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【RPA虎の巻】開発の難易度とコストで2つのシステムを使い分けるアステラス製薬のRPA活用

作成者: B2B Compass編集部|Nov 20, 2024 7:53:48 AM

世界70カ国以上で事業を展開している国内大手の製薬企業、アステラス製薬株式会社。「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」という経営理念のもと、患者のニーズに応える革新的な医療ソリューションを提供しています。

変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者の「価値」に変えるために、ITやデジタル技術の導入による業務改革を積極的に推進。その一手として、2017年にRPA(Robotic Process Automation)を導入し、現在はAutomation Anywhere、Power Automate の2つのRPAシステムを使い分けながら適用する業務範囲を拡大しています。

その活用術について、同社 デジタルX FoundationXの片桐信也氏と于継川(ウ ケイセン)氏にお聞きしました。

DX推進とともに増える「データ活用のためのルーティンワーク」で無駄な時間とコストが発生していた

前立腺がん治療剤や免疫抑制剤、過活動膀胱治療剤など、グローバルで販売する画期的な新薬を数多く創出してきた同社。

RPAの導入以前、同社のなかでも製品開発や生産を担う部門等が抱えていた課題について、于氏は次のように話します。

デジタルX FoundationX 于継川 氏

「DXを推進し、社内でさまざまな業務のデジタル化を実現していましたが、データを集計してシステムにアップロードするようなルーティンワークでは多くの手作業が残り、内製とアウトソーシングの両面で無駄な時間とコストが発生していました。データを活用する業務はDXの推進とともに増え、その負担はさらに大きくなっていたのです」(于氏)

導入の失敗から要件を再整理。2つのRPAシステムを使い分け、開発スピードとコストの最適化を実現

同社はこうした課題を解決するために、2017年に初めて、とあるRPAシステムを導入しました。

しかし、当時は国内でRPAが注目され始めて間もない黎明期で、先駆的な取り組みは課題も多かったと片桐氏は振り返ります。

デジタルX FoundationX 片桐信也 氏

「最初に導入したシステムは1つのRPA Botを作るためにパソコン1台を占有するスタンドアローン型の仕組みでした。そのため、各部署で1台専用の端末を用意する必要があり、誰かが使用している間、他の人は使えません。今後の全社展開を見据えると運用面で難があるため、早々にサーバーサイプで複数のRPA Botを管理できる別のシステムの検討をはじめました」(片桐氏)

その後、改めて実用性を踏まえて要件を整理し、採用したのがAutomation Anywhereです。選定の理由について、于氏はこう話します。

「Automation Anywhereは業界のなかでもメジャーなツールのひとつと認識しており、機能性はもちろんのこと、技術面のサポートが充実していることにも期待しました。また、同社はグローバルでビジネスを展開しているため、多言語に対応した仕組みであることも必須条件でしたが、Automation Anywhereはその点もクリアしています。そして、権限管理ができることや、監査証跡ログを活用して操作ログとBotの実行ログを記録できることなども、弊社の監査とセキュリティ要件を満たしており、採用の決め手になりました」(于氏)

導入にあたっては、デジタルX FoundationX(旧:情報システム部)が主管となり、複数の部署でRPAの適用を視野に入れた現場課題のヒアリングを実施。業務プロセスを洗い出し、候補にあがったユースケースをROIなどの基準で評価したうえで、システム化の有効性が期待できる業務から順次RPAを適用していきました。

同社はAutomation Anywhereの活用を進める一方で、2022年にはMicrosoftのエンタープライズライセンスとして無償で使えるPower Automateの併用を開始。2つのRPAシステムを使い分けることで開発スピードとコストの最適化を実現しています。

「Automation Anywhereによる開発にはエンジニアリングの専門知識が必要になり、1つのRPA Botを作るうえではコストも時間もかかります。一方でPower Automateはノーコードでプログラムを作成でき、高度な技術は必要ありません。そのため、複数の業務プロセスを跨ぐような難易度の高いRPA Botは、デジタルX FoundationXが主導してAutomation Anywhereで開発し、簡単な業務プロセスの自動化は各部署がPower Automateを使って順次進めています」(片桐氏)

