B2B Compass
マーケティングオートメーション(MA)は近年、海外の企業のマーケティング戦略において欠かせない要素となっています。特にデジタル化が進む現代、よりパーソナライズ化されたコミュニケーション戦略やマーケティング施策を提供することが求められる中、マーケティングオートメーションはリード(見込み客)から受注や商談へと繋げるためのマーケティング施策を自動化し、効率化するだけでなく、マーケティングの成果を最大化してくれるツールとして企業の導入が進んでいます。
そこで、今回のブログでは海外の企業がどのようにマーケティングオートメーションを活用しているか、具体的な事例を通して紹介いたします。B2BおよびB2Cの分野で成功を収めている企業の取り組みを通じて、マーケティングオートメーションの実際の効果や活用方法について理解を深め、これからのマーケティング戦略にマーケティングオートメーションを取り入れるヒントを見つけてみましょう。
INDEX
マーケティングオートメーション(MA)とは、マーケティングのタスクやプロセスを自動化(オートメーション)するためのソフトウェアや技術のことです。企業はこのようなツールやサービスにより、新規の見込み客(リード)の獲得から、見込み客の購買意欲を高めるための育成する(ナーチャリング)ためのマーケティング施策のタスク、ワークフロー、やキャンペーンなどを自動化し、効率化することができます。
たとえば、定期的なメールマガジンの配信やソーシャルメディアの定期投稿など、さまざまなマーケティングキャンペーンを自動配信設定し、キャンペーン後のデータ分析により新規見込み客の個々のニーズや嗜好に基づき、マーケティングオートメーションは自動的にマーケティング戦略を調整してくれます。これにより、よりパーソナライズされたマーケティング施策が実施でき、マーケティングを最適化してくれる事などもマーケティングオートメーションの大きな魅力の一つです。
海外ではマーケティングオートメーションのツールやプラットフォームが数多くあります。特に、マーケティングオートメーションの先進国アメリカでは用途別に様々なツールが市場に出回っています。ここでは下記の一般的なマーケティングタスク、それぞれでつかえるマーケティングオートメーションツールをご紹介いたします。
テンプレートを使用してメルマガの作成から配信を自動化し、顧客の行動や好みに基づいてパーソナライズされたメッセージを送信し、マーケティングゴールの指標(KPI)をデータから収集し、全体的な顧客体験を向上させてくれるマーケティングオートメーションツール。
ソーシャルメディアの投稿をキャプションやハッシュタグなどを楽々設定し、スケジューリングツールを利用することで複数のソーシャルメディアプラットフォームで最適なタイミングでコンテンツを自動的に配信・投稿が可能なソーシャルメディア専用のマーケティングオートメーションツール。
新規の見込み客を獲得し、ターゲットに合わせたコンテンツでエンゲージメントを高め、顧客化するまでの見込み客の育成プロセスを進めてくれるマーケティングオートメーションツール。
顧客を特定のグループに分類し(例:既存顧客、リピート顧客、カート放棄顧客、など)そのグループの特徴に基づきマーケティング施策を調整し、効果的で効率的なマーケティング活動をサポートしてくれるマーケティングオートメーションツール。
主にデータを収集・分析し、リアルタイムのユーザーや顧客のインサイトや成果の報告を提供し、マーケティング活動の効果を最大化します。リアルタイムでのデータ分析や定期的なレポート生成を通じて、より効果的な戦略を立てるための強力なツールとなります。
以上のような機能を包括的に取り揃えた全体的なマーケティング施策をサポートしてくれるマーケティングオートメーションツールやプラットフォーム。
これらのツールは、各分野でのマーケティングオートメーションを効果的に支援します。企業のニーズに合わせて適切なツールを選び、活用してみてください。
動作制御と精密位置決めシステムのグローバルリーダーとしてしられるエアロテック社は、1970年にペンシルベニア州ピッツバーグで設立。同社の最先端技術は、命を救う医療機器や高度な半導体、宇宙望遠鏡などに使用されています。
エアロテック社の技術は、心臓のステントやスマートフォンの半導体、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の校正ミラーなどに使用されている一方で、新規顧客の獲得を通じてグローバルビジネスを拡大することに失敗。労働力の競争が激化する中、どうにか営業チームの生産性を最大化する方法はないかと模索していました。
