2022年の『NIKKEI BtoBマーケティングアワード』でブランディング賞を受賞したパナソニック コネクト株式会社。
パナソニック コネクト株式会社はパナソニックグループの持株会社制への移行に伴い、2022年4月に誕生しました。認知度ゼロの状態から企業ブランディングを推進し、パーパスCM「かなえよう。」は、YouTube再生回数が2,000万回を超えました。
今回はパナソニック コネクト株式会社 デザイン&マーケティング本部 プランニング&オペレーションズ統括部 企画管理部 シニアマネージャー 飯干氏に、電通B2Bイニシアティブの唐澤と遠藤がお話を伺いました。
唐澤:まずはパナソニック コネクト株式会社の概要について教えてください。
飯干:パナソニック コネクトは2022年4月に立ち上がったばかりの会社です。元々は、コネクティッドソリューションズ社(CNS社)という、パナソニック(株)の社内カンパニーのひとつだったのですが、持株会社制への移行に伴って事業会社化されました。
飯干:事業内容は幅広く、グループ内における主に車載と半導体以外のBtoB事業を行っています。サプライチェーンを最適化するソリューション、国際空港での出入国や医療機関・薬局などで使われている顔認証ソリューション、モバイルPCの「レッツノート」や飛行機の中のエンターテインメントシステムなど、幅広い製品・サービスを提供しています。従業員が国内外合わせて約3万人、売上高1兆1,257億円(22年度実績)ほどの規模です。
唐澤:パナソニック コネクトという企業名はどうやって決まったのでしょうか。
飯干:一般的には、自分たちが何をしているのかが分かるような社名にすることが多いかと思いますが、弊社は先ほどもお伝えしたように多様なサービスを展開しています。そのため「何をやっている会社なのか」を一言で表すことができません。
飯干:しかし、やっていることは様々あれど、我々の事業の本質は、ハードウェアやソフトウェア、サービスやソリューション、そして人と人を「コネクト」することで、現場のお困りごとを解決し、お客様のビジネスを最適化することだと考えました。「我々は『つなぐ』会社である」ということで、パナソニック コネクトという社名が決まりました。
唐澤:企業パーパスを策定するというのは、会社が発足するときに何か指示があったのでしょうか?
飯干:持株会社制への移行はパナソニックグループ全体の大きな動きで、商法上独立した事業会社が各々で意思決定し、各領域で企業競争力を磨き、各事業会社が不確実な世の中を生き抜くための強い経営を実現していくことを目的としています。それぞれの意志と責任においてビジネスを推進していくにあたり、コネクトを含むすべての事業会社が「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」を策定するようになっていました。
このMVVの検討を進めていく中で、新会社としての立ち上がりに際し、社員の思いを一つにし、チカラを合わせていくためにも、「企業としての使命(何を果たすべきか)」ではなく、時代が変わったとしても普遍的に私たちの目指す先を示すパーパス、つまり「私たちが何のためにこの社会に存在するのか」を定めよう、ということになりました。
遠藤:企業パーパスを定めていったプロセスを教えてください。
飯干:パナソニックグループには創業以来の経営理念があります。その中であらゆる経営活動の指針となっているのは、平たく言うと「企業は社会の発展に貢献するためにある」というものです。この理念のもと、パナソニック コネクトという一つの事業会社として、コネクトらしさを押し出せるようなパーパスを考えていきました。パーパス策定にかかった期間は2ヶ月ほどです。パーパスが決まらないと新会社としてのコミュニケーションの軸が決まらないので、優先度はかなり高かったですね。
私たち自身を知るために、各事業部がどのようなソリューション・商材を持ち、どのような業界のお客様に対し、どのような価値提供をしているのか、可能な限り全ての事業の棚卸しをしました。ものすごく気が遠くなるような作業だったのですが、それを事業概念図で見える化することでシンプルにしていき、我々が何のためにこの社会に存在しているのかという部分を言語化していく作業をしていきました。
遠藤:企業パーパスを定めていくうえで、留意していたポイントは何ですか?
飯干:パーパスを考える上で、留意していた点は4つあります。1つ目はシンプルで覚えられる長さにすること、2つ目は流行り廃りがない言葉を使うこと、3つ目はパナソニック コネクトらしさがあること、4つ目はすべての事業部が自分ごと化できることです。
唐澤:企業パーパスの社外発信について教えてください。
飯干:これまではパナソニック(株)の社内カンパニーだったので、「パナソニック」という大きなブランドがありましたから、CNS社時代はコーポレートブランディングという役割を持っていませんでした。しかし、新会社の立ち上げということで、何としても「パナソニック コネクト」という社名をまずは認知して頂く必要がありました。また、「総合家電メーカー」ではなく、「BtoBソリューションを提供する会社」であるという企業理解の促進も重要です。
そこで、コネクトが何を目指しどのようなケイパビリティを持っているのか、あらゆる接点を通してステークホルダーに一貫したメッセージを届けていくための、統合型マーケティングコミュニケーション(Integrated Marketing Communication, IMC)を展開しました。
IMCのひとつである広告においては、まずパーパスCMを制作しました。「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスを、ポジティブかつマジカルに演出し、ご覧になった方が「パナソニック コネクトが目指す未来は、なんだかワクワクするぞ」という期待を持つことを目指しました。
その一方で、パーパスCMだけではどのような事業を行い、どんな価値提供をしているのかということが伝えきれないので、コネクトのソリューションを導入下さった様々なお客様とコラボして、事例CMも制作しました。もちろん、この事例CMも、単にソリューションを紹介するものではなく、そのソリューションで「お客様と共にどんな未来をかなえようとしているのか」が伝わる読後感にこだわりました。
唐澤:BtoB企業のパーパスCMで2,000万回以上再生されるケースは非常に珍しいと思うのですが、その再生数を達成できた要因は何だと思いますか?
飯干:2,000万回再生を達成できた一番の要因はクリエイティブの質の高さだと考えています。パーパスCMは電通さん・I&COさんとタッグを組んで制作したのですが、三社で「BtoBっぽくない」ものを作ることを意識しました。とはいえ、電通クリエイティブチームからダンスパフォーマンスを取り入れるご提案を頂くとは思いもよりませんでした!しかし、BtoB企業としても、さらには「パナソニック」としても意外性のあるところが視聴者にご好評頂いたのかなと思います。「パナソニックとは思わなかった」「久々に最後まで見て良いと思えるCM」といった嬉しい反応を頂きました。
唐澤:パーパスCMの制作には、どのくらい時間がかかったのでしょうか?
飯干:パーパスCMは会社発足の2022年4月から放映することになっていて、制作期間としては3ヶ月ほどです。パーパスが決まってからすぐにCMの制作に取り掛かり、「かなえよう。」というタグラインを決めるところから、CMのコンセプト・シナリオ作成まで急ピッチで進めていきましたね。これと並行して事例CM制作も2本走らせていましたし、ペイド以外でも、企業サイトの刷新、会社紹介の制作、発足記者発表や他社様とのSNSコラボの仕込み、社員向けノベルティの準備などなど、本当に様々なコミュニケーション活動を推進していましたので、関わっている全員がランナーズハイになっていたんじゃないかと思います(笑)
今回は、パナソニック コネクトにおけるブランディング施策の取り組みについて、企業パーパスの策定から詳細にお話を伺いました。
後編では、BtoB企業にとってのパーパスブランディングの重要性や社内への浸透のさせ方、今後の展望などについてお話しいだだきました。ぜひご一読ください。