「ツールを導入し綺麗なダッシュボードはできたが、現場の行動が変わらない」
「施策データはあるが、最終的な売上への貢献を証明できない」
「全社横断組織をつくったが、各事業部から敬遠され“下請け施策部隊”と化している」
BtoBマーケティングに取り組む多くの企業が陥りながらも、社外に明かされることのないこのデータ活用の課題に、私たちはどう立ち向かうべきなのでしょうか。
2026年6月23日、電通本社で開催されたエンタープライズ企業向けの完全招待制勉強会「B2Bコネクト」。第4回目となる今回は、データドリブンマーケティングの現在地に潜む「罠」と、大規模組織における「横断マーケティング組織の立ち上げと進化」をテーマに実務家たちが本音をぶつけ合いました。
INDEX
NTTドコモビジネス株式会社 ビジネスソリューション本部 事業推進部 グロースマーケティング推進室長
徳田泰幸氏
第4回を迎えた「B2Bコネクト」勉強会の幕開けにあたり、本会の座長を務めるNTTドコモビジネスの徳田泰幸氏が登壇。
徳田氏は、過去の勉強会で議論されたレベニューオペレーションの推進やデータの構造化、そして前回の「顧客価値起点マーケティング」におけるアライメントの重要性など、これまでの歩みを振り返りました。
そのうえで、AI時代を迎えた現代のマーケティング環境において、「企業は本当にデータを事業成長や現場の意思決定に活かせているのでしょうか」と問題を提起。データ活用を推進するうえでBtoB企業が陥りがちな罠があると指摘します。
「高価なBIツールを導入した後、きれいにビジュアル化されたダッシュボードやグラフを眺めるだけで満足してしまい、分析結果に基づいて次にどのような具体的アクションを起こすのかという意思決定が全く決まっていない状態があります。また、マーケティング部門はBtoB事業において肩身の狭い思いをすることが多いものです。そのなかで我々マーケターがどのように存在意義を発揮して成果を可視化していくか、ここに集まるみなさんの共通課題ではないでしょうか」(徳田氏)
会場の意識を合わせたうえで、徳田氏は「ツールを入れること自体をゴールにするのではなく、『こんな施策をしたらこの数値が上がる』という正の相関、あるいはそれを検証できる仕組みをいかに泥臭く作れるか。それこそが、我々マーケターが社内で価値を証明するための術である」と語り、参加者からは共感の頷きが漏れました。
さらに徳田氏は、この「偽データドリブンの罠」から脱却し、真のデータドリブンへと進化するためには、「自社にとって本当に価値をもたらす顧客とは誰なのかを、LTVやVOCといった本質的な指標を用いて明確に定義することが必要。さらに、定義した「良い顧客」の基準を、営業や製品企画、SE、さらには経営層も含めた関係者全員の『共通言語』として浸透させなければなりません」と熱弁。
参加者は深く聞き入っていました。
続いては、シークレットゲストとして株式会社NTTデータの上村隆之氏が登壇。同社における横断マーケティング組織「SBX推進室」の立ち上げから現在に至るまでのプロセスを共有しました。
従業員数が多く、多様なソリューションやサービスを展開する組織において、マーケティング機能を横断的に統括する組織を立ち上げることは容易ではありません。
上村氏は、広報や営業出身者など、異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まる組織における意識改革の難しさや、経営層に対して「マーケティングが会社にどう貢献しているのか」を定量的に証明していくジレンマなど、立ち上げ期特有のリアルな葛藤を明かしました。
また、新しい価値を市場に創り出す「創造期」の事業部と、一気に市場シェアを拡大していく「拡大期」の事業部とでは、抱えている課題も、必要とするデータやマーケティング施策も異なると語る上村氏。
「すべての事業部に対して、画一的・水平的なマーケティング支援のテンプレートをただ押し付けるだけでは、現場の本当の課題解決や事業成長には繋がらないと痛感した」と振り返ります。
そこで、従来のアプローチを排し、「各事業のフェーズや特性に寄り添い、縦に深く切り込む支援スタイルへと、アプローチをダイナミックに適応・進化させていった」というストーリーに、会場の注目が集まりました。
セッション後に行われたワークショップでは、徳田氏の問題提起や上村氏の課題提起を受け、熱を帯びた議論が展開されました。
