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なぜ大企業はスタートアップ思考を取り入れるべきなのか

作成者: B2B Compass編集部|Nov 6, 2026, 9:39:27 AM

自社の技術や顧客基盤を生かして、次の成長につながる事業機会を広げるには、どのような視点が必要でしょうか。BtoB企業では、既存製品やサービスを磨くことに加え、顧客企業の業務や事業に目を向け、まだ応えられていない課題を探ることも、新しい価値を見つける手がかりになります。

そこで着目したいのが、顧客の課題を起点に仮説を立て、小さく試しながら事業を育てる「スタートアップ思考」です。技術や知見、顧客との関係を蓄積してきた大企業にとっても、それらの強みを従来とは異なる用途や提供方法に生かすための視点となります。

ここで大切なのは、スタートアップのやり方をそのまま模倣することではありません。大企業の強みは、むしろスタートアップが持っていない蓄積—技術、顧客への深い理解、既存の取引関係—にあります。

スタートアップ思考とは、この蓄積を顧客の課題と結び直し、小さく検証しながら新しい価値に変えるための視点です。本記事では、BtoBの大企業にこの視点が必要な理由から、その核心、顧客企業の課題と自社資産を結び付ける考え方、実践を支える組織のあり方までを解説します。

大企業の成長に、なぜスタートアップ思考が必要なのか

既存事業を安定的に運営する際には、蓄積した経験や実績をもとに計画を立て、品質や効率を高めることが重要です。

一方、新しい顧客や市場に向けた事業では、どの企業のどの業務課題に価値を提供できるか、その価値が企業としての購入判断につながるかが、まだ十分に分かっていません。事業の前提が異なるため、検討の進め方も変える必要があります。既存製品の改善から新しい価値が生まれることもあります。

ただし、現在の顧客や取引部門から寄せられる要望だけを起点にすると、検討範囲が既存の機能・仕様に偏り、別の用途や顧客層にある課題を見落とす可能性があるでしょう。これまでの成功を生かしながら、その前提を問い直す視点が必要です。

生成AIで検証準備が速まる中、顧客から早く学ぶことが重要になる

加えて、生成AIは、調査情報の整理や企画のたたき台、試作品の作成など、顧客に案を提示するまでの準備に活用できます。こうした作業を短縮できれば、早い段階で顧客の反応を確かめ、案を修正する機会を増やせるでしょう。

こうした準備を速められる領域では、顧客に案を提示し、反応を得るタイミングにも差が生まれます。早く検証を始めた企業は、顧客との対話から業務課題や導入条件を把握し、提案を修正する機会を先に得られるのです。その積み重ねが、解決に向けて継続して相談される関係づくりにつながる可能性があります。

一方、社内で計画を精緻化している間に、他社が顧客との対話を重ね、提案の方向性を具体化することも考えられます。顧客に確かめなければ分からないことまで社内検討で詰めようとすると、時間をかけること自体が、課題を捉え、関係を築く機会の損失につながりかねません。

必要な品質や安全性を確保しながら、顧客から学ぶ機会を先送りしないことが重要です。スタートアップ思考は、大企業が持つ技術や資産を生かし、こうした探索と学習を進めるための考え方として役立ちます。

スタートアップ思考とは?大企業が新しい事業を生み出す3つの視点

本記事では、スタートアップ思考を「顧客課題と事業の成立条件について仮説を立て、検証と修正を重ねながら事業をつくる考え方」として整理します。

単なる行動の速さや挑戦する姿勢にとどめず、何を起点に考え、どのように事業の可能性を確かめるかに着目します。スタートアップ経営のすべてを模倣する必要はなく、自社の事業開発に取り入れられる視点として捉えることが大切です。

むしろ大企業とスタートアップでは、出発点が決定的に異なります。スタートアップがゼロから顧客や技術を探すのに対し、大企業はすでに技術、顧客との関係、業務知識を蓄積しています。同じ「仮説・検証・修正」でも、大企業はこの蓄積を検証の起点にできる点に優位性があります。スタートアップ思考を取り入れる目的は、身軽さを真似ることではなく、持っている資産を従来とは異なる顧客課題へ素早く当てにいくことにあります。

  • 視点1:既存の前提を問い直し、顧客の課題から考える
  • 視点2:小さく試し、事業の可能性を確かめる
  • 視点3:得られた事実をもとに、当初の案を柔軟に変える

