パートナーとの協業体制を強化し、売上をスケーラブルに伸ばす。
そんな期待を背負って、近年ますます注目されているのがPRM(Partner Relationship Management)の導入です。
PRMは、パートナーとの情報共有や案件管理、販促支援などを一元化できるツールであり、「属人的な対応からの脱却」「業務の効率化」「売上への貢献」が期待される戦略的な仕組みです。
しかし現実には、「PRMを導入したものの、思ったような成果が出ていない」「結局、誰も使わなくなってしまった」という声も少なくありません。
その多くは、「何をもって成功とするか」「どのプロセスをどう改善すべきか」が設計されないまま、ツールだけを導入してしまった結果です。
PRMを単なる管理ツールではなく、“パートナーと成果を共創する仕組み”として活用するには、導入後のプロセスを明確に設計し、その状態を数値で可視化しながら改善していく必要があります。
本記事では、PRM導入のROIを最大化するために押さえるべき5つのプロセス指標を紹介し、それぞれを1つの分かりやすい数値(KPI)でどう可視化するかを解説します。
INDEX
代理販売契約というものは「契約すればすぐ販売してもらえる」ものではありません。
実際には、パートナーがどのようなフローをたどって案件創出に至るのか、その行動の可視化(=パートナージャーニーの把握)することが非常に重要です。
特に、PRM導入において多くのパートナーが陥るのは、「PRMの登録までは完了したが、その先の動きが止まっている」という状態。
これは、パートナーが次に何をすればいいか分からない、もしくは動機づけがされていないことで起こる現象です。
パートナーの活動を整理すると、以下のようなステップが浮かび上がります。
この一連の流れの中で、「どこで離脱が多いのか」「何がボトルネックになっているのか」を把握しなければ、施策の打ち手も曖昧になります。
このステップごとの進行度合いを定量的に捉えるために有効なのが、「フローごとの完了率」です。
このように、各フェーズの完了率を追うことで、「資料はDLされているが案件化していない」などの課題が明確になります。
パートナーの離脱を防ぐために有効なのは、「次にやるべき行動を明示する」ことです。
例えば、
PRMを「道に迷わないように誘導するナビゲーター」として設計することで、フローの完了率は大きく向上します。
パートナーに積極的にアクションしてもらうためには、ただアカウントを渡すだけでは不十分です。
重要なのは、「何をどう使えばいいのか」を理解し、パートナー自身が自走できる状態にまで引き上げること。これを支えるのが、オンボーディング施策です。
オンボーディングとは、契約初期にパートナーに対して行う、教育・定着支援のことを指します。
営業資料の使い方、案件申請の流れ、提案事例の共有など、最初の1歩を踏み出させるための仕掛けがなければ、パートナーは製品の全容を理解できず、そのまま離脱してしまう可能性があります。
特に「案件登録まで進んでいない」「一度ログインして終わってしまっている」といった課題は、オンボーディング不全が原因であることが非常に多いのです。
オンボーディング施策の浸透度を測るうえで、最もシンプルかつ有効な指標が「コンテンツ資料DL数」です。
これは、パートナーが初期に提供された資料やガイドを、どれだけ実際に活用しているかを可視化するものです。
この数値を追うことで、「見られている資料」と「見られていない資料」の違いが分かり、オンボーディング設計の改善にもつながります。
効果的なオンボーディングとは、パートナーの次のアクションを促すコンテンツ設計にあります。
読んで終わりではなく、“読んだあとに動きたくなる”資料やガイドを用意することが、オンボーディングの質を左右します。
PRM導入の目的は、「使われること」ではなく「成果につながること」です。
つまり、ログインしただけ、資料をダウンロードしただけではROIは生まれません。
本当に重要なのは、パートナーが実際にアクションを起こし、案件創出に踏み出しているかどうかです。
この状態を私たちは「アクティベーションされた状態」と捉えます。
アクティベーションとは、パートナーがPRMを通じて具体的な提案活動や案件登録を始めた状態を指します。
ここで初めて、パートナービジネスが動き出したと評価できます。
導入初期にアクティブだったパートナーでも、実際に案件登録まで進まなければ、売上インパクトは生まれません。
一方、案件登録まで進んだパートナーは、その後も継続的に成果を生む傾向が高いため、アクティベーションはPRM運用の転換点となります。
この段階の活性度合いを最もシンプルに測るのが、「案件登録数」という指標です。