特定の個社事例にとどまらず、BtoB企業に共通する「組織とデータの普遍的なテーマ」として、参加者全員が主体的に自社の実情を語り合う「学び合い」に発展。
徳田氏が「普段の業務でうまくいかない部分や、ちょっと格好悪い失敗を打ち明け合い、アドバイスをもらいながらみんなで『慰め合う』。それこそがこの勉強会の素晴らしいカルチャー」と語った通り、次のようなBtoBマーケティングにおけるオープンで生々しい実態が共有されました。
「高度なBIシステムを構築し、素晴らしいデータダッシュボードを用意しても、現場の営業や事業部が『自分たちの成果を上げるためのものだ』と理解してくれなければ、データは形骸化してしまう」
「画一的なリード獲得支援から、各事業のフェーズに合わせたイネーブルメントへとシフトしていく必要がある」
一連の議論を受け、アドバイザリーを務めるパナソニック コネクトの関口昭如氏は、「バリュープロポジションを定義するのは言葉としては簡単だが、競合もいるなかで他社にない本当の独自価値は簡単に見つかるわけがない。だからこそ、1社に10時間以上を費やすような、泥臭い『N1洞察』を徹底的に繰り返し、本質的な顧客理解を積み上げるしかない」と、実務家としてのストイックな信念を力説しました。
また、そのうえで「横断組織の担当者は、単に全社共通のツールや画一的なフレームワークを上から押し付けるのではなく、各事業の現場に寄り添い、それぞれの真の課題へと踏み込むべきである」とアドバイスを提示し、組織とデータの連携に悩むマーケターの背中を後押ししました。
今回の第4回勉強会からは、日本のBtoB領域全体をさらに盛り上げ、新たなエコシステムを共創するための革新的な試みとして、BtoBベンチャーによる5分間のピッチを開催。
独自の強みと先進的なアプローチを持つ気鋭のベンチャー企業2社が登壇。参加者へ新たなインスピレーションを提供しました。
最初にプレゼンテーションを行ったのは、パートナー企業との関係構築を支援する株式会社パートナープロップの磐崎友玖氏。複雑になりがちなパートナー企業とのデータ連携やPRMを効率化し、代理店・パートナー経由の営業活動を最大化するソリューションを提示しました。
磐崎氏は、「マーケティング部門が見るべき範囲は社内にとどまらず、パートナー企業を含めたイネーブルメントにまで広がっている」 と語り、営業チャネルの多様化に対応する新たなマーケティングのあり方を訴えかけました。
続いて登壇したのは、入力作業を極限までなくすAIネイティブな次世代CRMを提供する株式会社SYSLEAの船木利祐氏です。
営業現場の最大のボトルネックである「データ入力の負担」をテクノロジーで解決する革新的なアプローチを披露。
日々の入力作業から現場の営業を解放し、大企業のデータ活用を足元からアップデートするソリューションは、多くの参加者に新鮮な驚きを与えました。
イベント終了後、座長を務める徳田氏は、「データドリブンのサイクル構築という課題に対し、皆で本気で議論できたことが、本日何よりも素晴らしい成果でした」と、議論の質の深まりを高く評価しました。
また、シークレットゲストとして登壇したNTTデータの上村氏は「自社の取り組みをただ発表するだけでなく、他社の皆様と双方向にディスカッションできたこと。そして、何よりも他社も自分たちと全く同じことで悩み、もがいているのだと気づけたことが非常に大きかったです」と語り、クローズドな場だからこそ得られた連帯感と安堵感を口にしました。
この「B2Bコネクト」は、回を重ねるごとに大企業のマーケターたちが鎧を脱ぎ、本音で繋がることができる稀有な場となっているようです。
そして、ピッチに登壇したSYSLEAの船木氏は、「エンタープライズ企業の皆様が、データの入力や組織の壁といったリアルな悩みに真摯に向き合っているその熱量に圧倒されました。私たちスタートアップが、そうした現場の課題に対してテクノロジーでどう役割を果たしていくべきか、改めて深く考えさせられる貴重な機会となりました」と、大企業とベンチャーの共創への強い手応えを語りました。
単に自社の課題解決を模索するだけでなく、「日本のBtoBビジネス全体をアップデートしていく」という大きなビジョンのもと、異なるバックグラウンドを持つマーケターたちが「答えのない課題」に共に立ち向かう「B2Bコネクト」。
第4回は過去最高の盛り上がりのなか、熱狂と一体感に包まれながら閉幕しました。