視点1:既存の前提を問い直し、顧客の課題から考える

BtoBでは、顧客から伝えられた製品・サービスへの要望に加え、その背景にある業務上の負担や、事業として実現したいことまで目を向けます。「何を追加してほしいか」だけでなく、「何のために必要なのか」「現在はどう対処しているのか」を捉えることが出発点です。

現在の取引先担当者の声を入口に、関係する部門や前後の業務も確認すると、製品の改善だけでは解決しきれない課題が見えてくることがあります。担当者が困っている作業と、企業として優先して解決したい課題との関係も、提供価値を考える材料になります。

新しい価値と収益の仕組みを見いだす「0→1」の段階では、自社がつくれるものと、顧客企業が対価を払ってでも解決したい課題との接点を探ることが重要です。

視点2:小さく試し、事業の可能性を確かめる

事業案を詳細につくり込む前に、その案が成り立つために確認が必要な前提を整理します。顧客がその課題を重く捉えているか、提案した解決方法に価値を感じるかなど、確かめたいことに応じて検証方法を選びます。

検証方法
確かめたい問い
得られる判断材料
その検証だけでは判断しにくいこと

顧客へのヒアリング

その課題は、どの場面で生じ、どの程度重要なのか 現在の対処方法、業務への影響、優先して解決したい理由 提案する解決方法が実際に使えるか、購入につながるか

説明資料の提示

提案する価値が伝わり、検討する理由になるか 関心を持たれた点、既存の方法との比較、導入に対する懸念 実際の使い勝手や、業務の中で得られる効果

試作品による確認

想定する利用場面で、課題の解決に役立つか 利用上の問題、必要な機能、業務に組み込む際の条件 継続的な購入や、他の顧客にも展開できるか

ここでは、「興味がある」という反応だけで需要があると判断せず、課題の重要性や、実際の導入・購入に必要な条件まで確かめます。

小さく試すとは、確かめたいことに応じて、顧客企業の対象業務や利用部門、試す機能などを絞ることです。必要な品質や安全性を省略することではありません。顧客の業務への影響を確認しながら検証することで、一度に大きな資源を投入する前に、次の判断に必要な情報を集められます。

視点3:得られた事実をもとに、当初の案を柔軟に変える

検証で想定と異なる反応が得られた場合は、対象顧客、用途、提供方法など、どの前提を見直す必要があるかを考えます。最初の案を実現することだけに固執せず、次の点を整理しましょう。

  • 顧客課題の捉え方は合っていたか
    想定した困りごとが実際に生じているか、顧客が優先して解決したい問題なのかを確認
  • 提供価値や用途を見直す必要はあるか
    顧客が関心を示した点と懸念を示した点から、提案のどこを残し、どこを変えるかを考える
  • 判断に必要な情報は十分か
    一人の担当者の反応を、その企業全体の意向と捉えていないか、一社の事情を他社にも当てはめていないかを確認。説明や試作品で意図が伝わっていたかも振り返り、次に確かめることを決める

計画の変更を無条件に肯定するのではなく、得られた事実に基づく修正かどうかが重要です。検証の結果、事業を進める根拠が得られることもあれば、変更や中止が妥当になることもあります。検証と修正を重ね、追加の時間や資金を投入する前に判断の根拠を増やしていきます。

スタートアップ思考が、大企業の事業機会を広げる理由

スタートアップ思考を取り入れる意義は、事業開発を速めることだけではありません。自社の技術や知見を、顧客の課題との関係から捉え直し、新たな用途や提供方法を考えられることにもあります。

  • 理由1:顧客企業の業務や事業に目を向け、新たな提供価値を見つけられる
  • 理由2:技術の蓄積と顧客への理解を、新しい事業の強みにできる

理由1:顧客企業の業務や事業に目を向け、新たな提供価値を見つけられる

既存製品の機能や仕様を起点にすると、成長の選択肢は製品改良や拡販を中心としたものになります。そこに、顧客企業が求める成果と、その達成を妨げていることへの視点を加えると、製品の使われ方や導入前後の業務まで検討範囲が広がります。

その結果、製品の提供に加え、運用支援や関連業務の改善など、自社の技術・知見を生かす別の可能性も検討できるでしょう。提供するものの形を先に決めず、顧客にとってどのような価値があるかから事業を考えることで、これまでの事業の枠組みでは見えにくかった選択肢を探れます。

