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#04 「場を活かす」力が成果を決める。展示会モデル攻略法

作成者: B2B Compass編集部|Nov 28, 2025 1:00:00 AM

「直接訴求」の場としての展示会、だが費用対効果の見極めが鍵

海外展示会への出展は、見込み顧客と直接対話できる数少ないチャネルとして、今なお高い効果を発揮する販路開拓手法です。自社製品を実際に見てもらい、手に取ってもらいながら、商談へとつなげられる点は、デジタル中心の時代にあっても代えがたい価値があります。
 
B2B領域では特に、意思決定層や有力ディストリビューターとの接点に加え、同業他社や関連業界とのネットワークを構築できる機会としても活用されています。こうした人脈形成は、後の販売提携や共同開発など、事業拡大の足がかりになるケースも少なくありません。
 
一方で、展示会出展は決して低コストな手段ではありません。ブース施工やサンプル輸送、スタッフ派遣、渡航・宿泊費などを合算すると、1回あたり数百万円単位の費用が発生することも珍しくありません。さらに、展示会は「出ること」が目的化しやすいという落とし穴もあります。来場者対応に追われ、肝心のリード情報が整理されず、結果的に一過性のイベントで終わってしまうケースも多く見られます。
 
つまり、展示会モデルは「短期で商談機会を得られる反面、成果を継続的な販路拡大に結びつけるには高度な運用力が求められる」アプローチです。この手法を戦略的に活かすためには、目的の明確化と、事後のフォローアップ体制の設計が欠かせません。

【利点1】直接訴求による高い信頼形成効果

展示会の最大の強みは、実際の製品やサービスを目の前で体験してもらえることにあります。パンフレットやウェブサイトだけでは伝わらない質感や性能を五感で訴求できるため、商談の初期段階で相手企業の関心を具体的な検討レベルまで引き上げることが可能です。

また、来場者との対話を通じてニーズを直接把握できることから、マーケティングリサーチの一環としても有効です。特に、新興国市場では「誰から買うか」が信頼形成の鍵を握るため、対面での印象や誠実な対応がそのままブランド評価につながるという効果もあります。

【利点2】業界関係者とのネットワーク構築

展示会は、単なる商談の場にとどまらず、業界関係者や同業他社、サプライヤーとのネットワークを形成する絶好の機会でもあります。出展者同士の交流や共同セミナー、関連イベントを通じて、新たなビジネスパートナーや販売チャネルの発掘につながるケースも少なくありません。現地の業界団体や政府関係者と接点を持つことで、将来的な規制動向や入札情報を早期に把握できるなど、情報面での優位性を得ることもできます。

【利点3】市場理解とブランド露出の加速

展示会に参加することで、現地市場の温度感をリアルタイムに把握できます。来場者の反応や質問内容を分析すれば、競合との差異や価格感度など、現地ニーズの方向性が見えてきます。さらに、メディアや業界誌、インフルエンサーが来場するケースも多く、ブランド露出や広報効果を同時に得られるのも大きな利点です。特に海外初進出の企業にとっては、展示会が「名刺代わり」として機能することもあります。

【利点4】デジタル施策との親和性

近年では、展示会をオンラインマーケティングのハブとして活用する企業も増えています。出展情報をウェブ広告やSNSで事前に発信し、会期中は来場者のデータを収集、終了後にはリードナーチャリングへとつなげることで、オフラインとオンラインの融合が可能になります。展示会は、リアルイベントでありながら、デジタル営業活動の起点として位置づけることで、ROI(投資対効果)を大きく引き上げることができます。

【課題1】高コスト構造 投資に見合う成果を上げにくい

展示会出展には、ブース施工費や装飾費、サンプル輸送費、スタッフ渡航費、宿泊費、通訳費など、さまざまなコストがかかります。一般的な海外展示会では、数百万円後半に達するケースも少なくなく、準備から運営までの負担は決して軽くありません。成果がすぐに売上に結びつかない場合、費用対効果を正当化しにくいという問題があり、来場者の質にばらつきがある展示会では、実際の商談につながらないケースも多く見られます。結果として、「参加すること」自体が目的化してしまう危険性があります。

