最近のテクノロジーの進化により、地方自治体でもRPAの導入が進んでいます。しかし、その具体的な活用方法はまだあまり知られていません。
一部の自治体では、RPAを使って膨大な書類のデータ入力や管理作業を自動化し、職員の業務負荷を軽減しているようです。例えば、市民からの問い合わせ対応や、予約受付などのフロント業務を効率化するためにRPAが活用されています。
また、RPAは災害対策や観光業の振興など、地方自治体特有の課題にも応用可能。災害時には、RPAを使って迅速に情報を収集・分析し、適切な対応策を立てることができます。観光業の振興では、RPAを活用して観光客の行動データを把握し、地域の魅力を最大限に引き出す施策を考えることも可能です。
RPAの活用は無限大で、地方自治体の新たな可能性を切り開いています。本記事では、地方自治体のユニークな活用事例から、RPAの多彩な活用イメージをお伝えします。RPAの活用手法に興味がある方はぜひご覧ください。
INDEX
近年、地方自治体におけるRPAの導入が急速に進展しています。いくつかのグラフを元に、導入状況を見ていきましょう。
2023年の総務省の調査データによれば、全国の都道府県で94%、指定都市では100%がRPAを導入しているようです。この導入率は、2019年時点での30%から40%という数値から見て、僅か5年間で大幅に増加したことが確認できます。また、市区町村でも導入率は36%に達しており、全国規模でRPAの導入が進んでいることが明らかとなりました。
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」令和5年6月30日版
さらに、AIの導入率も非常に高く、都道府県、指定都市ともに100%、市区町村でも45%がAIを導入しています。
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」令和5年6月30日版
RPAの導入分野を見てみると、「財政・会計・財務」が最も多く、続いて「児童福祉・子育て」「健康・医療」などの分野が増加傾向にあるようです。
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」令和5年6月30日版
AIの導入分野では、「音声認識」が最も多く、その他に「文字認識」「チャットボット」などが広く導入されています。
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」令和5年6月30日版
RPAやAIの導入には課題も存在します。導入にあたっては「人材不足」や「コスト獲得の困難性」が大きな課題となっており、とくに市区町村では「他に優先すべき業務がある」「技術理解が難しい」などの課題が増加しているようです。
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」令和5年6月30日版
これらを踏まえて、実際にどのような導入がなされているのか、4つの自治体活用事例を見ていこうと思います。
東京都狛江市では、国民健康保険のレセプト(診療報酬明細書)へのAI活用ならびに入力作業をRPAで自動化し、歳出削減に繋げながらレセプト点検効果を向上させています。
従来より職員3名でのレセプトの資格・内容点検を実施しており、それによる被保険者一人当たり財政効果額も都内26市の中で毎年上位を獲得していた狛江市。しかし年々順位が下がっていたため、レセプト点検業務の見直しを考えていました。
ちょうど事業者より、AIを活用したレセプト自動点検システムと合わせてRPAを提案され、業務効率につながることから、導入を決定しました。
導入にあたっては、慎重な事前準備を行っています。RPAのシナリオ作成を事業者に依頼する際も、作業の可視化や業務目的のすり合わせを行い、共通認識の元に作業を進めていきました。
具体的な導入内容としては、まずレセプトデータを自動点検システムに取り込み、AIにて診療内容の点検処理を実行。もし疑惑のあるレセプトが発見されると再審査を行うため、改めて外部点検データが作成され、国保総合システムに取り込まれます。
ここでRPAが国保総合システムを操作し、点検データを元に再審査の申出登録を行うといったものになります。
・年間4,212時間の業務時間削減(削減率97.5%)
※導入前後の点検・入力作業時間を単純比較
・過誤または再審査の件数:月80件ほどだったものが月500件以上にまで増加
・処理日数:20日程度かかっていたものを1日程度にまで短縮
・歳出削減効果:予算ベースで年間4,271千円の削減(削減率64.2%)
・レセプト点検効果(財政効果額)の向上
・人的な入力誤りが減少
・他の業務へのリソース増加
レセプト点検業務で大きな導入効果を感じたことから、担当課では今後他の業務活用への期待も高いようです。
参考:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」令和3年1月
佐賀県佐賀市では後期高齢者に関わる申請書データ入力にAI-OCRとRPAを活用し、入力作業の自動化を図りました。
近年職員数が減少し、一人当たり業務負担が増えていた佐賀市。とくに保険年金課をはじめとした窓口業務では、住民から提出された申請書の内容をシステムに転記するなどの単純作業が多数発生しており、大きい負担がかかっている状況でした。ほか明文化されていない処理手順も存在し、業務の持続性リスクも抱えていました。