そこでエアロテック社は、ハブスポットを導入し、同プラットフォームのセールスハブ(Sales Hub)に組み込まれたAI機能のブリーズ(Breeze)を導入。その結果、見込み客の競合情報やその他詳細な情報をAIが営業担当者に提示したおかげで、見込み客の優先順位付けを効率化でき、より戦略的で成約率の高い営業活動が可能となりました。
その他にも、ルーチン業務を効率化し、顧客のニーズを深く理解することを努力し、そして高価値な見込み客(リード)を優先的且つ効果的なアプローチで営業に取り組みました。その結果、勝率が向上し、契約締結までの時間も短縮され、営業担当者は新規顧客との間でより強い関係を築けるようになりました。
最新のAIを活用することでエアロテック社は新市場への拡大に注力することができたため、従来のリピートビジネスから新たなビジネス商機を生かした戦略を進めることができました。
ブリーズコパイロット(Breeze Copilot)でAIを活用することで、エアロテック社の営業担当者は迅速な準備ができ、質の高い顧客体験を提供できるようになりました。
エアロテック社ではハブスポットを活用することで、業界の革新を促進し、業界のリーダーとして牽引しています。AIを利用し、人間の代替ではなく、顧客との深い関係を築くための強力な補佐ツールとして今後も利用していく予定です。
ヴァンガード社は、低コストで効率的な投資手段を提供する資産運用会社で、特にインデックスファンドやETFにおいて高い評価を得ています。顧客の利益を最優先に考える姿勢と、業界への影響力から、投資家にとって非常に重要な存在として知られています。
しかし、急速な成長に伴い、同社のウェブサイトは管理が難しくなり、投資家のニーズに応えられなくなっていました。ウェブサイトの管理と更新には膨大な時間とコストがかかり、そのため、投資家との関係を深めるために必要な関連性の高いタイムリーなパーソナライズされたデジタルコンテンツを提供することもできずにいました。
そこで、ヴァンガードはアドビエクスペリエンスマネージャーサイツ(Adobe Experience Manager Sites)に移行。新しいCMSプラットフォームを使用して、再利用可能なテンプレートや構成要素を活用し、効率性とコンテンツ作成のスピードが向上。国際版のサイトを4週間で立ち上げました。
マーケティングおよびコンテンツ制作チーム全体でアドビ(Adobe)ソリューションを導入し、アドビ(Adobe)製品との統合により、パーソナライズされたマーケティングやリアルタイムの顧客データを活用し、より密接な顧客関係の構築が可能となりました。
限られたITサポートの元でページを迅速に作成し、パーソナライズされたコンテンツを需要に応じて制作するなど、コンテンツ制作の効率化に成功し、情報の提供も迅速化されました。これにより、関連性の高いタイムリーなデジタルコンテンツの提供が可能となった他、ウェブサイトの管理と更新にかかる時間とコストの削減にも成功しました。
このように、ヴァンガードは投資家の信頼に応え続けるために、マーケティングオートメーションツールによる最新のデジタルマーケティング戦略を実施し続けています。
タイのバンコクに本社を置くスマートコスト(Smart Cost)社は、2004年に設立し、手動の印刷機を使用してイタリアや中国から輸入した原材料をサンドペーパーに変換していました。手動のサンドペーパー印刷機から850の工場と650の車体修理工場を持つネットワークへと成長。デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて現在、主要なグローバルブランドのディストリビューターとしても活動しています。
同社CEOのクリッタコーン氏は、すべてのビジネスのパートナーになるというビジョンのもとに会社を設立しました。しかし、急成長するネットワークの管理には大きな課題が伴いました。最初はグーグルシーツ(Google Sheets)を使用していましたが、製品と販売プロセスが複雑なため、社内CRMを開発。しかし、パフォーマンスや柔軟性に欠け、マーケット投入までの時間も長いため、これら社内プロセスの見直しをしていました。