既存事業を磨く取り組みを続けながら、その延長では捉えきれない課題にも目を向けることが、新しい事業機会を広げるうえで重要です。

理由2:技術の蓄積と顧客への理解を、新しい事業の強みにできる

BtoBの大企業には、技術やデータに加え、営業や顧客支援を通じて蓄積した業務知識があります。技術部門が把握する「実現できること」と、顧客接点を持つ部門が把握する「現場で解決されていないこと」を結び付けることで、新しい提供価値の仮説を立てやすくなるのです。

既存の取引関係は、課題や導入条件を確かめる接点にもなります。これまでに得た知識を出発点に、新しい用途や関係部門の課題を確認すれば、自社の強みをどこで生かせるかを具体的に検討できるでしょう。

ただし、特定の顧客に役立つことと、継続的な事業として成り立つことは分けて考える必要があります。複数企業への展開を目指すなら、次の点まで確かめることが重要です。

  • 他の顧客にも共通する課題か:最初に話を聞いた企業だけの事情なのか、同様の業務を行う企業にも生じる問題なのかを見極める
  • 提供内容をどこまで共通化できるか:顧客ごとに仕様の変更や運用支援が必要になる範囲を捉え、共通して提供できる部分を確認
  • 継続して提供できる採算と体制があるか:顧客が支払う対価に対し、開発・導入・運用支援にかかる費用や人員の負担が見合うかを考える

自社の技術や資産を、新しい顧客課題と結び付けるには

自社にどのような資産があるかを整理するとともに、その資産が誰の何を改善できるかを考えます。技術や設備だけでなく、日々の業務で蓄積した知見も含めて捉えることが、新しい可能性を探る入口になります。ポイントは以下です。

  • 現在の製品や用途から離れ、自社が提供できる価値を捉える
  • 顧客企業が導入する理由と、事業として提供を続けられる条件を考える

現在の製品や用途から離れ、自社が提供できる価値を捉える

自社の強みを製品名や技術名だけで表さず、「どのような問題を解決できるか」「顧客のどのような負担を減らせるか」という形で言語化します。現在の用途から一段離れることで、別の業務や業界への応用を考えやすくなるでしょう。

対象は特許や設備だけではありません。業務の進め方に関する知見、蓄積したデータ、顧客支援の経験なども、提供価値を考える材料になります。

自社にある資産
資産を捉え直す問い
顧客にとっての価値の例
活用に向けて確認すること

技術・特許

現在の製品以外で、どのような処理や性能を実現できるか 顧客が手作業で行っている処理の省力化や精度向上 別の利用環境でも必要な性能を発揮できるか

設備・IT基盤

顧客が自社で用意しにくい機能や能力は何か 設備やシステムを一から整備する負担の軽減 外部への提供余力や、利用・運用上の制約はあるか

業務ノウハウ

自社では当たり前にできているが、他社では負担になっている業務は何か 作業時間の短縮、品質の安定、運用負担の軽減 特定の担当者に依存せず、他社にも提供できるか

蓄積データ

顧客のどの判断に役立つ情報を取り出せるか 状況把握や計画づくりに必要な判断材料の提供 利用権限やデータの品質、他の用途への適用可能性に問題はないか

顧客支援の経験

繰り返し相談される困りごとに、共通点はあるか 導入時のつまずきや、運用上の負担を減らす支援 個別の対応を、共通して提供できる支援内容に整理できるか

これらの資産を保有していることと、他の用途で利用できることは別です。活用を検討する際には、利用条件や社内外の制約、技術的な適用範囲も確認します。

顧客企業が導入する理由と、事業として提供を続けられる条件を考える

次に、自社が提供できる価値が、どの企業の、どの業務で必要とされるのかを考えます。技術の用途を増やすこと自体を目的にせず、顧客企業が現在の方法では解決できていない課題との接点を探りましょう。

BtoBでは、実際に使う人にとっての価値に加え、企業として導入する理由も考える必要があります。利用者と購入判断者が異なる場合には、購入を判断する責任者や、導入・運用に関わる部門など、購買意思決定に関わる人々(DMU)が何を重視するかにも目を向けましょう。関与する人や部門は、商材や案件に応じて確認が必要です。

