが求められています。今後も、従業員のニーズに応えることが企業の成長に不可欠となるでしょう。

5.まとめ

いかがでしたか?アメリカでの雇用環境は、日本とは大きく異なり、成果主義の採用プロセスや、よりカジュアルなオフィスカルチャー、働き方への考え方など、さまざまな違いがあるため、ハードルが高く感じた方もいらっしゃるかもしれません。

特に解雇のプロセスには訴訟リスクが伴う事や、今後の人事課題にも新たな価値観とともに柔軟に対応する必要性があるため、よりコストもいろいろかかりそうだと感じる方も多いかもしれません。

いろんな面で少し高いハードルに感じるかもしれませんが、恐れずに挑戦し、常に柔軟な姿勢でリスクも管理しながら様々な人事課題に対応していくことが重要です。今回のブログから少しでも海外進出にともない、現地スタッフの採用に役立つヒントとなれれば幸いです。みなさんの新しい環境での成功を心から応援しています!

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ヨウコ・ウィルソン(旧名:内田洋子)

PROFILE

ヨウコ・ウィルソン(旧名:内田洋子)

2014年からニューヨークを拠点に日系企業の海外進出支援とマーケティング事業を展開。現在は電通B2Bi公式パートナー企業として、日系B2B企業の海外進出を支援中。2児のママとして子育てをしながらエッジメディア社他、複数の事業を経営中。
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