同社はデジタルトランスフォーメーション(DX)が前進の道であることを認識し、セールスクラウド(Sales Cloud)を導入。見込み客(リード)のフローを体系化し、サービスクラウド(Service Cloud)を使ってリアルタイムで顧客のオーダー状況を把握しました。
また、セールスフォース(Salesforce)の柔軟性により、迅速にビジネス戦略を適応できるようになったほか、グーグルアナリティクス(Google Analytics)からタブロー(Tableau)に移行し、在庫や人材、製造計画を支援するためにセールスフォース(Salesforce)のデータを分析できるようになりました。そのほかに、パードット(Pardot)を使用してメールマーケティングの自動化も実現しました。
結果として、組織全体でのコラボレーションと生産性が向上し、収益が向上。そしてセールスフォース(Salesforce)を活用することで、データをもとにクロスセルの機会も生み出せるようになった。同社では顧客データの洞察と分析が、今では信頼できるパートナーとしての基盤を築いています。
1867年に設立されたモアハウスカレッジ(Morehouse College)は、アメリカの著名な歴史的黒人大学であり、黒人卒業生においてはアメリカではトップを誇ります。
しかし、モアハウスカレッジでは、近年の高校卒業率の低下により学生募集の競争が激化し、「入学崖」に直面。意思決定プロセスの早い段階で学生や保護者との関係を築く必要性があった一方で、大学のウェブサイトの古いCMS管理と900以上のウェブページの更新の複雑さがコンテンツ管理を非効率化し、小さな更新を行うのも困難にしていました。そのほか、SEOの効果も制限されていたため、デジタル戦略に大きな遅れをとっていた点も大きな課題となっていました。
この課題をクリアするために、モアハウスはハブスポット(HubSpot)の導入を決意。
同プラットフォームのコンテンツハブ(Contents Hub)とAIツールのブリーズ(Breeze)の実装と活用を進め、デジタルマーケティングの取り組みの強化を徹底した。ハブスポットのAIツール、ブリーズコパイロット(Breeze Copilot)を利用して説明文やメタデータを作成。メタディスクリプションを改善したことでSEOを向上させた結果、ページビューの向上に繋がりました。
マーケティングオートメーションツールによるマーケティング施策の自動化でコンテンツ制作が大幅効率化され、SEOとエンゲージメントが向上しました。複数のブログを統合し、ニュースルームブログと新しい入学ブログの2つに焦点を当てコンテンツを制作。AIツールを使用して、卒業生や志望学生など異なるターゲットオーディエンスを対象にし、AIを活用したブログや記事コンテンツなどを作成。入学ブログは将来の学生を対象にしたもので、SEOベンダーとも協力し、AIツールを活用してSEO最適化された記事を制作した結果、サイト滞在時間の向上に成功しました。
モアハウスカレッジでは大学生の数が減少する中、このような様々なツールを通じて効果的なコンテンツを提供し、教育会でのリーダー的な立ち位置を確立させることを目指しています。
計算機、時計、電子楽器、デジタルカメラ、プリンターなど、多岐にわたる電子機器の開発・製造・販売を行い、世界中に多くの拠点を持グローバルブランド。
近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める中でウェブサイトを全面的にリニューアルが必要でした。最大の課題は、グローバルコンテンツの一貫性を向上させることで、ユーザー基盤の拡大を狙っていました。しかし、ローカルサイトでは、日本語サイトと比べて必要な技術仕様が欠落していることが多く、グローバルコンテンツのユーザー体験の見直しを行っていました。
そこで、同社はアドビ社(Adobe)との協力を経て、アドビエクスペリエンスクラウド(Adobe Experience Cloud)を導入。このツールを使用することで、カシオはグローバルコンテンツを中央管理できるようになり、よりスムーズなユーザー体験も提供できるようになりました。
その結果、製品情報のページビューやeコマースの売上が向上。リニューアルされたウェブサイトは、eコマースの売上と製品情報ページの閲覧数を大幅に増加させました。そのほかに、2021年3月にリニューアルされたサイトではG-SHOCKのカスタマイズサービス「MY G-SHOCK」が立ち上がり、1.9百万通りの組み合わせが可能なカスタマイズサービスが導入。このサービスにより、若い世代をターゲットにエンゲージメントと新規顧客登録の増加に成功しました。