そこで行政改革の一環としてRPAを全庁規模で検討し、業務時間の大幅削減計画を立てた上で導入を決定。
どのような業務にRPAが活用できるのかといった判断基準がなかったため、手探りで導入を進めた。佐賀市。全庁に詳細な業務フローのヒアリングを行った上で、導入する業務を選定しました。
具体的な導入内容としては、まず対象の帳簿をAI-OCRで読み取り、CSVファイルで保存。その後RPAでCSVファイルの内容を読み取り、後期高齢者医療制度のシステム上で被保険者を検索、入力画面に遷移し帳簿内容を転記するといったものになります。
・計15業務で年間1,910時間の業務時間削減(削減率92.05%)
・とくに後期高齢者医療業務にて年間789時間の業務時間削減(削減率90.06%)
・RPA導入準備段階で、業務の可視化や必要性の検証を実施
・可視化した業務とRPAのシナリオを紐づけ、業務継続性のリスクを低減
・ヒューマンエラーが低減し、処理の正確性向上
・職員の負担低減
・職員がデジタルツールになじみを持ち、今後の活用を促進するための土壌を創出
佐賀市では引き続き事業効果を拡大すべく、RPA導入可能な業務の検討を実施中とのことです。
参考:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」令和3年1月
新潟県長岡市では住民の健康管理分野にて、多数の業務をRPAで自動化し、効果の積み上げを達成しています。
数年前より「長岡版イノベーション」を推進し、新しい発想や技術を活用した行政効率化に取り組んできた長岡市。課題把握のため全庁アンケートを行ったところ、300もの膨大な課題が挙がりましたが、いくつかはRPAにて代替可能な業務課題もあることがわかり、導入を決定しました。
長岡市では専門の課が主体となって進めるのではなく、自主的な取り組みを促進すべく、各業務担当課が主体となりRPAの導入を図っています。
具体的な導入内容としては、健康診断の予約受付や結果通知、訪問指導に使用する資料作成業務にRPAを活用。年間の処理件数が多く、繰り返し作業が多い入力業務にとくに効果を発揮しているよいうです。
・7課18業務で年間4,136時間の業務時間削減(削減率87.9%)
・とくに健康管理業務にて年間834.4時間の業務時間削減(削減率91.5%)
・業務担当課職員が主体の導入により、現場に即した業務改善を達成
・超過勤務や単純作業の削減により、職員のモチベーション向上
・業務効率化により、施策検討等へのリソース増加
・これまで手をつけられなかった案件への対応時間創出
・待ち時間の短縮など住民サービスの向上を達成
長岡市では今後も引き続き業務担当課主体で、RPAやAI-OCRの積極的な導入活用を進めているようです。
参考:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」令和3年1月
長野県塩尻市では、保育園の入園申し込みに関わる業務改善にRPAを導入し、業務時間の削減や住民サービス向上を達成しています。
業務の複雑化と業務量の増大化から、全庁的な業務改善が課題になっていた塩尻市。とくに保育圏の入園申し込みに関わる窓口業務の負担が増大しており、職員の負担も限界に来ていたそうです。
そこで全庁的な業務の棚卸しと業務プロセスの見直しのプロジェクトが発足。まずは保育園の窓口業務改善の一環として、RPAやAI活用の実証事業が決定しました。
まずは業務フローの見直しを行い、数ヶ月ほどかけて効果検証を実施。検証の結果、効果が見込まれた業務にRPAを本格導入し、運用に至っています。
具体的な導入内容としては、まず入園申込書を紙から電子サービスに変更。電子サービスで受け取ったデータをRPAで保育システムに入力しています。ほか保育園の利用調整に必要な帳簿の自動作成に活用しているようです。
・保育園窓口業務で年間2,090時間の業務時間削減(削減率67.6%)
※業務プロセスの見直しによる効果を含む
・受付から決定通知発送まで3カ月以上かかっていた期間を2カ月半ほどへと短縮(28.6%の削減)
・決定通知の早期発送や決定後の変更希望への対応、電子申請の導入により、住民サービスの向上
・業務効率化により、新たな業務での既存リソースの確保
・時間外勤務の大幅な削減により、職員のモチベーション向上
塩尻市では保育園窓口業務で効果を感じられたことから、現在他の業務でもRPA導入が進んでいるようです。
参考:総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」令和3年1月
本記事を通して、自治体ごとにさまざまなRPAの導入状況があることがわかっていただけたのではないかと思います。中にはRPAとAIを組み合わせた活用もあり、導入効果も大きい様子が窺えます。いずれも、まずは一部の業務からスモールスタート的に導入している点が特徴。小規模から始めることで、現場も徐々に慣れていきやすく、導入効果も比較しやすいでしょう。
自治体だけでなく、民間でもさまざまな活用事例が生まれています。以下、本記事と合わせてご覧いただくことで、より活用イメージの選択肢が増えるでしょう。ぜひご参考くださいませ。
【RPA虎の巻】AIを活用した、ワンランク上のRPAツール導入効果
ぜひ本記事を自社のRPA導入検討にお役立てください。