案件登録数が増えるほど、PRMの商流への接続度が高まっている証拠となり、売上インパクトの予測にも活用できます。
また、登録のないパートナーに対しては、追加フォローやインセンティブ設計などによって“最後のひと押し”を行うべき段階だと判断できます。
案件登録というアクションを促すには、次のような施策が効果的です。
重要なのは、パートナーが「自分もできそう」と思える環境を整えることです。
そのためには、使いやすさ・タイミング・動機づけをトータルで設計する視点が欠かせません。
PRMのダッシュボードに総量指標だけを並べていては、真にインパクトのある打ち手は見えてきません。
案件総数やリード総数はエコシステム全体のボリューム感を示すに過ぎず、個々のパートナー担当者(AE・コンサルタント・営業)の“稼ぐ力”を捉え切れていません。
エリート数名が数字を牽引しているのか、全員がまんべんなく成果を出しているのか。この違いは運用上の課題も施策もまったく変わります。
そこで登場するのが「一人当たりリード数」と「一人当たり案件数」。
個人単位での生産性を見ることで、「何がボトルネックか」「誰を支援すべきか」が一目で判別可能になります。
担当者 | 登録リード数 | 登録案件数 | リード→案件転換率 |
Aさん | 18件 | 8件 | 44.4% |
Bさん | 22件 | 3件 | 13.6% |
こうして課題が特定できたのちには、以下のような施策が有効です。
例えば、 Aさんのヒアリング質問と提案資料をテンプレ化してBさんに共有し、月例の「Best Practice Live」で案件化フローを短時間で学べる場を設けます。次にBさんの商談を録画し、タグ付きコールレビューで弱点を特定してピンポイントで補強。
さらにモバイル対応フォームとSlackリマインダーで商談後すぐの案件入力を徹底し、データ遅延を解消します。最後に週次ダッシュボードでリード・案件・転換率を自動スコアリングし、数値が落ちた担当者へCSが即コーチングを開始。
この4ステップを同時に回すことで、Bさんの転換率を底上げし、全体の案件化スピードを加速させることができます。
このような活動を継続的に行っていくことが重要です。
PRM導入のROIは、単発の成果では測れません。
本当に価値を発揮するのは、「成果を継続的に生み出すパートナーが増え続ける状態」をつくれるかどうかです。
そのために必要なのが、リテンション=パートナーとの関係性の維持と強化です。
導入初期に活発だったパートナーも、時間とともに活動が減り、フェードアウトしてしまうことは少なくありません。
それを防ぐためには、「成果が出たら終わり」ではなく、成果が出たからこそ、さらに支援を継続するという姿勢が必要です。
リテンションは、「パートナー側のモチベーション」「自社からの継続的支援」「成果の再現性」という3つの要素によって成り立ちます。
PRMのROIを最大化するには、導入後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月といった長期スパンで、どれだけのパートナーが継続活用しているかを明確に把握する必要があります。
この段階の評価に使える代表的な指標が、「継続利用率」です。
これは、一定期間(例:過去3ヶ月)にわたって、継続してログイン・活用しているパートナーの割合を示します。
この数値をもとに、アクティブなパートナーに対しては表彰・情報提供を強化し、休眠傾向のあるパートナーには再活性化施策を打つ、といったメリハリのある支援設計が可能になります。
リテンション向上のためには、以下のような仕掛けが有効です。
重要なのは、「使い続ける理由」を提供し続けることです。
PRMを“パートナーの営業活動の一部”として自然に組み込めたとき、リテンションは飛躍的に高まり、ROIも着実に積み上がっていきます。
PRMは単なるツールではありません。
それは、パートナーとの協業を“再現性のある仕組み”に変えるための、戦略的なインフラです。
しかし、導入しただけで成果が出るものではなく、成果を生むためのプロセスをどう設計し、どう数値で可視化するかが成功のカギを握ります。
各プロセスと数値を1つずつ設計し、運用し、改善していくこと。
それが、PRM導入のROIを最大化する最短ルートです。
PRMは、パートナーとの関係性を蓄積し、可視化し、強化する“関係資産”です。
目先の案件管理や効率化だけでなく、長期的に成果を出し続けるエコシステムを構築する土台と捉えるべきです。
だからこそ、自社に合ったプロセス設計とKPI設計を行い、「どのパートナーが、どの段階で、どんな支援を必要としているか」を見える化することが、PRM運用における最大の武器になります。
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