カシオUK&アイルランドでは計算機、時計、医療機器、音楽機器をB2BおよびB2Cの顧客に向けて販売しています。
2015年、カシオUKとアイルランドはeコマースの成長を加速させたいと考えていましたが、カスタム構築されたCRMでは顧客の状況を明確に把握できず、当時使っていたマーケティングオートメーションツールも使いにくかったため、CRMとMAの移行を決意。さまざまな見込み客に関連性のあるコンテンツを提供し、既存のコンテンツやあらゆるリソースを最大限に活用できるよう自動化を実施することを検討していました。
そこで同社はHubSpotのCRM、マーケティングハブ、セールスハブを導入を決意。チームを統合し、成長目標を達成するための基盤を整えました。既存のCRMからHubSpotへのCRMデータ移行を行い、数千の連絡先やカスタムフィールド、取引などの整理や移行ではHubSpotのオン・ボーディングチームのサポートを経てCRMの移行が行われました。
そのほか、HubSpotのワークフローを使用して、以前は繰り返し行っていたタスクを自動化。顧客セグメンテーション別に「ウェルカムプログラム」や「放棄カートのフォローアップ」など、さまざまなプロセスにワークフローを導入。また、HubSpotの広告ソフトウェアを利用して、ターゲットを絞りパーソナライズされたキャンペーンを作成したり、データとツールが統合されているため、広告の効果を測定して、最も価値のあるオーディエンスにターゲットを絞ったキャンペンを展開することができるようになりました。
その結果同社はすぐに成果を上げ、ウェブサイト訪問数の増加意外に見込み客数の増加と新規顧客の増加に繋がりました。ハブスポット(HubSpot)の柔軟性により、カシオはB2BおよびB2Cのさまざまな優先事項に対応することが可能となり、セールスハブ(Sales Hub)がハブスポットエコシステムに接続されることにより、マーケティングと営業のチームが常に連携できている状態の構造構築に成功。マーケティングチームと営業チームの連携の効率化と顧客数の増加にも大いに貢献しました。
そのほかハブスポットのレポート機能から、キャンペーンの効果を測定し、そのデータを基にリソースを最適に配分し各キャンペーンを収益に結びつけさせているなど、費用対効果の高いキャンペンを中心的に実施することが可能となりました。
さて、今回のブログでは海外のMA活用事例を通してマーケティングオートメーションがいかにして企業の成長に貢献できるかをまとめて見ました。特にB2B企業におけるマーケティングオートメーションの導入については、単なる効率化ツールに留まらず、業務プロセスの最適化、顧客関係の強化、ひいては事業の成長を支える戦略的な役割を果たしていることが明らかです。
エアロテック社は、ハブスポットを活用することで営業活動の効率化と顧客対応の向上を図り、成約率を大幅に向上させました。AIによる見込み客の優先順位付けや、営業チームの生産性向上を実現した結果、企業の成長に大きく貢献しています。
また、ヴァンガード社ではアドビのCMSソリューションを採用し、ウェブサイト管理とコンテンツ制作の効率化を図りました。パーソナライズされたコンテンツを迅速に提供し、顧客とのエンゲージメントを向上させ、コスト削減と業務効率の改善にも成功しました。
そしてスマートコスト社では、セールスクラウドやパードットを駆使して、見込み客管理からメールマーケティングまでのプロセスを自動化しました。これにより、全体の収益を50%向上させるなど、業績に直接影響を与える効果を発揮しています。
このように、マーケティング施策のパフォーマンスの向上、効率化、自動化、そしてデータドリブンな判断により企業が変化する市場に迅速に対応し、顧客との関係を深める上で不可欠であることもお分かりになるかと思います。これらの事例から得られる教訓をもとに、日本企業もグローバルな視点でのマーケティングオートメーション導入や活用を進めることで、さらなる市場の拡大と事業の成長を期待できるのかもしれません。
ヨウコ・ウィルソン(旧名:内田洋子)
2014年からニューヨークを拠点に日系企業の海外進出支援とマーケティング事業を展開。現在は電通B2Bイニシアティブのビジネスパートナーとして、日系B2B企業の海外進出を支援中。2児のママとして子育てをしながらエッジメディア社他、複数の事業を展開。