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#01 スピードか、主導か。日系B2B企業がこれから挑む海外販路戦略

作成者: B2B Compass編集部|Nov 7, 2025 1:00:00 AM



国内市場の成熟と競争の激化により、海外事業は中期成長の柱としての重要性が増しています。一方で、海外展開の手法は多様化し、投資規模、自社の主導権の強さ(=どこまで販売・価格・営業活動をコントロールできるか)、ターゲット市場の成長・変化速度、規制環境など複数の条件が複雑に絡み合います。

本コラムでは、主要な6つの販路モデルを横断的に整理し、自社の資源条件とリスク許容度に応じてどのように選択し重ねていくべきかを、実務面も含めて解説します。

B2B海外販路開拓6大モデル

本コラムでは、現地法人の設立、販売代理店の開拓、海外展示会への出展、合弁(JV)の設立、海外M&A、海外営業DXという6つの販路開拓モデルを紹介します。
 
これらを「投資規模」と「自社主導権の強さ」という2軸で整理すると、構造が明確になります。
 
現地法人とM&Aは、自社が販売・価格・ブランド・顧客接点の主導権を強く握る高主導・高投資モデルであり、長期的な利益構造やブランド資産の形成に適しています。一方、販売代理店や展示会は、現地プレイヤーや市場の仕組みに一定の裁量を委ねる低主導・低投資モデルであり、スピードと柔軟性を重視した市場検証フェーズに向きます。海外営業DXは、他モデル着手前のリスクや投資を抑えた超初期的なモデルとして、また、他モデルの効果を底上げする補完的なモデルとして機能します。

これ以降では、各モデルの概要と活用のポイントを順に紹介します。

#1 現地法人モデル

現地法人モデルは、自社の統制下で営業やマーケティング、必要に応じてサービスや製造までを一体運営する王道のアプローチです。最大の利点は、ブランド体験、価格、在庫、アフターサービス、顧客データの主導権を回復できる点にあります。例えば、見積りから納期調整、アフターサービスまでの一連の顧客体験を自社設計に揃えられるため、価格戦略や付加価値の打ち出しを一貫させやすく、平均案件単価や粗利を中期的に引き上げやすくなります。採用や教育、評価も自社基準で運用でき、現地チームの能力開発が組織の資産として蓄積します。
 
一方で、設立準備、許認可、税務、駐在員配置など初期負担は大きく、立ち上げ初期は収益の波が不安定になりがちです。安定稼働までに必要となる運転資金や人件費を十分に見込み、長期視点で採算を設計することが重要です。また、現地法人は単に拠点を置くだけでは成果につながらず、どの領域を本社が主導し、どこを現地に委ねるのかといった権限と責任の線引きを明確にする必要があります。ガバナンスや意思決定プロセスの枠組みをあらかじめ定め、組織体制や運営ルールを段階的に整えていくことが、現地法人を安定的に機能させる前提となります。

#2 販売代理店モデル

販売代理店モデルは、現地に既存の販路や顧客ネットワークを持つパートナーを活用し、短期間で販売を開始できるアプローチです。初期投資を抑えつつ市場の反応を確かめられるため、海外進出の初期段階で最も取り組みやすい手法の一つです。とりわけ、現地の調達慣行や意思決定プロセス、価格感度などを理解するうえで、代理店を介した検証は大きな価値を持ちます。
 
一方で、販売優先度の低下や情報のブラックボックス化といった構造的な課題を抱えやすい点には注意が必要です。現地代理店は複数の商材を扱うのが一般的であり、自社製品が常に重点的に販売されるとは限りません。こうしたリスクを抑えるためには、取引条件や販売目標の設定だけでなく、定期的な情報共有や関係構築を通じて、相互の期待値をすり合わせる仕組みを整えることが求められます。
 
また、代理店モデルを単なる「販売委託」として捉えるのではなく、市場理解や顧客データの収集を通じて、次の成長段階につなげる「学習フェーズ」として設計することが重要です。現地の成功要因や課題を定量的に把握できれば、将来的に直販体制や合弁など、より自社主導のモデルへと発展させる判断がしやすくなります。販売代理店モデルは、リスクを抑えながら市場との接点を築く出発点であり、海外展開全体の精度を高めるための貴重なステップといえます。

#3 海外展示会モデル

海外展示会モデルは、業界展示会や見本市への出展を通じて、短期間で多くの見込み顧客と接点を持ち、市場の温度感を把握するアプローチです。比較的低コストで着手でき、競合状況や価格感度、購買プロセスを直接観察できるため、海外展開の初期段階における市場検証の手段として有効です。現地代理店やパートナー候補と接点を持つ場としても機能し、販路形成の起点となり得ます。
 
一方で、展示会は「出て終わり」になりやすい側面があります。名刺交換や面談で得られた情報が整理されず、フォローが不十分なまま成果につながらないケースも少なくありません。重要なのは、展示会を単発のイベントではなく、顧客理解と仮説検証のための「学習のプロセス」として設計することです。どの業界・市場にどの程度の関心があるか、商談化に必要な条件は何かといったデータを集め、次の意思決定につなげる視点が欠かせません。
 
また、展示会で得た知見やリードを、販売代理店モデルや海外営業DXモデルと連携させることで、販路全体の歩留まりを高めることができます。出展は単体で成果を完結させるものではなく、他のアプローチを加速させる「触媒」としての位置づけが適しています。展示会モデルは、低リスクで市場理解を深め、次の成長ステップへの踏み台とするための有効な手段です。