検討する際には、次の観点を押さえます。

検討する観点
主に確かめる相手・部門
確認したいこと
事業案に反映すること

顧客課題

顧客の利用者・業務責任者 どの業務で問題が生じ、費用・時間・品質などにどう影響しているか 対象とする顧客・業務と、優先して解決する課題

導入する理由

顧客の購入判断者・予算責任者 現在の方法に比べて何が改善され、費用をかける理由になるか 提供価値の伝え方と、価格を検討する前提

導入・運用の条件

顧客の利用部門・導入や運用に関わる部門 既存業務やシステムに組み込めるか、追加の作業や調整が必要か 必要な機能、導入支援、運用サポートの範囲

提供を続けられる条件

自社の営業・開発・運用担当部門 個別対応にどの程度の費用や人員が必要で、対価に見合うか 提供範囲、共通化する部分、収益と提供体制の見通し

初期段階ですべてを確定する必要はありません。事業の成立を左右する前提から小さく確かめ、分かったことを次の検証や判断につなげます。

スタートアップ思考を実践するには、組織の仕組みも見直す必要がある

スタートアップ思考の重要性を理解しても、顧客に会う時間がなく、小さな検証にも多くの承認を要する状態では、実践は進みません。考え方を現場での行動につなげるには、探索を支える時間や協力体制、判断の仕組みにも目を向ける必要があります。

探索に必要な時間と協力を、個人の努力だけに頼らない

BtoBで新しい事業機会を探るには、営業や顧客支援部門が持つ業務理解と、開発・技術部門が持つ専門知識を結び付けることが重要です。顧客の要望を既存製品の改善要求として扱うだけでなく、その背景にある課題を共有し、別の解決方法も検討できる環境が必要になります。

既存顧客へのヒアリングや試作品の検証では、顧客接点を持つ部門との調整も重要です。既存の取引や顧客業務への影響に配慮しながら試せるよう、関係部門が目的を共有し、協力できる体制を整えます。

また、新しい挑戦を求めながら、担当者の時間が既存業務だけで埋まっていると、探索は後回しになります。組織として、次の対応が必要です。

  • 探索に使う時間と人員を確保する: 顧客へのヒアリングや試作品の検証を通常業務に上乗せするだけでなく、既存業務との優先順位を調整する
  • 顧客理解と技術の知見を持ち寄れるようにする: 営業や顧客支援部門が把握した課題の背景を、開発・技術部門と共有し、解決方法を検討できる機会を設ける
  • 顧客との検証に協力できる体制を整える: 顧客接点を持つ部門と検証の目的や範囲を共有し、既存の取引や顧客業務への影響に配慮しながら進められるようにする

担当者の熱意や個人的な交渉だけに頼らず、探索を進められる環境をつくることも組織の役割です。

事業の段階に応じて、評価や投資判断の考え方を変える

顧客や需要が未確認の初期段階と、事業の拡大を目指す段階では、判断に使える情報が異なります。そのため、事業の段階に合わせて、何を評価し、何を根拠に次の投資を決めるかを考えることが重要です。

初期段階から売上や計画達成だけを求めると、前提の修正や、新しい可能性の検証が進めにくくなることがあります。この段階では、顧客課題や導入条件について何が確認でき、どのような不確実性が残っているかも判断材料となります。

その後、事業が進むにつれて、実際の購入や継続利用、収益性、提供体制などを確認していきましょう。初期段階でも価格やコストを考えながら、得られた根拠に応じて投資を進めることが大切です。

スタートアップ思考を継続的な実践につなげるには、組織構造とともに、何を成果として評価し、どの段階で追加投資を判断するかという仕組みも検討する必要があります。

スタートアップ思考で、自社の強みから新しい成長を探る

BtoBの大企業が新しい事業機会を広げるには、蓄積してきた技術や資産を、顧客企業の業務・事業の課題と結び付けて捉え直すことが重要です。既存製品への要望に加え、その背景にある課題に目を向け、小さく検証しながら提供価値を見いだすスタートアップ思考は、自社の強みから新しい成長を探る手がかりになります。

さらに、考え方を理解するだけでなく、現場で実践・継続できる組織体制へと見直していく必要があります。営業が持つ顧客理解と技術部門の知見を結び付け、探索に必要な時間を確保し、事業の段階に応じた評価・投資判断を支える仕組みがあってこそ、取り組みを個人任せにせず続けられるのです。

大企業がスタートアップに学ぶべきは、その身軽さそのものではありません。スタートアップには無い蓄積—技術、顧客理解、取引関係—を、顧客の課題と結び直して新しい価値に変える。その姿勢こそが、大企業ならではの成長の道筋です。

わたしたち電通B2Bイニシアティブは、BtoB事業の成長を加速させるデマンドジェネレーションとブランディングのプロフェッショナルです。

電通グループの強みである広範なネットワークと豊富なデータ資産、そしてBtoBに特化した専門チームの知見を活かし、以下の領域をトータルで支援します。

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  • 顧客体験(CX)の最適化
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