ヴェールコンサルティング株式会社代表の大西亜希氏は、これまでにさまざまな企業の業務改革やDXを支援してきました。そのなかでRPAを有効活用する企業と、つまづいている企業の両面を見てきたようです。
そんなRPAの“光と影”を知り、著書「RPAで成功する会社、失敗する会社」も出版する大西氏に、RPAの役割や適している業務、正しい「費用対効果」の考え方や理想的な運用体制などを伺いました。
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少子高齢化や地方から都市への人材流出といったさまざまな原因によって労働人口が減少するなか、企業はこれまで以上に効率的に業務を行い、生産性の高い働き方を実現する必要があります
そのなかで、RPAは人とデジタルの業務の棲み分けを考えるうえで非常に重要です。「デジタルツールで置き換えられる業務は積極的に自動化すべき」と話す大西氏。
一方で、RPAの役割を“誤解”している企業も少なくないと大西氏は続けます。
「日本でRPAが登場した当初、RPAは『なんでもできる魔法のツール』というイメージがもたれていました。しかし、時が経ち、万能なツールではなく適切な役割があることが理解されつつあります。それでも当初の高い期待値のまま活用しようとして、うまく使えていない企業は少なくありません。RPAを含め、社内DXにより業務改革を検討する企業さまに、システムの役割や正しい考え方を伝え、有効活用に向けてご支援するのが弊社のミッションです」(大西氏)
営業支援からマーケティング、バックオフィスに至るまで、さまざまなパッケージやSaaSが提供される今、それらのシステムとRPAを組み合わせて使うことで、業務の自動化がさらに進むと大西氏は話します。
「RPAは、各業務の具体的な課題解決を目的として設計されたパッケージやSaaSのように、特化した機能を有するものではなく、例えばデータの入力やアップロードなど、業務における人の『行動』を記憶し、自動化するものです。そのため、DXにおけるRPAの役割は、各種パッケージやSaaSによる全体最適から漏れた細やかな業務を拾い上げ、部分最適を担うツールと理解すると良いでしょう」(大西氏)
RPAの役割を踏まえたうえで、どんな業務や業種でRPAが活用されているのか、大西氏はこれまでのコンサルティングの経験から次のように述べます。
「RPAは基本的に人の判断を必要としないシステマティックな業務で活躍します。例えば経理部門の売上データの集計や、請求書・注文書・納品書といった伝票の発行、会計システムへのデータ反映など、反復操作を伴う定型業務はRPAに置き換えることが可能です。
一方、メール返信のような業務は、相手先から届いた文章の内容を理解し、個別で文面を考える必要があるため、RPAでは処理できません。経理業務だけでなく、ある企業は、営業戦略として毎日実施していた競合他社のホームページ閲覧による価格調査をRPAで自動化し、作業の省力化を実現していました。こうしたインターネットでのブラウジングはRPAと親和性が高いですね。
また、税理士や行政書士といった士業や、クライアントごとに違った対応をする営業など、個別性の高い業務はパッケージやSaaSを導入する費用対効果が低く、RPAを活用する余地があるでしょう」(大西氏)
RPAが有効活用できるシーンとして、大西氏が語った「システマティックかつ反復操作を伴う定型業務」は、企業における日常業務のあらゆる“隙間”に存在しているものです。
だからといってその全てにRPAを適用すれば良いというわけではありません。企業がRPAの導入を検討する際の判断の仕方について、大西氏はこう話します。
「RPAを使うことで『どれくらい従業員の業務時間が削減されるか』に注目するよりも、『創出された余力で何をするのか』を考えることが非常に重要です。RPAツールを使用するためにはだいたい月10万円ほどのランニングコストがかかります。さらに、自社で開発ができない場合、ベンダーのサポートも必要になるので、小規模な企業で経理などの細かな作業にRPAを使うだけだと、担当者が楽になるだけで経営的にはペイできないでしょう。
そのため、例えばRPAを経理部門に導入して経理担当の人数を絞り、その分、営業系の人材を増員して売上に直結する業務や新規事業に着手するといった考え方をもつべきです。RPAだけでなく、システムの導入でDXの効果を享受できるか否かは、まさにその企業の底力が試されるところだと思います」(大西氏)
海外で誕生し、その後国内でも注目されるようになったRPAですが、使いこなせずに苦慮している日本の企業にはある特徴があると大西氏は指摘します。
「RPAを効果的に使うためには、前提として業務の見直しが行われている必要があります。DXが進んでいる欧米では、基本的に社内の業務を司る部署があり、そこで全ての部署の業務フローが把握・管理されています。そのため、全社的に業務の標準化が進められており、自動化を推進しやすいのです。
一方、日本企業の場合は現場にて顧客ごとのさまざまな要望に個別で応じる習慣が根付いているため、業務がガラパゴス化しており、DXひいてはRPAも馴染みにくいのです。また、日本の企業でDXを進めようとしたとき、経営層が現場の業務を把握していないケースが多く、コンサルティングを行う場合でも各現場担当者にヒアリングしなければならず、非常にコストがかかってしまいます。
こうした課題をクリアし、業務の見直しを行ったうえで経営層がRPA導入の推進役として全社にメッセージングできれば活用は大きく前進するでしょう」(大西氏)
国内企業におけるRPAの導入状況について「大企業を中心に一通り浸透し、今後はAIと組み合わせたより高度な活用が期待できる」と話す大西氏。
最後に、DXにおけるRPAの“立ち位置”について次のように語りました。
「RPAは全体最適から漏れた細やかな業務の部分最適に有効なツールです。そのため、RPAは現場からボトムアップでDXを進めるための旗印になるツールと言えるかもしれません。先ほど話したように業務の見直しから進めるのが理想的ですが、難しい場合は一部の現場で限定的に使いはじめ、自動化してブラッシュアップした業務フローを全社に拡大していくという方法もあるでしょう。RPAによる業務の自動化で創出された時間を有効利用して、企業の成長に役立ててみてはいかがでしょうか」(大西氏)