RPAの具体的な活用事例。業務プロセスを見直せる副次的な効果も実感

現在、同社はさまざまな部署において複数の業務でRPAを活用しています。

一例として、生産技術部門では、各部門の製品担当者から製品生産関連データを集め、前処理をしたうえでデータ分析システムに投入するというプロセスをAutomation Anywhereで自動化しました。以前は取得した生データをマクロで加工し、決められたフォルダに格納するなど複数の工程でそれぞれ守るべきフローやルールがありました。そうした一連の作業を自動化したことでデータの精度が向上するとともに、RPAを夜間に稼働させることで、翌日すぐ分析できるようになり、業務のスピードは飛躍的に上がりました

もう一つの例は、ファーマコヴィジランス部における安全性情報管理業務プロセスの自動化です。世界各国の患者や医療関係者から報告される製品に関する安全性情報を評価、監視し、必要に応じて当局への報告や安全対策立案を行うために、ファーマコヴィジランス部では情報を収集し、データ処理を行っています。新しいケースを受領した後、過去の症例と合致したものがあるかどうか、またはデータが正しいかどうかといった判別作業や、システムへのデータ取り込みなど、一連の業務プロセスをすべてRPAで自動化しました。

RPAの導入効果について、于氏は次のように語ります。

「日々のルーティンワークを自動化することにより、作業効率と生産性は飛躍的に向上しました。従業員はより付加価値が高い作業に集中できるようになり、同時に誰でもできるような繰り返し作業にかかっていた人件費は削減できました」(于氏)

さらに、片桐氏はRPAを導入するうえで「既存業務のプロセスを見直し、改善するという副次的な効果もあった」と話します。

「RPAは導入の検討段階で、まず対象とある既存の業務プロセスの評価を行います。そのため、結果的に業務プロセスを見直し、最適化する非常に良い機会になっていますね。業務の手順や手法を改善した結果、RPA Botを使うまでもなく業務プロセスが最適化されたケースも多くあります」(片桐氏)

RPA導入が成功した秘訣と気付いた課題。さらなるRPA活用の展望

同社のRPA活用は進み、各部署からのニーズは絶えません。現場にうまく受け入れられ、定着している理由について、于氏は次のように話します。

「そもそも『ルーティンワークで業務がひっ迫している』という現場からのニーズを受けてRPAを導入しました。そのため導入当初から使いこなせないという否定的な意見は少なく、各部署がなんとかRPAを有効に活用しようとする前向きな姿勢であったことが、スムーズな定着に繋がったと思います。当然我々も、ビジネスプロセスを把握したうえでチャートにしてもらう。既存のビジネスプロセスを把握したうえでRPAを使う際のドキュメンテーションも作成し、フォローアップしていきました」(于氏)

その一方で、RPA活用で感じている課題感を片桐氏はこう語ります。

「業務フローに変更が発生するたびに、RPAプログラムも合わせて都度改修する必要があります。特に近年は多く使用しているクラウドシステムに関して、インターフェースなどのシステム更新頻度も高くなり、RPAプログラムもその影響を受けやすくなりました。この辺りはユースケースの評価フェーズで一つの注意すべきポイントだと感じています」(片桐氏)

当初はシステム選びでの失敗を経験しながらも、2つのシステムを使い分けるという独自の活用方法を確立し、効果を最大化したアステラス製薬のRPA導入。

最後に、今後のRPA活用の展望について両氏は次のように語りました。

「今後はさらに導入部署の範囲も広げていきたいですね。そのうえで、Automation Anywhereの機能として搭載されている「OCR/文字認識」も活用していきたい。また、生成AIと組み合わせた利用の可能性にも期待しています」(于氏)

「現状の課題と制限をなくしつつ、社内展開により力を入れるために、エンタープライズ型のRPA開発だけではなく、開発とメンテナンス費用を最小限に抑えられるPower Automateのような市民開発型のRPAをより有効活用していく必要があると考えています。エンタープライズ型のRPAの開発費用の初期投資に効果が見合わないような小規模業務でのRPAニーズも増えており、そういったユースケースを市民開発型で実現していきたいです」(片桐氏)