【課題2】商談機会の難しさ 来場者の質は高いが、現場対応で差が出る

展示会の来場者は、情報収集だけでなく、具体的な商談や新規調達を目的とした「意思のある来訪者」が多く、商談の質そのものは高い傾向にあります。しかし、欧米企業と横並びで出展した際、言語力やプレゼンテーション力、即応力といった現場のパフォーマンスで劣るケースが少なくありません。現地語対応や技術的な質問への回答が十分にできず、せっかくの関心を深掘りできないまま商談が終わってしまうこともあります。

また、現地で雇用した臨時スタッフに頼りすぎると、製品理解や顧客対応の精度が下がり、コミュニケーションの質が担保できないという課題も生じます。本来は「良質な商談機会」であるにもかかわらず、現場対応力の差によって成果を取り逃してしまうことが、日系企業に共通する落とし穴といえます。

【課題3】フォローアップ体制の欠如 「出展したまま」では成果が続かない

展示会の効果を左右するのは、会期後のフォローアップの精度です。獲得したリードの管理や優先順位付け、継続的なコミュニケーションを行う体制が整っていないと、せっかくの商談機会が短期間で途絶してしまいます。特に、展示会後にCRMやメールマーケティングなどの仕組みを活用できていない企業では、「出展して終わり」の状態に陥りやすく、累積効果を得られません。

また、来場者側の担当者も、帰国後に自社業務へ戻ると日常のタスクに追われ、連絡や検討が後回しになるケースが少なくありません。その結果、展示会で得た名刺や接点が有効活用されないまま時間が経過し、商談機会が自然消滅してしまうことが多いのです。

【課題4】展示会単独では継続性を確保しにくい 都度ゼロベースの活動になりやすい

展示会は、一度の出展で大きな商談機会を得られる可能性がある反面、開催ごとにゼロからのスタートになるという特性を持ちます。出展企業や来場者層が毎回異なるため、過去の成果を積み上げにくく、継続的な販路拡大につなげるのが難しいのが実情です。

また、イベントの開催時期や開催国の景気動向に左右されるため、海外展開の軸として安定的に機能させることは難しいという側面もあります。季節要因や国際情勢など外部環境の変化によって出展機会が減少すれば、商談機会そのものが限定されるリスクもあります。展示会は、あくまで「一時的な接点形成の場」であり、持続的なリード創出や顧客関係の維持には、他のチャネルや施策との連携が欠かせません。

まとめ

展示会を成果につなげるためには、まず「目的の明確化」と「設計の一貫性」が欠かせません。単なる販促イベントとしてではなく、「どの市場で、どの顧客層に、どのようなメッセージを届けるのか」を明確にした上で出展を決定することが重要です。展示会選定の段階から、リード獲得・ブランド露出・販売代理店探索など、具体的な成果指標(KPI)を設定し、社内で共有しておくことで、出展後の検証精度が格段に高まります。
 
次に、会期前・会期中・会期後の三段階で戦略を立てることが成功の鍵になります。出展前には、来場予定者リストやSNS広告を活用して事前にアポイントを獲得し、当日の商談率を高める。会期中は、ブース設計やデモンストレーション内容を、現地の文化・言語・来場者層に合わせて最適化する。そして会期後には、CRM・メールマーケティング・ウェビナーなどを活用して、短期間でフォローを完了させる仕組みを整える。この三段階を意識するだけでも、展示会のROI(投資対効果)は大きく改善されます。
 
また、展示会を単発の施策ではなく「他チャネルと連動する起点」として設計する視点も重要です。展示会で獲得したリード情報を、海外営業DXやオンライン商談、現地販売代理店との提携などへと連携させることで、リードの「生きた活用」が可能になります。展示会は、単独で海外展開の軸になる手法ではありませんが、他のアプローチを効果的に接続する「ハブ」として位置づけることで、持続的な販路拡大を支える強力な手段となります。
 
つまり、展示会を成功させるポイントは「場を活かす」ことにあります。出展そのものを目的化せず、事前準備・現場運営・事後フォローを戦略的に統合できるかどうかが、海外市場で成果を上げる企業とそうでない企業を分ける分水嶺となります。