#4 合弁(JV)モデル

合弁(JV)モデルは、現地企業と共同出資によって法人を設立し、営業や生産、販売を共同で運営するアプローチです。外資規制や認可要件が厳しい国・地域において特に有効であり、現地企業のブランド力や流通網、制度知識を取り込むことで、参入障壁を低く抑えながら市場展開を進めることができます。自社単独では難しい領域に踏み込みつつ、一定の主導権を確保できる点が大きな特長です。
 
一方で、合弁は「パートナーシップの質」に左右されやすい手法でもあります。目的や期待する成果が一致していなければ、意思決定の遅れや方針の不一致が生じ、運営が不安定化するリスクがあります。重要なのは、合弁を単なる出資スキームではなく、相互の強みを活かして市場を拡大するための「協働プラットフォーム」として位置づけることです。お互いの役割と責任範囲を明確にし、ガバナンスや意思決定のルールを事前に合意しておくことが、持続的な運営の前提となります。
 
また、合弁は単に外部パートナーを頼る仕組みではなく、自社が不足している要素(現地ネットワーク・人材・制度対応力など)を補完するための戦略的な手段です。現地の経済構造や商習慣に深く適応しながら、最終的には自社の主導度を徐々に高めていく「共創型の参入プロセス」として捉えることが望まれます。合弁モデルは、リスクを抑えながら市場参入を加速させ、自社と現地の両者に学びをもたらす実践的なアプローチといえます。

#5 M&Aモデル

現地販売代理店を買収し、自社の統制下に取り込むことで、顧客基盤と販売ネットワークを即時に確保する手法です。既存の販売網を活用しながら、自社主導の販売体制を短期間で構築できるため、垂直立ち上げを実現する現実的な選択肢となります。
 
買収時は、財務状況の確認と同様に営業資産の健全性を見極めることが重要です。主要顧客の継続率や営業人材の関係性、在庫や与信、契約条件などを把握し、主要人材の残留を条件設計に織り込みます。また、アーンアウト(買収後の業績達成に応じて残余対価を支払う仕組み)を活用することで、旧経営陣のモチベーションを維持しながら、移行期の安定運営を図ることができます。
 
また、買収後の統合段階では、販売活動や顧客対応の基本方針を自社基準へと整え、ブランド、価格、販促などの主要領域で一貫性を確立していくことが求められます。買収は短期的な売上拡大策ではなく、販売機能を自社化し、現地市場における主導権獲得と市場ノウハウの蓄積を中期的に実現していていくための実践的手段です。

#6 海外営業DXモデル

海外営業DXモデルは、多言語サイトやデジタル広告、ウェビナー、MA、CRMなどを統合し、国境を越えて見込み顧客の発掘と育成を継続的に行うアプローチです。初期投資が比較的小さく、人的リソースに制約されにくいため、リスクを抑えて海外展開を試行できる「最初の一手」として有効です。現地拠点や代理店を持たない段階でも、オンライン上で需要を顕在化させ、受注可能性の高い市場やセグメントを早期に特定できます。
 
また、営業DXは単独で完結する施策ではなく、他モデルの成果を底上げする横串の基盤として機能します。例えば、展示会で得た名刺情報を即座にナーチャリングへ移行し、温度感の高いリードを代理店に引き渡す、あるいは現地法人の営業活動で得られたデータをCRMで統合し、他国展開の仮説検証に活かすといった使い方です。この仕組みにより、各モデルの歩留まりが安定し、商談創出の精度が向上します。
 
さらに、DXの最大の特徴は「ALWAYS ON」である点にあります。展示会やキャンペーンのようにイベント依存ではなく、常時オンライン上で情報発信と顧客発掘が継続されるため、時差や休日を問わず、リード獲得の仕組みを止めずに運用できます。限られた人員でも複数市場を並行してカバーでき、季節や予算サイクルに左右されないパイプライン形成が可能になります。こうした「止まらない仕組み」を早期に構築しておくことで、他モデル導入後も継続的に顧客接点を増やし、海外事業全体の成長を下支えする基盤となります。

まとめ

海外販路開拓の手法は多様化しており、どの企業にも当てはまる万能な正解は存在しません。現地法人やM&Aのように自社主導の自由度が高い方法は、統制やブランド維持の面で優れる一方、初期投資とリスクの負担が大きくなります。販売代理店や展示会出展はスピーディに着手できる反面、利益確保や情報蓄積には限界があります。そのため、自社の目的や体制、投資余力に応じて、各モデルを戦略的に組み合わせる発想が重要です。
 
成功している企業に共通するのは、スモールスタートでリスクを抑えつつ市場理解を深め、段階的に自社の主導権を高めていく姿勢です。単一のモデルに依存するのではなく、各フェーズで得た知見を次の段階に反映させる「学習型展開」の考え方を持つことで、長期的な成長軌道を描くことができます。
 
さらに、デジタル活用の拡大によって、海外販路開拓のあり方自体が再定義されつつあります。商談や契約のオンライン化が進み、「対面からリモートへ」「人依存から仕組み化へ」という構造転換が進行しています。海外営業DXを活用することで、展示会や代理店に依存しない新しい商談機会を常時創出でき、各モデルの成果を底上げすることが可能です。デジタルは単なる補完策ではなく、「常時稼働型の基盤」として機能し、継続的な顧客接点の形成に貢献します。
 
結局のところ、成果を左右するのは「どのモデルを選ぶか」ではなく、「それらをどう設計し、どう進化させるか」です。市場環境や成長ステージに応じて複数のモデルを柔軟に組み合わせ、自社の主導権とリスクのバランスを最適化していくことが、持続的な海外成長を実現するための前提条件となります。